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ド陰キャ聖女に百合キスは荷が重すぎる!~唇への祝福が最強だとバレてしまい、キラキラ王子様系姫騎士と包容力おばけな女傭兵に迫られています~  作者: 鳥助
第三章

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20.(シグリッド視点)

 前方では傭兵たちが全力で駆けていた。


 振り返ると、五メートルを超える巨体の魔物たちが地鳴りを響かせながら迫ってくる。距離は刻一刻と縮まり、このままではすぐに追いつかれるだろう。


「……殿は任せて」


 短くそう告げると、私は足を止めた。槍を静かに構え、迫り来る敵を見据える。


 七体。数を確認すると、小さく息を吐く。


「この程度なら、問題ない」


 次の瞬間、地面を力強く蹴った。一瞬で先頭の魔物との間合いを詰めると、鋭い突きが胸を貫く。穂先は分厚い皮膚も骨も紙のように貫通し、そのまま背中から飛び出した。


 槍を引き抜く間もなく柄を捻り、巨体を横へ薙ぎ払う。吹き飛ばされた魔物が後続へ激突し、二体まとめて体勢を崩した。


 その隙を逃さない。踏み込みと同時に穂先が閃き、一体の喉を穿つ。返す一撃で隣の額を貫き、巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。


 残る魔物たちが咆哮を上げ、一斉に襲い掛かる。


「遅い」


 低く呟き、槍を大きく一閃。二体の首が同時に宙を舞い、返す穂先が最後の一体の心臓を正確に射抜く。


 これで倒した。そう思った時に、空から魔物の声が聞こえてきた。どうやら、まだみんなの後を追えないみたいだ。


 槍を構えた、その時――。


「今度はあいつか! シグリッド、一緒にやるぞ!」


「シグリッドを一人にさせると、リアナちゃんが悲しむからな。一人で良い恰好はさせないぜ」


「絶対にリアナちゃんの所に帰してやるからな!」


 先に逃げたはずの傭兵が戻ってきた。みんな、あたしを見て上機嫌に笑っている。まるで、手助けをする時を待っていたかのように。


 その心強い存在に、自然の胸が熱くなる。いつもは一人で戦っていたのに、今では背中を守る仲間がいる。それだけで、心が軽くなった。


 あたしが一人じゃなくなったのは、リアナのお陰だ。


 ◇


「みんな、ご苦労だった。重要な情報を持ち帰り、誰一人欠けることなく帰還してくれた。それが何よりの戦果だ。ここから先は騎士団に引き継いでもらう。状況が動けば、また力を借りることになるだろう。それまでは、ゆっくりと英気を養ってくれ。本当にご苦労だった」


 傭兵団の団長がそう言うと、部下を連れ添って城へと向かっていった。それを見届けた傭兵たちは一様に気を抜いた。


 だったら、もういいか。そう思って、すぐに立ち去ろうとすると――同僚たちが話しかけてきた。


「よお、シグリッド。帰ってきて早々、教会に行くのか?」


「教会っていうか、リアナちゃんに会いに行くんだろう? 今度はこっちが甲斐甲斐しいねぇ……見ていて尊い気持ちになるわ」


「そりゃあ、そうだろう! だって……なぁ?」


 ニヤニヤと笑いながら同僚たちが好き勝手に言う。こんなやりとりもあんまりしてこなかったから、どう反応していいか分からない。


 でも、からかわれているということは分かる。少し怒った顔をしたけれど、それも可笑しいのか同僚たちは笑った。


「通うのもいいが、しっかり休んでおけよ。また、激しい戦いになりそうなんだから」


「またリアナちゃんに怒られるぞ。まぁ、リアナちゃんに言ってもらった方が一番助かるんだけどな」


「リアナちゃんがいるんだったら、シグリッドのことは大丈夫だろう! あそこまで人のために動ける人は中々いないからな!」


 みんなリアナを頼っているみたいだ。それだけ、リアナがしてきたことが大きかった。それは身に染みて感じている。


 この環境も、気遣ってくれる心も、リアナが整えてくれたから。そのお陰で私は孤高の名を捨てられた。


「……じゃあ」


 軽くそう言うと、同僚たちは短く返事をして見送ってくれた。こんな普通の日常をくれたのは、リアナのお陰だ。


 みんなと別れて、通りを歩く。久しぶりに会うリアナのことを思うと、心が穏やかになった。


 久しぶりに会うから、どんな反応をしてくれるのか楽しみだった。喜んでくれるだろうか。笑って迎えてくれるだろうか。リアナの顔を思い浮かべるだけで、自然と口元が緩んでしまう。


 昔のあたしなら、こんなことは考えもしなかった。他人は他人。自分とは関係のない存在。だから、他人に感情を向ける必要なんてない。深く関わる必要もない。そう思って生きてきた。


 あたしは、人と深く付き合ったことがない。……いや、浅く付き合うことさえなかった。


 生きるために戦い、戦いたいから戦う。ただ自分の欲求に従って槍を振るい続けた。その結果、最前線で名を上げ、『英雄』と呼ばれるようになった。


 けれど、功績を積み重ねるほど、人はあたしを遠巻きに見るようになった。近づく者はいない。あたしも近づけさせない。孤高――そんな言葉が、いつしか当たり前になっていた。


 別に、それで困ることはなかった。戦うだけ、生きるだけ。あたしには、それしかなかったから。


 だが、戦い続けるうちに体は少しずつ悲鳴を上げ始めた。傷は増え、癒える前に新しい傷を負う。今では動くだけで痛みが走ることも珍しくない。


 それでも、止まることは考えなかった。戦う以外の生き方を、あたしは知らなかったからだ。


 もし、このまま戦場で命を落とすことになっても、それはそれで構わない。自分で選んだ生き方だ。その結末なら受け入れられると思っていた。


 そんなあたしの生き方に、初めて「違う」と言ってくれた人がいる。リアナだった。


 あんなに臆病なのに、リアナは周りを変え、あたしを変えた。今までそこまでしてくれた人がいなかったから、驚いた。それと同時に、温かい気持ちが芽生えた。


 ……幸せな気持ちになれた。そしたら、あたしだけでなくリアナも幸せにしたいと思った。


 このまま会いに行ったら、リアナは幸せな気持ちになってくれるだろうか? そんな思いを抱え、通りを進んでいった。

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