リトル・ランサー~ふたりの出会い~
――ああ、 まただ。
また大人達が叫んでいる。
そしてぼくはその理由を知っている。
みんな話してくれなかったけどちゃーんとこの眼で気づいたからね。
だから父さんに言ってやったのさ。
まだ人が残っているよって。
そしたらこの大騒ぎなんだからイヤハヤマッタクってやつだ。
じいちゃんならそうぼやいておでこを叩いただろうね。
そんなわけでみんなが騒いでいる中、
一人だけじいちゃんみたいな人が座って頭を下げていたんだ。
『頼む行かせてくれ。 生き残りがいるのならせめて儂が!』
あんなに頼んでいるんだから行かせてあげればいいのに。
ぼくはそう思ったよ。
視た感じかなりデキるってやつだ。
これもじいちゃんの受け売りだけどね。
何日かしてじいちゃんみたいな人が女の子を連れて帰ってきた。
どうやら行かせてもらえたみたいでなによりだ。
頼み込んだかいがあってよかったねって思ったよ。
けどその人両手を縛られて連れていかれちゃった。
助けてきたのにどうなってんだろ?
まあ探し人も見つかったしこの話はめでたしめでたし。
なんだけどぼくにとってはそうじゃあなかったんだ。
なんてったって探し人が子供だったんだから。
やったぜってガッツポーズしたよ。
この街じゃ子供が少ない上に外で遊ぶわんぱくがいないんだ。
じいちゃんがよく嘆いていたっけ。
ぼくの考えはもうわかっただろう?
あの子と友達になって霧の中を連れまわしてやるのさ!
ネットでわんぱく仲間を自慢される生活ともこれでオサラバよ!
って盛り上がってたら女の子もどこかに連れていかれちゃった。
けどまあ予想はつく。
霧に迷って弱った人は大抵ホスピタルへ運ばれるからね。
やれやれ仕方のない。 ぼくがお見舞いに行ってやろう。
そうとなれば情報収集だ。
バカ正直に訊いても意味はない。
子供はあっちにいってなシッシッされるのは学習済み。
だから気づかれないように喋ってる人の後ろに立つのさ。
これじいちゃん仕込み。
『あの娘の身分照会は済んでいるのか?』
『はい、 それなんですが……記録されてるのは“掛け名”です』
『MRMSか。 不憫な子だ』
話は全くわからなかったけど、
今ごろ女の子は落ち込んでいるに違いない。
ぼくは決意を新たにホスピタルへ向かった。
そして来なくていいって追い返された。
オトトイキヤガレってやつだろう。
じいちゃんが凹ました相手によく言ってた決め台詞だ。
けど凹まされたままじゃあいかないんだよこっちだって。
突然だけどここでぼくの相棒を紹介しよう。
名前は徳松。
柴犬によく似た雑種犬だ。
以前はこいつとじいちゃんとぼくで霧の中を大冒険したものさ。
今はじいちゃんがいないから唯一無二のパートナーといってもいい。
いつも楽しそうに巻いた尻尾をふりふりしてる。
けどやるときにはやるヤツだ。
そんなおまえに特別な任務を与えてやろう。
前回ぼく達はペットをホスピタルに入れるな!
ってこっぴどく叱られた。
知らなかったんだよしょうがないじゃないか……。
しかしあえてこの手をもう一度使う。
おまえが騒ぎを起こしている間にぼくが侵入するって作戦だ。
『ワン!』
いい返事だ。
うまくいったらおやつをやろう。
それともボール投げがいいかい?
『ワンワン!』
両方だって? 仕方のないやつだ。
じゃあ、 いくぞ。 うまく逃げ回れよ!
『ワワワン! ワワワン! ハッハッハッハッ!』
おー徳松めっちゃ走っていった。
前回走り足りなかったんだろう。
そしてナースさんがすごい形相で追いかけていった。
ま、 まあ首輪つけてるしむごいことしないよね。
後ですっとぼけながら謝れば大丈夫きっと大丈夫。
とにかくぼくも行動開始だ。
入院ベッドに当たりをつけていたから女の子はすぐに見つかった。
けどそこで計算外の出来事が起こっていたんだ。
女の子が徳松の頭を撫でていたんだよ。
あいつぼくより先に友達になりやがって、
なんて足が速くて手も早いやつ!
出遅れてしまったがここは飼い主として、
一言ご挨拶をしなくちゃいけない。
いやーうちの徳松がお世話になりまして……ってやつだ。
あれ、
待てよ。
ここに徳松がいるってことは――。
『ハァーハァーハァーそこにいたかクソガキャア!』
ナースさんめっちゃ怖かった。
けど意外にもナースさんは女の子との面会を許してくれたんだ。
よかったな徳松。
もう一度おまえを使う必要がなくなったぞ。
で、 日を改めて会ってみたんだけど、
これがアチャーって感じだったよ。
話をしていても心がふわふわしてるしそれに目がね、
ぼくを見てるようで見ていない。
こーゆーの霧に迷った人がよくかかるんだ。
帰ってきたのに還ってきてないってやつ。
やれやれ仕方のない。
女の子を一人前のわんぱくにするため、
ぼくが一肌脱いでやろうじゃないの。
じいちゃんの口癖を真似てぼくはそう決意したんだ。
といってもね、
特別なことをするわけじゃない。
ただ毎日お話するだけ。
まあ普通の雑談でもいいんだけど、
折角だからぼく達の霧の中での冒険譚を聞かせてやったのさ。
それからは外出許可が下りたら徳松の散歩に誘う。
まとまった時間をつくれたら冒険譚の現地巡りをする。
女の子の上に病み上がりだから近場しか回れないけど、
こうやってすこーしずつ霧に慣らしていったってワケ。
恐怖心を好奇心で上書きするのがじいちゃん流。
ぼくもこうして克服したから間違いない。
現に女の子のわんぱく化計画は順調に進んだからね。
あの怖かったナースさんも喜んでくれたから、
ご褒美に徳松を病室へ入れたいって頼んだらダメって即答されたよ。
ケチ。
お読みいただき、ありがとうございました。
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