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ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~  作者: 鳥助
第三章

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26.過去の残滓

 強く押し返しても、びくともしない。体を捩っても逃げ出せない。顔を背けようとしても、両手で押さえつけられ、ほんのわずかに動かすことすら許されなかった。


 息が詰まる。肺が酸素を求めて悲鳴を上げ、頭の中がじわじわと白く霞んでいく。


 なのに、その不快な感触だけは、嫌というほど鮮明だった。口の中を容赦なく蹂躙される感覚。


 逃げ場のない口内を好き勝手になぞられ、粘つく感触がまとわりつくたび、全身にぞわりと鳥肌が立つ。


 気持ち悪い。吐きそう。今すぐ全部洗い流してしまいたい。


 必死に抵抗しても、そのたびに押さえつける力は強まり、逃げることすら許されない。


 嫌だ。やめて。お願いだから、離して。


 心の中で何度叫んでも、その願いは届かない。終わりが見えない恐怖と生理的な嫌悪感に、精神が少しずつ削られていく。


 このまま壊れてしまう――そんな絶望だけが、胸の中で膨れ上がっていった。


「はっ!」


 そこで意識が戻った。体を起こして、手で口を覆う。……大丈夫だ、なんともない。


 鼓動がバクバクと動き、呼吸が乱れる。


「だ、大丈夫……大丈夫……」


 自分に言い聞かせて、落ち着かせる。深呼吸をしていると、鼓動も呼吸も落ち着いてきた。そこでようやく、深く息をする。


「……まだ、この夢を見るんだ」


 しばらく見ないと思ったら、また見始めた悪夢。忘れようとしていた感触を思い出して、胸が苦しくなる。


 また、眠れない夜が始まりそうだった。


 ◇


……眠い。どうしようもなく眠い。昨夜は、あれから一睡もできなかった。


体力はほぼ空っぽ。精神力に至っては、とっくに地面を突き抜けて地の底に埋まっている。もはや「コンディション最悪」という言葉すら、生ぬるい。


……なのに。今日も祝福業務は、いつも通り始まる。女神様、労働基準法ってご存じですか?


聖女にだって人権はあると思うんです。睡眠時間とか、休憩時間とか、あと「今日は心が死んでるのでお休みします」っていう有給とか。


……ありませんよね。知ってました。というか、私が休んだら困る人が山ほどいるのも分かっています。だから休めないんですけど。


 ボーッとしながら祝福業務をしていると――。


「やぁ、リアナ」


「あっ、シグリッドさん」


 今日もシグリッドさんが様子を見に来てくれた。最近、無理に唇の祝福を欲しがる人がいるので、シグリッドさんが手助けをしに来てくれる。凄く、助かる。


 シグリッドさんが睨みを利かせると、祝福を受けに来た人は委縮して控えめに祝福を求めてくる。シグリッドさん効果、凄い。毎日、傍に立って欲しい。


 そうしていると、祝福業務は何も問題なく終わった。


「シグリッドさん、ありがとうございます。今日は特に問題なく終わることが出来ました」


「いいんだよ。少しでもリアナが楽になってくれれば、それだけで嬉しいから」


 にこやかにそう言ってきてくれて、心がジーンと感動で震えた。この間は怖かったけれど、今は普通のシグリッドさんだ。


「でも、リアナ……。今日は体調が悪そうだったけど、どうしたの?」


「あっ、はい……。その……悪夢を見まして、寝付けなかったんです」


「悪夢か……。最近は色々あったから、そういう夢を見ているのかもね」


 唇のキスを強く意識したせいで、蘇ってきた悪夢。そのせいで、日常でもあの嫌な感じが思い出されて、心をかき乱される。


「大丈夫? しばらくは、悪夢を見てしまうんじゃない?」


「あははっ、そうかもしれません。何か、気がまぎれることがあればいいんですけれど」


「気がまぎれること、か……」


 何気なく言った言葉にシグリッドさんが真剣に考える。いや、私なんかのためにそこまで考えなくても。


 そう思っていると、シグリッドさんが何かを思いついたように手を叩いた。


「だったら、添い寝をしてあげよう」


「……はい?」


 どうして、そうなった?


 ◇


「やぁ、リアナ。来たよ」


 夜、扉を開くとそこにはシグリッドさんがいた。昼の約束を果たしに来たみたいだ。……どうして、こうなった?


「えっと……昼も言いましたけれど、ベッドは一人用ですし、体の大きなシグリッドさんにはキツイですよ。それに、何か失礼な事をしてしまうかもしれません。やはり、私は床の上で寝るというのがベストだと」


「それじゃあ、意味がない。二人でベッドに横になろう」


「……はい」


 陰キャはね、一度押し切られると「ここで断ったら空気が悪くなるかも」と考え始める生き物なんだよ。


 そして気づけば、自分の希望より相手を優先して「……はい」と頷いてしまう。そういう、か弱い生態なんです。


 すると、シグリッドさんが服を脱ぎ始めた。


「な、何を!?」


「いや、寝間着に着替えようと思って」


「あわわっ、そ、そうですよね! あっち向いてます!」


 何をしでかすのかと思ったら、そういうことか! 私は慌てて後ろを向くと、クスクスと笑う声が聞こえる。


「見てもいいよ?」


「えぇっ!? いえっ、それはとても失礼なのでしません!」


 そ、そんなこと言われると、余計に意識してしまう! うぅ、絶対に見ない、絶対に見ない!


 固い決意で目を瞑っていると、肩に手を置かれた。


「お待たせ。さぁ、寝ようか」


 振り向くと、寝間着に着替えたシグリッドさんがいた。それを見るだけで、鼓動が高鳴って緊張してしまう。


 ガチコチに固まりながらベッドに横になる。その隣にシグリッドさんが乗り、一緒に横になる。


 狭いベッドで出来るだけシグリッドさんに触れないようにした。――していたのに。


 シグリッドさんの腕が私の腰に周り、力強く引き寄せられた。あっという間に私はシグリッドさんの腕の中。


 どどど、どうしてこうなったっ!?


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