12.守ってくれる人
左を見ると知らない路地。右を見ても知らない路地。後ろを見たら、今まで来た路地。
「ど、どっちに進めば!」
出張後に近道して帰ろうと思ったら、道に迷うなんて……私の馬鹿! 早く帰らないといけないのに、こんなことになるなんて!
「と、とりあえず……左に……」
身を縮めて左の路地を進む。狭くて、物がたくさん置いていて、歩きづらい。しかも、人が路地の壁にもたれ掛かっているし、なんだか怖い雰囲気だ。
もしかして、悪い人に囲まれて、身ぐるみを剥がされたりとかは……。いやいや、まさかそんなことはないよね! そんな都合よく――。
「おい、姉ちゃん」
前方の角から突如として現れた男性が路地を塞ぐ。なんだろう? と、思っていると、その男性はナイフをチラつかせていた。
それだけじゃない。後ろにも気配がして振り向くと、二人の男性が路地を塞いできた。
「いいもん着てるじゃねぇか。金目の物と一緒に置いてきな」
「ついでに遊んでくれると、嬉しいなー」
こ、これは……フラグ回収早すぎでは!? 私、何も悪いことしてませんよ!? 善良な一般聖女だというのに、どうしてこんなことにっ!?
「えっと、あの……私はホコリなので、お構いなく……」
そそくさとホコリの真似をして通り過ぎようとすると、行く道を腕で塞がれる。
「何、逃げようとしているんだ? 逃がさねぇって言っているんだが」
「いやっ、私には何もありませんから! 構うだけ時間の無駄ですよ! ただの部屋の隅にあるホコリ程度の価値しかありませんし、それに――」
「何をごちゃごちゃ言っている? こっちに来い!」
その時、手首を掴まれグイッと引っ張られる。その力に抗えずに体が傾き、地面に崩れ落ちてしまった。ひ、非力すぎる……。
「おら、立て!」
また、強引に手を引かれた時――。
「何をしている!」
聞きなれた声がして振り向くと、そこにはフィオナ様が立っていた。鋭い形相でこちらに近づき、私の手を掴んでいる男の腕を背中に回した。
「いででっ!」
「リアナに手を上げるとは、その罪……その体で払ってもらおうか?」
「うるせぇ!」
すると、ナイフを持っていた男性がフィオナ様に襲い掛かった。ナイフを突きつけるが、簡単に避けられる。そして、その腕を掴み、簡単に地面に叩きつけた。
「うわぁ、何だこいつ! に、逃げろ!」
一人の男性が逃げると、もう一人の男性も逃げ出した。それを見て、捕まっている男性も不安に思ったのか、フィオナ様の腕を振り払い、路地を駆けていった。
「逃げられたか……。だが、今はリアナが大事。リアナ、怪我はなかった?」
しゃがみこんで私を覗き込んでくる。私、助かった? そう思うと、途端に体の力が抜ける。
「あ、ありがとうございます。怪我はありません。でも、どうしてフィオナ様がここに?」
「教会に行ったら、リアナが出張から帰ってくるのが遅いと教えてもらった。だから、心配になって来たの」
「そ、そうですか……。本当に助かりました」
フィオナ様が来てくれて、凄く安心した。傍に誰かがいると萎縮しちゃうけれど、フィオナ様はそれがない。どうして、そんな気持ちになるか分からないけれど、なんだかそれが嬉しく思える。
ふわふわとした気持ちになっていた時、フィオナ様が近づいてきた。そして、私を優しく抱きしめた。
「えっ!? えっ!?」
「良かった……本当に何もなくて。もし、何かったら……」
体に回る腕にギュッと力がこもる。柔らかくて力強いその腕、密着した体の温もりを心地よく感じる。
「フィオナ様……だ、大丈夫です。フィオナ様が守ってくれましたから」
「守ることは出来ても、恐怖を感じさせてしまったね。そんな思いをさせたくないのに……」
なんとか取り繕うが、さらに抱きしめる力が籠ったように感じた。本当は逃げ出したいくらいに恥ずかしいのに、なぜか心が落ち着いている。
フィオナ様に助けられたから? だから、密着しても大丈夫なの? ……自分の気持ちが分からなくなった。普通はこんなこと、受け入れられないのに……。
しばらくその温もりに包まれていると、自然とフィオナ様が体を離す。ちょっとだけ、名残惜しく感じたのは……どうして?
「今度はそんな怖い思いをさせないように、私がリアナを守るよ。だから、助けが必要な時は呼んで欲しい。必ず助けるから」
その言葉に心に残った不安が消えていくようだ。私なんかのために、そこまで気にかけてくれるのは何故? ただの祝福係なのに……。
でも、そう思われるのも悪くない。だったら、私は何を返せるのだろうか?
「だったら、フィオナ様に助けが欲しい時は私がまた助けますね。私の力なんて微々たるものですが、それでも何かしてあげたいです」
真っすぐにそういうと、フィオナ様は驚いた顔をした。それから頬を赤く染めて、はにかむように微笑んでくれた。
「これだと、お互いに助け合う形になってしまうね。……だけど、それもいい。なんか、特別な感じがする」
「と、特別ですか? いや、そんな……私がただ、返したいを思っただけで……」
「いや、特別だよ。そう思える相手は大切な人じゃないと出来ない。リアナは私を大切な人だと思ってくれているってことでしょ?」
「うっ! いや、そんな、私如きが、フィオナ様を大切だなんてっ!」
フィオナ様は大切な人だけど、個人的に大切な人ではないというか! いや、これは失礼だ! だったら、大切っていう? 私如きがそんな事をいうのはっ!
「ふふっ、また百面相をしている。リアナは本当に可愛いね」
「いや、私に可愛いっていう言葉を使うと、言葉が腐っちゃうような! もっと貶してください!」
「そういう趣味なら付き合うけれど?」
「す、すいません! そういう趣味じゃありません! 普通で、普通でお願いします!」
「じゃあ、普通に口説いても良いってこと?」
「うー、あー、いー……それはっ……」
なんで、そんな話しになった!? まさか、最初からこの流れを狙っていたとか!? 策士、策士すぎる!
「じゃあ、帰り道がてら私に口説かれても良いってことで、いいね?」
圧の強い笑顔で言われると、何も言わずに頷いてしまった。……何故そこで頷く、私ぃぃっ!




