13.意外と人気
「聖女様、わざわざお越しくださってありがとうございます。これで、しばらくは問題なく過ごせます」
そう言って、その人はお辞儀をした。私はなんとか一言二言を言葉を残すと、そそくさとその場を離れた。
……はぁ、出張祝福も辛い。なんで出張してまで百合キスをしなければいけないんだろう……。出張百合キス……本当に何それ。いつもの業務に出張が重なると、本当に辛い。あぁ、私は何を――。
「リアナ!」
その声を聞いて、一瞬で現実に戻ってきた。前を見ると、フィオナ様が駆けてくるのが見えた。
「あっ……フィオナ様、こんにちは」
「良かった……今日はギリギリ間に合ったみたいだね。今、終わったばかり?」
「はい。滞りなく終わりました」
「じゃあ、教会まで送らせてもらうよ。その方が安全でいいでしょ?」
フィオナ様も自分の仕事があるのに、いつも気を使ってもらって申し訳ない。でも、安心出来るから本当にありがたい。
……こうして、どんどん絆されていくような気がする。その内、なんでもいう事を聞くようになってしまうかもしれない。
恐ろしい……恐ろしいぞ、フィオナ様! そうやって、人の心をたやすく篭絡して、キスを奪ってくるに違いない。私は絶対に絆されない、絆されないぞ!
「リアナ、何を考えてる?」
「はっ! いや、それは、フィオナ様に絆されないように、自分に強く……って、そういう話じゃなくてですね!」
「私のことを考えてくれた? ……嬉しいね。もっと考えてよ、一日中とか」
なんか、私……フィオナ様が嬉しくなるようなことを言った!? そ、そんなつもりは……! どうしていつも、思い通りにならないんだぁっ!
頭を抱えて悶えていると、隣から笑い声が聞こえる。うぅ、またからかわれた? くっ、フィオナ様の思い通りには――。
「あっ、聖女様じゃない?」
その時、声が聞こえた。通りを歩いていた女性たちがこちらに気づき、駆け寄ってくる。
「聖女様が歩いているなんて珍しい! また、祝福かけてください!」
「ここで祝福をかけてもらえますか?」
「えっ……いや、それはちょっと……」
あっという間に距離を詰められて、引き腰になってしまう。女性たちは楽しそうに話しかけて距離を縮めてくる。正直言って、業務以外の絡みは苦手だ。
どう断ろうか悩んでいると、周辺から視線を感じた。女性たちがこちらを見て、私に気づいた。
「あっ、聖女様! 祝福、かけてください!」
「ちょうど、抽選に落ちちゃって困ってたんですよね。ここでもいいので、かけてください」
「今、時間ありますよね? 祝福、お願いします」
「あ、あ、あ……うぅ……」
あっという間に囲まれてしまった。どうして、私の祝福がこんなにも人気なのか分からない。というか、色んな人が歩いている通りで百合キスなんて出来るかぁっ!
でも、迫ってくる女性たちを断り切れない。だけど、ここでなんて百合キスなんて出来ない。うぅ、ど……どうしたら。
「悪いけど、聖女は業務外よ。ちゃんと、祝福の申請を通してから来て頂戴」
すると、フィオナ様が前に出て女性たちに向かって言ってくれた。それで、少しはホッとするけれど――女性たちはもっと詰め寄ってきた。
こ、これは……逃げられない? 大人しく従った方がいいのかな……。このままだと、フィオナ様にも迷惑が――。
そう思っていた時、体がふわりと浮いた。驚いて顔を上げると、フィオナ様が私をお姫様抱っこした。
「捕まって、逃げるよ」
「えっ、あっ……はいっ」
ギュッとフィオナ様の服を掴むと、女性たちを避けて駆け出した。
うわっ、速いっ! 怖いっ!
その速さに驚いて、服を掴む手に力を籠める。その後、すぐにフィオナ様は私の体を強く抱えてくれた。落ちないように気を遣われている?
そのちょっとした動作に心の不安が不思議と消えていく。体を託してジッとしていると、走る速度が落ちて立ち止まる。
「この辺なら大丈夫かな? リアナ、大丈夫だった?」
「は、はい……お陰様で助かり――」
ホッとして顔を向けると――近い! 物凄く顔が近い! 女神のように整った、麗しい顔が近い! し、心臓に悪い!
そ、それに……お姫様抱っこされている!? ぜ、絶対重かったに違いない! 腕が骨折しているかもしれない! わ、私はなんて罪深いことをっ!?
「お、下ろしてください!」
「どうして?」
「お、重たいですよね!? このままだと腕が骨折してしまいますよ! そ、そんな怪我をさせたくありません!」
そうだ、そうだ! 腕が骨折する前に下ろせーっ! 決して、密着して女神の顔が近いからという理由ではないっ! 心臓に悪いからではない!
慌ててそう言って訴えると、フィオナ様の顔が不機嫌に変わった。
「……重い? これで? 吹けば飛ぶように軽いんだけど……リアナはちゃんと食事取っている?」
こ、これは……私が怒られている? な、なぜ? こ、ここは私が強く出る場面では?
「正直言って、こんな体で一人で出張に行かせるのはどうかと思う。こんなんじゃ、子供の力でもリアナを拘束出来るのでは?」
「い、いや……流石にそんなに弱くないですよ?」
「……いや、危険だ。リアナの身に何かあったら、私が悲しい。ずっと、傍で守って上げられないのが悔しい。いっそ、教会を騎士団の本部にしてしまうという手も……」
そ、そこまで考える!? 流石にそれは申し訳ないというか、私なんかがフィオナ様の手を煩わせるわけには……。
「とにかく、リアナを通りを歩かせるのは心配。このまま教会に行こう」
「……このまま?」
いや、今……お姫様抱っこされているんですけれどぉっ!? こ、このままぁ!? は、恥ずかしすぎて、壁に埋まりたいんですけどぉっ!?
「い、いや……私はそんなことをされるような人間では……」
「そんなことをされる人間だよ、リアナは。私にとっては大切な人だからね」
極上の微笑みを浮かべてそう言われると、鼓動が高鳴る。いや、こんな至近距離でそう言われるのは迫力がありすぎて、死ぬぅぅっ!
ってか、教会まで本当にこのまま? く、口説かれ死してしまうっ!




