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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第79夜 「見える少女」


今日も少女は夜を歩く。


「見つかった」


「見つかった」


「見つかった」


「やっと」


「見える子が」


「いた」


無数の声。


男。


女。


老人。


子供。


泣き声。


笑い声。


怒鳴り声。


それらが。


青年の身体の奥から溢れ出していた。


れいなが耳を塞ぐ。


「いやっ……!」


冬華も顔をしかめた。


「複数の霊的反応……?」


「いえ」


「違う」


総長が唸る。


「これは」


「複数どころではない」


「何百」


「何千」


「いや……」


「何万じゃ」


青年は困ったように笑う。


「あー」


「見えちゃったか」


「本当は」


「もう少し後の予定だったんだけど」


カクリはじっと見つめる。


「苦しい?」


「……」


青年の笑顔が止まる。


「苦しい?」


「うん」


「いっぱい入ってる」


「狭そう」


沈黙。


誰も言葉を発せなかった。


青年は。


しばらく黙った後。


少しだけ笑った。


「優しいね」


「でも」


「もう慣れたよ」


その瞬間。


長女の母が叫ぶ。


「嘘よ!」


全員が振り向く。


女性は涙を流していた。


「慣れてなんかいない!」


「ずっと苦しんでる!」


「ずっと!」


「ずっと!」


青年は静かに目を閉じた。


「母さん」


「やめて」


「……」


「その話は」


「皆の前でしなくていい」


「駄目」


女性は首を振る。


「もう隠さない」


「これ以上」


「あなた一人に背負わせない」


黄泉津大神が静かに尋ねる。


「……何があったのですか」


女性は震えながら語り始めた。


「この子は」


「昔から優しい子だった」


「誰かが泣いていると放っておけなかった」


「傷ついた子を見たら助けた」


「怪我をした動物も」


「迷子も」


「誰でも」


青年は苦笑する。


「普通だよ」


「普通じゃない!」


女性は叫んだ。


「優しすぎたの!」


深淵が静かになる。


誰も口を挟まない。


「ある日」


「この子は聞いてしまった」


「誰にも聞こえない声を」


「……」


「死んだ人たちの声」


冬華が息を呑む。


「霊聴……」


「違います」


深淵の父が静かに否定した。


「もっと根源的なものです」


「根源的?」


「魂そのものの声です」


全員が固まる。


「死者」


「怪異」


「神」


「精霊」


「存在したもの全て」


「この子には聞こえていた」


青年は静かに笑った。


「賑やかだったよ」


その笑顔が。


逆に痛々しかった。


「最初は」


「一人だった」


「助けてって」


「言われた」


「だから助けた」


「次も」


「その次も」


「その次も」


「ずっと」


「助け続けた」


そして。


青年は初めて。


少しだけ疲れた顔を見せた。


「気付いたら」


「増えすぎた」


静寂。


カクリはただ聞いていた。


「誰も」


「置いていけなかった」


「だから」


「みんな連れてきた」


「……」


「ずっと」


「一緒」


そう言った瞬間。


青年の身体が揺れる。


すると。


その輪郭から。


何十本もの手が飛び出した。


「!」


れいなが悲鳴を上げる。


だが。


その手は攻撃しない。


ただ。


青年にしがみついていた。


「置いていかないで」


「怖い」


「助けて」


「一人は嫌」


無数の声。


青年は微笑む。


「大丈夫」


「ここにいる」


「みんないる」


「一人じゃない」


その姿を見たカクリが呟いた。


「……違う」


「え?」


「一緒じゃない」


青年が初めてカクリを見た。


「どうして?」


「みんないるよ」


「ううん」


カクリは首を振る。


「誰もいない」


「……」


「みんな」


「助けてって言ってる」


その言葉。


青年の笑顔が固まった。


「……」


「みんな」


「苦しそう」


「……」


「だから」


「まだ」


「一緒じゃない」


深淵の父が目を細める。


黄泉津大神も。


長女も。


女性も。


誰も言わなかった言葉。


カクリだけが。


真っ直ぐに言った。


「君も」


「苦しそう」


完全な静寂。


青年は動かない。


無数の声も止まる。


そして。


ぽつりと。


青年が呟いた。


「……苦しいよ」


初めてだった。


今まで笑顔しか見せなかった青年が。


本音を漏らした。


「苦しい」


「痛い」


「重い」


「でも」


「捨てられない」


その瞬間。


無数の魂が泣き始める。


「ごめんなさい」


「ごめんなさい」


「ごめんなさい」


「ごめんなさい」


青年は慌てて首を振った。


「違う」


「謝らなくていい」


「君たちは悪くない」


しかし。


その優しさが。


さらに魂たちを泣かせる。


カクリは少し考えた。


そして。


ゆっくり言った。


「じゃあ」


「皆で持つ?」


「……え?」


「一人で持てないなら」


「皆で」


「持てばいい」


青年が固まる。


そんな発想。


一度もなかった。


「皆で……?」


「うん」


「友達も」


「家族も」


「いる」


「だから」


「半分」


「貸してもらう」


その時だった。


深淵の奥。


さらに奥。


誰も気付いていなかった場所で。


何かが。


ゆっくりと笑った。


「なるほど」


その声に。


深淵の父が振り向く。


黄泉津大神の兄も。


表情を変える。


「まさか」


すると。


闇の中から。


誰かが歩いてくる。


足音。


一歩。


また一歩。


そして。


姿が見えた瞬間。


深淵の父が。


驚愕した。


「……あなたが」


そこに立っていたのは。


誰よりも普通に見える。


一人の少女だった。


そして少女は。


カクリを見て。


嬉しそうに笑った。


「やっと会えたね」


「夜を歩く子」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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