9.アイリスと話し合い
「それで、何があったのじゃ?」
アイリスの家に連れていかれた私は速攻でソファーに座らされて問い詰められていた。
「いや、その、あの……」
なんて言えばいい!? どこから説明すればいい!? でも、全部話してアイリスには心労をかけたくないというか……。本当にお世話になっているから、迷惑をかけたくないというか。
一人で縮こまって唸っていると、正面のソファーに座っていたアイリスがため息を吐いた。
「なんじゃ、追放されたリアナを追って来た私に、何も言えないじゃと? それはそれで悲しいのじゃが……」
そう言って、悲し気に目を伏せられると心臓が痛い。そうだよね……王都を追放された私を心配して、こんな最前線にまで来てくれた幼馴染に余計な心配をかけるなんて……。
心配をしてくれる人を悲しませるなんて、私はなんて悪い人間なんだ! うぅ、こんな私でごめんなさいっ! そんな心配はかけたくないのに、どうしていつもこうやって――。
「……ふう、私の言い方が意地悪だったみたいじゃな。どうせまた、ド陰キャを拗らせておるのじゃろう?」
「うっ! ……はい、すいません」
「小さい頃から陰キャ気質じゃったが、聖女になってからそれが強まって、追放をきっかけにバージョンアップしおって……」
呆れたため息が漏れるのを聞くと、さらに申し訳なくなってくる。本当に、本当にアイリスには頭が上がらない。
「じゃが、本当に聖女になって暫く経ってからリアナは可笑しくなった。ド陰キャになった原因があるんじゃないか?」
強い目を向けて、真相を探ろうとする。鋭い指摘に胸が痛む。本当にもう、何もかもお見通しで、たくさんの心配をかけてしまっている。
だけど、あのことは言えない。言ったらきっと余計に心配かけてしまし、絶対に怒ってしまう。怒ったら何をするか分からない……もしかしたら犯罪者になってしまうかもしれない。
そんなことは絶対にさせない。だったら、自分の胸に閉じ込めておけばいいだけ。そうすれば、アイリスも安全だと思う。
辛い思いを押し込めて、私は笑顔を見せる。
「え、えへへ……ちょっと私の祝福が普通とは違ったから、嫌な目にあっただけだから」
「それが本当なら、この天才魔法使いが骨の髄まで分からせてあげるのじゃが……」
「そ、そんなことしなくてもいいよ! これは、私の問題だから!」
「じゃからと言っても、放っておけるほど私は薄情じゃない。少しでもリアナの力になりたいと思っている」
真剣にそう言ってくれる。こんな私を見捨てずに一緒にいてくれる人は少ない。だから、余計な心配をかけたくない。
「……と、この話を掘り返す前に、今の方が大切じゃったな。それで、輝剣の姫騎士と万敵殺しの女傭兵と名高い二人の英雄が、どうしてリアナに興味を持ったのじゃ?」
「あっ……そこまで話が……」
私が観念したように肩を落とすと、アイリスは腕を組み、小さく唸った。
「輝剣の姫騎士は王国最強と名高い姫騎士。戦場では一人で敵陣を切り裂き、軍勢ごと押し返す。一騎当千とはまさにあの姫騎士のためにある言葉じゃ」
そこで一拍置き、首を横に振る。
「じゃが、本質は強さではない。あやつは、王国のために剣を振るう人間じゃ。私情より職務を優先し、自分の願いすら後回しにして王家と民を守り続けてきた。任務だから戦う。守るべきものがあるから戦う。ただそれだけで、自分のために動くような人間ではない」
アイリスの言葉に抵抗はない。以前のイメージそのものだから。
「そして、万敵殺しの女傭兵。依頼さえ受ければ、人であろうと魔物であろうと、竜であろうと悪魔であろうと討ち果たす。勝てぬ敵など存在せぬと言われる化け物じゃ」
こうして聞くと、本当に凄い人だ。でも、それだけ名高いことは知っている。
「じゃが、あやつは誰にも寄りかからぬ。仲間も作らず、組織にも属さず、ただ一人で戦場を渡り歩いてきた孤高の傭兵じゃ。情に流されることもなく、必要以上に誰かへ執着したという話も聞かぬ」
そして、私を真っ直ぐ見据える。
「つまりじゃ。一人は王国のためだけに生きてきた騎士。もう一人は戦うことだけを生き甲斐にしてきた傭兵。どちらも戦うことを人生の中心に据えてきた英雄じゃ。その二人が、戦場とは無縁のお主に揃って興味を持つなど……普通では考えられぬ」
「ふ、普通はそうですよね。興味を持ってもらうのはありえないので……」
そう、私はただの祝福係。二人にとって、気休めにしかならない程度の力しか与えられていなかった。それなのに――。
「今では甲斐甲斐しく通い、一緒に過ごしたりしているのじゃろう? まるでリアナが二人を狂わせてしまったように」
「えっ!? ……私はいつも通りにしていただけですけれど」
そういうと、アイリスがジト目でこちらを睨みつけてきた。まるで、信用していないかのような目だ。
「はぁ……いつも通りね。それが原因だとは思うんじゃが……」
「いや、私はただのド陰キャで……そんな、人を狂わせるようなことは……」
「自覚がないのも困ったのう……」
なんでアイリスがそんな重たいため息を吐くのか、分からない! 私は普通に接してきたはずなのに、一体どうしてこうなったのか分からないのに!
「で、そんな二人に唇のキスを狙われていると……」
「それはその……私が好きな人じゃないとキスしないって言ったので、二人は私を口説き落とそうと……」
「まーた、リアナは面倒なことを! 自業自得じゃな! 諦めろ!」
「そ、そんなこと言わないで……どうにかしてくださいっ!」
「どうにかって……そうじゃなぁ。リアナを傷つけないようにするには……」
縋りつくように声をかけると、アイリスが腕を組んで考える。そして、ニヤリと笑った。
「じゃったら、分からせるしかあるまい」




