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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第72夜 「家族の手」



今日も少女は夜を歩く。


「ヒヒヒッ」


「もう少し」


「もう少しで」


「完成だ」


赤い目の中心。


そこに潜む何者かの声。


だが。


それを聞いた瞬間。


黄泉津大神の表情が変わった。


恐怖。


後悔。


そして。


怒り。


「……あなた」


「まだ」


「そんなことを」


「やめなさい」


「ヒヒッ」


「やだ」


「もう少し」


「もう少しで」


「みんな幸せ」


「ずっと一緒」


「離れない」


「誰も」


「寂しくない」


その言葉に。


はっちゃんが顔をしかめる。


『気に食わねぇな』


「お兄ちゃん?」


断姫が見上げる。


『一人が嫌だから閉じ込める』


『寂しいから全部壊す』


『それで幸せになれるかよ』


「ヒヒッ」


「なれる」


「なれる」


「一人じゃない」


「みんな一緒」


「永遠」


その時。


カクリがぽつりと呟いた。


「……違う」


静寂。


「?」


「一緒は」


「閉じ込めることじゃない」


「……」


「帰る場所」


「だから」


「自由」


「……」


「?」


「わからない」


「うん」


「私も」


「難しい」


「でも」


「お姉ちゃんが言ってた」


「帰る場所は」


「いつでも帰れるから」


「家」


「……」


「……家」


暗闇の奥。


何かが揺れた。


「ヒヒッ」


「家」


「……」


「家?」


その声が。


ほんの少しだけ。


幼くなった。


そして。


ゴン。


再び釘を打とうとした音が。


止まる。


「……?」


最深層のさらに奥。


釘に貫かれた少女。


長女。


その少女が。


驚いたように顔を上げた。


「止まった……?」


赤い目。


無数の視線。


その中心。


そこにいた何者かが。


初めて。


困ったような声を出した。


「……家?」


「なんだっけ」


「それ」


「忘れた」


「……」


黄泉津大神の瞳から涙が零れる。


「……あの子」


「忘れてしまったの」


「全部」


夜禍がぎゅっと拳を握る。


「思い出して!」


マヨイも叫ぶ。


「家族だよ!」


れいなも涙目だ。


「皆でご飯食べたり!」


断姫も笑顔で手を振る。


「一緒に遊んだり!」


総長も豪快に笑う。


「喧嘩もする!」


冬華も優しく微笑む。


「そして仲直りする」


はっちゃんが鼻を鳴らした。


『面倒くせぇけどな』


「ヒヒ……」


「……」


「知らない」


「そんなの」


「忘れた」


「……」


「でも」


「懐かしい」


その瞬間だった。


最深層全体が。


震えた。


ドクン。


巨大な鼓動。


「!」


冬華が顔色を変える。


「何です!?」


総長も目を見開く。


「まだ何かおる!」


そして。


誰も知らなかった。


もっと深い場所。


最深層ですら浅い。


世界の底。


その場所で。


鎖。


無数の鎖。


それに縛られた巨大な何かが。


ゆっくりと。


目を開いた。


「……」


黄金の瞳。


神でも怪異でもない。


存在そのものが古い。


「目覚めるには」


「まだ早い」


静かな声。


だが。


その一言で。


暴れていた赤い目の群れが。


一斉に震えた。


「!?」


「……やだ」


「やだ」


「起きた」


「起きた」


「お兄ちゃん」


「起きた」


黄泉津大神の顔から血の気が消える。


「……嘘」


「なんで」


「まだ」


「眠っていたはず」


はっちゃんも固まった。


『おいおい』


『冗談だろ』


『あいつ』


『まだ生きてやがったのか……』


「知ってるの?」


カクリが聞く。


はっちゃんは。


珍しく。


冷や汗を流していた。


『知ってるも何も』


『神話の時代より前』


『怪異も神も生まれる前からいた』


『あの化け物は……』


そして。


鎖に縛られた存在は。


暗闇の中で。


ゆっくりと微笑んだ。


「黄泉」


「久しぶりだね」


その声を聞いた瞬間。


黄泉津大神は。


泣きそうな顔になった。


「……兄さん」


その一言に。


全員が息を呑んだ。


怪異の母。


黄泉津大神。


その兄。


そんな存在が。


この世界に。


まだいたのだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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