表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/131

第88夜 「病院の複製」


今日も少女は夜を歩く。


病棟の廊下。


白衣の女がもう一人現れた瞬間、空気が完全に変質した。


コツ。


コツ。


コツ。


その足音は“ひとり”ではない。


同じリズム。


同じ間隔。


同じ呼吸。


まるで病棟そのものが歩き始めたようだった。


「……増えた」


冬華が呟く。


黄泉津大神が鎖を構える。


「分身か」


深淵の父は首を横に振った。


「違います」


「これは分身ではない」


「では何だ」


父は静かに答える。


「複製です」


「この病棟に刻まれた“役割”そのものが」


「形を持ち始めています」


病室の空気が一段冷える。


姉はゆっくりとベッドの上で身を起こす。


「……増えてる」


彼女だけが、違うものを見ていた。


カクリが駆け寄る。


「お姉ちゃん!」


姉はカクリを見ない。


その視線は、病室の壁の向こう側へ向かっている。


「廊下に……」


「同じ人が……いっぱいいる」


看護師が震える。


「そんなはず……!」


しかし。


廊下のガラス窓に。


白衣の女が映る。


二人。


三人。


四人。


数が合わない。


反射ではない。


“そこにいる数”が、明らかに増えている。


そして。


一人の白衣の女が、ゆっくりと扉を叩く。


コン。


コン。


コン。


「迎えに来ました」


その声は一人のものではなかった。


重なっている。


ズレている。


ずっと遅れて追いかけてくる声が、病室を満たす。


白い梟が羽を広げる。


『異常増殖反応』


『病棟構造書き換え開始』


れいなが後ずさる。


「書き換えって……!」


少女が静かに言う。


「病院はね」


「境界に一番近い建物なんだ」


「だから」


「たまに」


「向こう側に似る」


その言葉に、冬華が息を呑む。


「似る……?」


「はい」


少女は廊下を見た。


「人の記憶」


「感情」


「死と生の繰り返し」


「それが積もると」


「建物は“役割”を覚える」


深淵の父が続ける。


「病院とは」


「生と死を運ぶ場所」


「それが過剰に積み重なれば」


「概念になる」


黄泉津大神が顔をしかめる。


「概念が形を持つ……?」


その瞬間。


廊下の白衣の女たちが一斉に動いた。


コツ。


コツ。


コツ。


病室の扉が。


外側から同時に押される。


ギギギ……。


金属が軋む音。


しかし。


開かない。


まるで“開けてはいけない”と病室自体が拒否しているようだった。


白衣の女たちの声が重なる。


「戻りましょう」


「戻りましょう」


「戻りましょう」


姉が震える。


「……戻る?」


「どこに?」


白衣の女の一人が微笑む。


「元の場所へ」


その言葉と同時に。


病室の床が揺れた。


ゴゴ……。


床の白いタイルに、薄い黒い線が浮かび上がる。


それは廊下へ続いているのではない。


“どこか別の病室”へ続いている。


カクリが目を見開く。


「これ……」


少女が小さく呟く。


「迷路」


「病院が」


「迷路になってる」


冬華が刀を構える。


「結界を切ります!」


しかし。


深淵の父が止める。


「無駄です」


「もう切る対象がありません」


「……?」


「ここは既に」


「一つの病院ではない」


「複数の病院が重なっています」


静寂。


白衣の女たちが扉の前で止まる。


そして。


一人がゆっくり顔を上げた。


「夜を歩く子」


その言葉に。


カクリが反応する。


「……私?」


白衣の女は首を振る。


「違う」


「その子ではない」


視線が。


姉へ向く。


姉は息を呑む。


「……私?」


その瞬間。


姉の瞳の奥に。


深い闇が揺れた。


深淵では白い梟が沈黙する。


『核心反応』


『夜核未登録個体』


『覚醒開始』


れいなが叫ぶ。


「覚醒って何!?」


少女が静かに答える。


「夜に触れた人は」


「戻るか」


「なれるか」


どちらかになる。


姉の身体が震え始める。


「いや……」


「私は……」


白衣の女たちが一歩近付く。


「お帰りなさい」


「お帰りなさい」


「お帰りなさい」


その声が重なるほどに。


病室の壁が黒く染まっていく。


カクリが姉の手を握る。


「お姉ちゃん!」


姉は涙を浮かべた。


「カクリ……」


「逃げて……」


その瞬間。


廊下の奥から。


新しい足音が響いた。


コツ。


コツ。


コツ。


白衣の女たちとは違う。


重く。


静かで。


“正確すぎる”足音。


白衣の女たちが一斉に振り向く。


そして。


その存在に向かって。


初めて声を揃えた。


「門外者」


その言葉と同時に。


廊下の闇が割れた。


そこに立っていたのは。


白衣の女たちと同じ顔をした存在ではなかった。


完全に異なる。


“制服を着たままの医師”だった。


ただし。


顔が完全に真っ白だった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ