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ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~  作者: 鳥助
第三章

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35.自分の気持ち

「リアナ。君の気持ちを聞かせてくれ。もちろん、私の側に帰ってきたいよな?」


 セレスティア様は、穏やかな笑みを浮かべながらそう問いかけてきた。その表情には、私が今でも自分を慕っているという疑いが、欠片もなかった。


 ……本当は、もう違うのに。私の気持ちは、とっくに離れてしまっている。


 それなのに、セレスティア様は何も気づいていない。そのことが悲しくて、胸の奥がちくりと痛んだ。


 本当の気持ちを伝えるのは怖い。誰かを傷つけるような言葉を口にするのは、昔から苦手だった。


 だけど――もう逃げたくない。隣にはフィオナ様がいる。シグリッドさんもいてくれる。二人の存在が、震える心を支えてくれる。


 だから私は、小さく息を吸い込み、ゆっくりと顔を上げた。そして、もう逸らすことなく、真っすぐセレスティア様を見つめた。


「……セレスティア様」


 震える声で名前を呼ぶと、セレスティア様は穏やかに微笑んだ。私を慕っているような顔だ。


「まず、伝えたいことがあります」


 私は胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。


「昔の私は、誰にも必要とされていないと思っていました。祝福のことを否定されて、居場所もなくて、毎日が苦しくて……そんな私を助けてくれたのが、セレスティア様でした」


 一度言葉を切り、ゆっくりと息を吐く。


「あの時、庇ってくれたことも、祝福を認めてくれたことも、寄り添ってくれたことも、本当に感謝しています。あの優しさがあったから、私は少しずつ前を向くことができました」


 その言葉に、セレスティア様は安心したように口元を緩めた。だけど、それはもう昔の話だった。


「……だけどそれは、昔の話です。今の私は、違います」


 私は真っ直ぐにセレスティア様を見つめ続けた。震えていた声が、少しずつはっきりとしていく。


「私……キスが嫌だったんです」


 セレスティア様の表情から感情が抜け出る。まるで、そんなことを言われるとは思わなかった様子だ。


「祝福のためのキスじゃありません」


 私は首を横に振った。


「私が嫌だったのは、私の気持ちを知ろうともせず、勝手に決められてしまうことでした。嫌だと思っても、それを伝える前に話が進んでしまうことが、本当に苦しかったんです」


 セレスティア様は目を見開き、信じられないものを見るような顔をした。


「ま、待ってくれ。リアナ……君は同意していただろう?」


 困惑した声だった。まるで、本当に分からないと言いたげだった。


 私は静かに首を振る。


「違います」


 その一言だけで、胸の奥につかえていたものが少しだけ軽くなった。


「私は、人を拒絶するのが苦手なんです。強く言われると、本当の気持ちを言えなくなってしまいます」


 本音を言うのは心が痛くなる。止めてしまいそうな自分に喝を入れるように、自然と拳に力が入れた。


「本当は、同意なんてしたくありませんでした」


 今まで一度も言えなかった言葉が、ようやく口から零れ落ちる。胸が苦しくなると思ったが、逆に軽くなった。


 これなら、言えるかもしれない。


「それなのに、セレスティア様は私が何を思っているのか聞こうともせず、ご自身の気持ちだけを押しつけてきました」


 あの時を思い出すと、涙が滲む。だけど、もう俯かなかった。


「私は、何度も苦しかったです。何度も怖かったです。なのに、それを伝えることすらできませんでした」


 今までこんなにはっきりと自分の気持ちを伝えてこなかった。だからだろうか、セレスティア様は言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。


「そんな……リアナは、私を慕っているんだろう? ずっとそうだったじゃないか」


 まるで、自分自身に言い聞かせるような声だった。私が嘘を言っていると思っているような態度を前に、少しだけ心が傷つく。この人は私の事なんて見ていなかったっていうのが良く分かった。


 昔の私なら、この顔を見たら何も言えなくなっていただろう。だけど、今は違う。私には、支えてくれる人たちがいる。だから、もう自分の気持ちから逃げない。


 私はセレスティア様を真っ直ぐ見つめ返し、震えることなく、はっきりと言った。


「……いいえ。私は、セレスティア様が嫌いです」


 強い眼差しを向けて伝えた気持ち。その言葉にセレスティア様はさらに目を見開き、呆然とした。


「そ、そんな……リアナが、私を……嫌い?」


「はい」


 私は、もう迷わなかった。


「セレスティア様は、一度も私の気持ちを知ろうとしてくれませんでした」


 静かに言葉を重ねる。


「私は嫌でした。怖かったです。それなのに、私が何を感じているのか聞こうともせず、『王国のため』『研究のため』『私のため』と、ご自身の考えだけを何度も押しつけてきました」


 礼拝堂は水を打ったように静まり返っていた。だけど、不思議と怖くなかった。


「私が断れないことを知っていて、何度も同意したことにされました。私が何も言えないことを、『受け入れている』と決めつけられました」


 一つ一つ、胸の奥に押し込めてきた想いを吐き出していく。


「私は、ずっと苦しかったんです」


 その一言に、すべての想いを込めた。


「セレスティア様は、私を守ると言ってくれました。でも、本当に守ってほしかったのは、私の気持ちでした」


 その言葉を聞いた瞬間、セレスティア様の顔から血の気が引いていく。


「違う……私は、そんなつもりでは……」


 震える声で否定しようとする。だけど、私は静かに首を横へ振った。


「つもりじゃありません。私が、そう感じていたんです」


 その一言が決定打になった。セレスティア様は大きく目を見開いたまま、その場で力が抜けたように膝をつく。


「そんな……私は、リアナのためを思って……」


 呆然と呟く声には、先ほどまでの自信はもうなかった。自分が信じていたものが、音を立てて崩れていくような表情だった。


 周囲にいた王都騎士団の団員たちも、その姿に動揺を隠せない。


「団長……」


「だ、大丈夫ですか……」


 駆け寄った部下たちがセレスティア様の肩を支える。セレスティア様はなおも私を見つめ続けていたが、その瞳にはもう先ほどまでの確信はなく、ただ深い衝撃と戸惑いだけが浮かんでいた。


「……一度、お下がりください」


 部下に促されると、セレスティア様は抵抗することもなく、力なく立ち上がる。そして何度も振り返りながら、そのまま礼拝堂を後にしていった。


 その背中が見えなくなった瞬間――私は、小さく息を吐いた。胸の奥にずっと沈んでいた重たい石が、すっと消えていくような感覚だった。


 怖かった。苦しかった。それでも、逃げずに最後まで伝えることができた。初めて、自分の気持ちを、自分の言葉で守ることができたのだ。


 その小さな達成感が、胸の奥をじんわりと温めてくれる。もう、私は昔の私じゃない。そう思えた。

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