3.宣戦布告
「聖女様、祝福をありがとうございました!」
女性が嬉しそうな顔をしてお辞儀をすると、足早にこの場を去った。これで今日の分の祝福は終わり……なんだけど――。
「よ、良かったぁ……。誰も唇のキスを求めてこなくてぇ……」
その場に座り込み、ホッと息を吐いた。もし、昨日のことが広まっていたら私が大惨事になっていた。
とにかく、唇だけは! もう! 死守しないと!
「ちょっと、あんた。いちいち座り込まないでよね。心配しちゃうじゃない」
「あっ、ご、ごめんなさい……。安心したら、つい……」
そこに先に祝福を終わらせていたミレイアがやってきた。
「もしかして、昨日の事で緊張していたの? そんなに噂は広まっていないみたいだけど、だれもあんたと口づけをしようとは思わないわよ」
「そ、そうですよねっ! なんてったって、私はホコリですから!」
「まっ、でも……一部で狙ってくる人はいるかもね」
「うぐぅっ!」
や、やっぱり……狙われるよね? 最強の力が手に入るって思ったら、試したくなるのも分かるけどっ……!
「わ、私はホコリですから! だ、誰も……望んでいないかと!」
「ホコリなわけないでしょ。それに、私に言ってどうするのよ。まっ、せいぜい頑張りなさい。ほら、今日も来たわよ」
その言葉に振り返ってみると、フィオナ様とシグリッドさんが仕事の合間に顔を見せに来た。
いつもならホッとする時間なんだけど、昨日の事があったから思わず身構えてしまう。
「リアナ、今日もご苦労様。たくさん祝福した?」
「は、はい……。今日も、いつも通りだったかと……」
「今日も頑張ったね。偉い、偉い」
そう言って、シグリッドさんが頭を撫でてくる。その感触に体の力が抜けるんだけど――その手をフィオナ様が掴んだ。
「ちょっと。あんまり撫でると、リアナが怯えるじゃない。触らない方がいい」
「何を言っているの? 今、安心した顔をしていたでしょ。だったら、もっと撫でるべきだし」
「そもそも、そんなに接触するのは聖女のリアナに負担がかかる。私だって触れるのを我慢しているのに……」
また、二人が険悪なムードに……。前まではこんなな雰囲気じゃなかったのに。唇のキスの祝福が出てきてから、おかしくなってしまった……。
やっぱり、狙っているよね? だって、最強になるって聞いたら、最前線を守る二人だったら絶対に欲しい力だ。
その力があれば、もっと功績を上げられるようになる。そしたら、フィオナ様のお立場だって盤石になるし、シグリッドさんは名声が高まって国内で屈指の傭兵と認められる。
いつも優しくしてくれる二人には、何か恩返しが出来ればいい。そう思っていたんだけど――唇のキスだけは嫌なのぉっ! 本当に、本当に、本当なのぉっ!
「えっと、そのっ!」
と、とにかくこの気持ちを伝えなければ! 頑張れ、勇気を出せ、命を絞り出せ!
「私っ、すっ……好きな人じゃないと唇のキスは、しませんからね! ぜ、絶対のっ、絶対に、絶対です!」
――言ったーー! 私、ちゃんと言えたよ! これで、陰キャ卒業だぁー!
「「は?」」
「ひぃぃっ!」
鋭い目で睨みつけられたっ! やっぱり、陰キャ卒業は無理です、ごめんなさい! 隅っこのホコリがお似合いですよね!?
「シグリッドにだけは……させない。業務上だとしても、絶対に」
「それはあたしの台詞だね。業務上でも、やってしまったら、そういうことでしょ? だったら、引き下がれない」
なっ、どうして前よりも険悪になっているの!? 普通ははいそうですね、って感じで引き下がるんじゃ!
「ぎょ、業務上でも……させませんからっ! す、好きじゃないと……無理ですっ!」
本当に無理なんだってばぁ! 二人が距離が近くても大丈夫だからって、そこまで許すわけには!
「……リアナの気持ちは分かった。リアナにとって、唇のキスは大切にしておきたいものなんだね」
「その気持ち、分かる。大事な人にとっておきたいと思うよね」
落ち着いた雰囲気でそう呟く二人。わ、私の気持ちが……伝わった? だったら、狙うのを止めてくれる?
――そう、思っていた時期が私にもありました。
「なら、好きになってもらうよう努力しよう。リアナの気持ちが私に向くように、これからアピールをさせてもらう」
「好きなってもらうのが一番なら、あたしはそれを目指す。リアナがあたしを惚れてくれるようにするから」
――は? はぁぁあああああっ!? ど、どうしてそうなるのぉぉっ!?
「リアナのただ一人の王子様になれるよう、口説かせてほしい」
「心から大切に思ってくれるようにする。だから、傍にいることを許して欲しい」
だから、キスが嫌だって言っているのにっ――どうして、キスをしようとする方向に進んでるのぉぉっ!?
どうして、こうなったぁぁああっ!




