14.思いやり
「じゃあ、最後の荷物を運んでおきますね」
「うん、お願い。それが終わったら、休憩に入ってもいいって」
ミレイアさんとやり取りを済ますと、木箱を持ち上げる。ぐっ……重い。こんな小さな木箱を持つので精一杯だなんて……私、本当に子供にも力で負けるのでは?
いやいや、こんなことも役に立てないのは、流石にみんなに申し訳ない。普段から迷惑ばかりかけて、役に立たないんだから、踏ん張らないと。
全身に力を入れて、なんとか木箱を外に倉庫に運んでいく。だけど、段々力が入らなくなっているような……。このままだと、落としちゃうっ。
手がプルプルと震えて、足も前に進まなくなってきた。こ、ここで休んだ方が――。
その時、手から木箱がなくなった。驚いて隣を見てみると、フィオナ様がいた。
「重そうだったから、手伝うよ。これはどこに置けばいい?」
「え、あ、お手を煩わせる訳には……」
「辛そうな顔をしているリアナを見たくなかったからね。手伝わせてほしいな」
断ろうとしたけれど、極上の笑顔で遮られてしまった。うっ……その笑顔は私に効く。
「じゃ、じゃあ……庭の倉庫の方に」
「分かったよ。案内して貰ってもいい?」
「は、はい。こちらです」
前に出ると、フィオナ様を先導していった。庭に出て、倉庫に着くと、フィオナ様は木箱を置いた。
「これでいい?」
「はい、ありがとうございます。お陰で助かりました」
「いいんだよ。あ、でもお礼は欲しいね」
「な、何でも言ってください! 叶えられるものでしたら、なんでも叶えます!」
「ふふっ、大きく出たね」
私に出来ることがあるか分からないけれど、お世話になりっぱなしのフィオナ様に何か返したい。でも、私なんかがいいのかな……。それどころか、迷惑だったのでは!?
「……なんでそこで暗くなるの?」
「わ、私なんかの申し出は迷惑でしたよね!? 私に出来ることは限られていて……うぅ、私は役立たず……」
「そこまで卑下しなくてもいいと思うけれど。それに私の願いは、一緒に話すことだから。これだったら、リアナでも出来るでしょ?」
「そ、そんなのでいいんですか?」
「さぁ、来て」
そう言って、私の手を握ると引っ張った。抵抗もせずについていくと、庭に置かれたベンチにたどり着く。二人で並んで座ると、ようやく落ち着いた。
「リアナは時間は大丈夫?」
「はい。この後、休憩時間に入る予定でしたから」
「そうか、良かった。じゃあ、この後の時間を私に全部くれるかな?」
「そ、それで良ければ……」
改めてそう言われると、なんだか恥ずかしい気もする。でも、また口説いてくるんだろうか? それはそれで、困るんだけど……。
そう思って身構えていると、フィオナ様が深いため息をついた。横顔を盗み見すると、いつもより疲れているような……。いや、これは疲れている。
「フィオナ様、ちゃんと休まれていますか?」
「えっ? 夜はちゃんと寝るようにしているけれど……」
「夜だけじゃありません。寝る時以外にも休まないと体に毒ですよ」
「しかし、今は忙しい時期だし……休むわけには……」
これは、また一人でこなそうとしている。あれほど、一人で何もかも背負い込む必要なないって言ったのに!
「ダメです、ちゃんと休んでください! せめて、数十分でも仮眠を取れば楽になりますよ!」
「だけど、ようやくリアナと一緒にいるのに……。リアナと話したい、触りたいのに」
「そ、それだったら……膝枕しますから、それでいいですよね?」
それだったら、触れていながら休める。うん、この案は良い。ちょっと恥ずかしいけれど、フィオナ様を休ませる方を優先させるべきだ。
目を丸くして呆然としているフィオナ様に向かって、膝を叩いた。
「ど、どうぞ。あんまり肉付きは良くなくて、寝心地は悪いかもしれませんが、ベンチよりは役に立つと思います」
すると、フィオナ様がゆっくりと私の膝に頭を乗せる。太ももにフィオナ様の感触がして、緊張してしまう。大丈夫、枕の気持ちになれば、きっとフィオナ様も満足してくれるはずだ。
「ど、どうですか?」
「……とても嬉しいよ。リアナが膝枕をしてくれるなんて思ってもみなかったから。心地よくて寝たくない」
「そ、そんな! それだと困ります! 普段から休まれていないのに、こんな時でも休めないのは体の毒です!」
あの日から大分マシになったけれど、フィオナ様は職務漬けには変わりない。いつもどこか疲れているような気配がして、見ていられなかった。
横になっていたフィオナ様がこちらに顔を向ける。それは少し驚いているような顔だ。
「……どうして、私のことが分かるの?」
「そ、それは……見てましたから。今日は疲れているな、とか。今日は嫌なことがあったのかな、とか。見ていたら、分かります」
「……見ていてくれていたの?」
「あっ、いや、そうではなくて! き、気持ち悪かったですよね! そんな風に見ていて! こ、今度から見ませんから!」
そ、そうだよ! そんな人のことをジロジロ観察するような事をして、それを悪気もなく言って、普通だったら気持ち悪いよ!
あぁ、私はなんてことを! 絶対に引かれたに違い! 恐る恐るフィオナ様を見ると、嬉しそうに笑っていた。
「私を心配してくれていたんだね。リアナが少しでも気にかけてくれて嬉しい。少しは私に気があるって思ってもいい?」
「そ、それは、その……」
期待された視線を向けると、心臓に悪い。だって、その先にはキスが待っているんだから……。
「そ、そんな事よりも! 早く寝てください! 体が心配ですから!」
「こうしているだけでも疲れが癒えるよ。だから、リアナの気持ちを聞かせて。そうしたら、もっと元気になるから」
「そ、そんなこと言っても駄目です! 眠るのが一番いいんです!」
膝枕をしているのに、なんで寝てくれないの!? これだと、逆に逃げられない! わ、私にも心の休息を下さい!




