8.幼馴染魔法使いアイリス
あぁ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ! 私……本当に二人に狙われている!
あの距離感は普通じゃありえない! あんな言葉は普通は言わない! がっちり、バッチリ、口説きに来ている!
あぁ、私のせいだ! 私が好きな人じゃなきゃ唇のキスはしないって言ったから、本気で口説きに来ている!
私なんかが二人のキスを奪っていいわけがない! こんな……こんなホコリの私なんかが、最前線の英雄をぉぉっ!
「ちょっと! リアナ、祝福の時間でしょ!」
布団を被ってゴロゴロしていると、ミレイアさんの声がした。ずかずかと部屋に入ってきて、私の布団をはぎ取っていく。
「嫌なことはすぐに終わらせればいいでしょ。そんなちんたらしていたら、嫌な気持ちが溢れるだけじゃない」
「い、いや……今は別のことを考えていてですね……」
「別の事ー? 何を考えたっていうの」
不思議そうな顔をして、ミレイアさんが私のベッドに腰かけた。
うっ、これは話を聞く態勢。私のためにそこまでしなくてもいいのに、申し訳なくなる。でも、ちょっとだけ聞いて欲しいというか……。
「フィオナ様とシグリッドさんが最近妙に距離が近くて……。狙ってきているんですよぉ、最強の祝福を! なんか、私のせいで複雑怪奇な状況になっちゃいまして、本当に自分の馬鹿と頭を叩きたく所存! あぁ、私があんなことを言わなければ、お二人も嫌な役目を背負わずにぃ……あぁああっ!」
「あぁ、最強の祝福ね。狙っているの? そうは見えないけど……。どっちかっていうと、ただ心配しているようにしか見えないわよ。気にしすぎじゃない?」
「でも、いつもよりも会いに来るの多くないですか!? 距離近くないですか!?」
「あぁ、それは二人がリアナに対して優しいから、ちょっと気にかけてあげてって私が言ったんだよ」
……えっ? ミレイアさんが原因?
「二人に優しくされて、少しは元気になったんじゃないの?」
「そ、それはっ!」
こ、ここはなんて言えばいい!? ミレイアさんには普段からお世話になりっぱなしだから、余計な心配をかけたくないし! それに、私のことを考えての行動だったから、ちょっと困ったなんて言えないし!
うぅ、ミレイアさんには嫌われたくない。いつも、迷惑かけてばっかりで、本当に申し訳ないし。その気持ちを蔑ろに……あぁっ!
「……す、少しは元気になりました」
「なら、良かったじゃない。さっ、祝福の業務に行くわよ」
ぐいっと手を引っ張られて、私は部屋を連れ出された。
◇
「……しんどい」
膝から崩れ落ちるように床に座り込んだ。ふ、ふへへ……今日もなんとか、祝福業務を終わらせたぜ。
「ちょっと、リアナ。大丈夫?」
「ちょ、ちょっとだけ休ませてください……。隅でホコリになっていれば、回復しますから……」
そう、私に必要なのは孤独。この心の闇を深くしてくれるのは、孤独しかない。もういっそ、隅から動かなければ……。
「なんじゃ。今日も辛気臭いのう」
俯いていると、久しぶりの声が聞こえてきた。バッと顔を上げると、そこには金髪エルフの少女――アイリスが立っていた。
「ア、ア、アイリスゥ……」
「変な噂が耳にしたから心配して見に来たんじゃが、相当参っているみたいじゃったな」
久しぶりの友人の姿に心の重みが一気に軽くなった。私の幼馴染で魔法使いのアイリス。私が王都を追放されたのに、一緒に着いてきてくれた唯一の親友だ。
「あら、久しぶりじゃない。最近、仕事が忙しかったの?」
「ちょっと、魔王軍に怪しい動きがあってな。それで、駆り出されていたんじゃ。私がいない間、ミレイアにはリアナの事で世話になったのう」
二人がやり取りをすると、アイリスがしゃがんでくれた。
「どれどれ、私がいない間に大変なことになっておったのう。なんでも、唇のキスをすると最強の祝福になるとか」
「うっ! そ、その噂……広がっている?」
「ほんの一部だから、安心せい。そこまで広がっていないし、やりたい奴もいないじゃろう! な!」
笑顔でそう言いますけれど、現実は違うんですよ! 言いたいけれど、言い出すのが恥ずかしいというか、申し訳ないというか……。
その時、頭にチョップされた。
「いたっ」
「また、色々と考えておるのじゃろ。何があったか、説明せい」
「それは、その、あの……」
なんだか言い出せなくてもじもじしていると――。
「実はね、最強の祝福を貰いたいがために、唇のキスを狙っている人がいるらしいっていうのよ」
「ミ、ミレイアさん!」
「別に悪い人たちじゃないし、いいんじゃないとは思っているんだけど」
「ミレイアさんっ!?」
何を思って、そんなことを言い出したのか、私には分かりません! 本当にどうしてそうなった!?
「……はーん、本当に狙っているのか」
アイリスが目を細めて、低い声でいう。なんか、一気に不機嫌になってませんか? そして、その目線で私を見てくる。
「リアナはそれを受け入れているのか?」
「いや、受け入れてないですよ! ただただ、相手に申し訳ない気持ちなので、出来れば止めていただきたいと……」
「そうなの? 結構、仲いいじゃない。いい線、いっていると思うんだけど」
「ミレイアさんっ!」
もうこの人は、もう! でも、強く出れない! 本当にいつもお世話になっているから!
「……詳しい話を聞かせてもらおうかの。ミレイア、ちょっとリアナを借りてもいいか?」
「今日はこの後の業務はそんなにないから、別に良いわよ。司教には言っておくから」
「よし、リアナ。詳しく話を聞かせてもらおうかのう」
そう言って笑うアイリスの圧が強いような。……ただ、聞かれるだけだよね? 別になんでもないよね?
「あっ、出来れば借りる理由とかあれば嬉しいかも。その方が司教も納得するでしょ」
「理由か……。じゃったら――唇のキスは最強なのか検証してくる、とな」
と思ったら、なんかあったーーー! どういうことーー!?




