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ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~  作者: 鳥助
第三章

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34.怖かったのはキスじゃなかった

「だから、近づかれるだけで体が強張ってしまって、何も喋れなくなるんです。もし、あの時と同じことをされたらって思うと……。キスも嫌になりました」


 思っていたよりも、過去のことはすんなりと口にできた。


 もっと恐怖が蘇ると思っていた。だけど、今は一人じゃない。そう思えたからか、胸を締めつけるような苦しさは、不思議と感じなかった。


 すると、アイリスが抱き着いてきた。ギュッときつく抱きしめてきた、その体は震えていた。


「そんなに辛い思いをしているって……どうして教えてくれなかったのじゃ!」


「……ごめんなさい。心配を掛けたくなくて……」


「リアナは馬鹿じゃ! そんなの気にしなくても良かったのに!」


 そんな風に辛い思いをさせるから。だから、言いたくなかった。そう言いたいけれど、今はそれを言わない方がいいと思った。


「リアナ、正直に話してくれてありがとう。その辛い気持ち、伝わってきたよ」


「嫌な事を思い出させて悪かったね。少しでも、その心を癒してあげたい気分だよ」


 すると、話を聞いてくれていた二人が穏やかにそう言ってくれた。あんなことを話したのに、二人は態度を変えない。それが、とてもホッとしたのを感じた。


 二人がいるだけで、こんなに心強いなんて……。自分の心の変化に戸惑いつつも、感謝をしていた。


「だが、このままではセレスティア殿が増長してしまう。リアナの気持ちを考えていないそぶりだった」


「リアナ……断ることは出来る?」


 ……確かに私が断れば、諦めてくれるかもしれない。だけど、セレスティア様を前にして言えるかどうか不安だった。また、体が硬直して言い出せなかったら……。


 不安になって俯いていると――。


「だったら、私がリアナの力になる。少しでも勇気が出るように守ってみせる」


「不安だと思う……だけど、言わないと変わらない。傍にいてあげるから、勇気を出そう」


 二人の言葉は、震えていた私の心をそっと包み込むようだった。


 今までずっと、一人で耐えるしかないと思っていた。怖くても、苦しくても、誰にも頼れないのだと諦めていた。


 だけど、今は違う。


 私が怯えて立ち止まっても、二人が隣で支えてくれる。その温かさを感じるだけで、張りつめていた心が少しずつほどけていく。


 大丈夫かもしれない。一人じゃないのなら、今度こそ自分の気持ちを伝えられるかもしれない。


「ありがとうございます。その時は……お願いします」


 縋るような思いで頭を下げると、胸の奥にあった重苦しい不安が、ほんの少しだけ軽くなった。今は、この二人がいてくれる。それだけで、私は心から安心することができた。


 ◇


 だけど、それからは作戦の準備に追われていたのか、セレスティア様が私の前に姿を現すことはなかった。そのことに胸を撫で下ろす一方で、どこか肩透かしを食らったような気持ちにもなる。


 そんな日々を過ごしていると、ついに魔王軍が大規模な侵攻を開始した。以前退けた六魔将軍が、さらに強力な魔物たちを率いて進軍してきたらしい。


 幸い、その動きは偵察部隊がいち早く察知していたため、王都から騎士団長をはじめとする精鋭部隊が急行してきたという。


 ――とうとう、決戦の日が来た。


 その日の教会は、夜明け前から慌ただしい空気に包まれていた。


 礼拝堂には出陣を控えた騎士や傭兵たちが次々と訪れ、あちこちで足音が響き、神官たちの指示が飛び交う。少しでも早く前線へ送り出そうと、誰もが息つく暇もなく動き回っていた。


 私も休む間もなく祝福を授け続ける。


 一人終えれば、すぐに次の人が前へ出る。その繰り返しに精神は少しずつすり減っていく。それでも、これから命を懸けて戦う人たちのためだと思えば、立ち止まるわけにはいかなかった。


 そんな慌ただしい最中だった。


「リアナ、分かっているね?」


 聞き慣れた声に肩がびくりと震える。視線を向けると、セレスティア様が穏やかな笑みを浮かべながら、人混みを縫うようにこちらへ歩いてきていた。


「リアナの力が必要だ。今のリアナなら、以前よりも強い祝福を授けられるだろう。その力を使って、私が六魔将軍を討ち、その功績でリアナを王都に連れ戻そう。そうしたら、以前のように一緒にいられる。私がリアナを守れる」


 誰もそんなことを望んでいないのに、さも、私が思っているように言ってきた。その強い束縛に身がすくむ。


 言わなきゃ。嫌だって言って、気持ちを伝えなきゃ。そう思うのに、思うように言葉が口から出ない。


 手を伸ばされ、体に触れられる――そう思った時、私の目の前にフィオナ様とシグリッドさんが立ちはだかった。


「そこまでだ、セレスティア殿。これ以上、リアナに近づくことは許されない」


「何を言っている? リアナは私を求めている。現に拒絶されていないだろう?」


「……どこを見て、言っている。明らかに怯えているじゃないか」


「私が怖がられていると? ……あぁ、そうか。あの時のキスが気にかかるんだね」


 二人が制止しているのにも関わらず、セレスティア様は話を聞かない。それどころか、以前の事を蒸し返してきた。


「リアナはあの時のキスが嫌だったんだね。でも、大丈夫。上手になったから、きっと満足させられる。だから、ほら……もう一度試そう」


 一体、何を言っているんだ? 話が通じなくて、怖かった。余計に言葉が出なくなる。ちゃんと言わないと、伝わらないのに……。


「それ以上、一歩でも近づいてみろ」


 フィオナ様が一歩前へ出る。凛とした声が礼拝堂に響き、セレスティア様の足が止まった。


「リアナは嫌がっている。それが分からないのなら、騎士団長失格よ」


「リアナは物じゃない。自分の意思で生きている、一人の女の子なんだよ」


 すると、その隣にシグリッドさんも静かに並び立つ。鋭い視線を向けて、怒りをあらわにしていた。


「拒絶しないんじゃない。怖くて拒絶できないだけ。それを都合よく解釈して、自分の望みを押しつけないで」


「リアナが望まないことは、誰であろうとさせない。私たちが守る」


 二人の言葉には迷いがなかった。私の代わりに怒ってくれて。私の代わりに立ち向かってくれて。私の気持ちを、私以上に大切にしてくれている。


 その背中を見つめた瞬間、胸の奥が熱くなった。どくん、と鼓動が大きく鳴る。


 あぁ……そうだったんだ。今になって、ようやく分かった。


 私が怖かったのは、キスじゃない。自分の「嫌だ」が届かないこと。拒絶しても受け入れてもらえないこと。


 私の気持ちも意思も存在しないもののように扱われることが、何より怖かったんだ。だから、フィオナ様とシグリッドさんは違う。


 二人は、私の意思を一番に考えてくれる。私が何を望み、何を嫌がっているのかを、ちゃんと見てくれる。


 だから、一緒にいると安心できる。だから――勇気が湧いてきた。


 もう、黙ったままではいたくない。今度こそ、自分の気持ちを、この人に伝えたい。


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