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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第71夜 「嗤う深淵」


今日も少女は夜を歩く。


「……嘘」


「なんで」


「なんであいつまで」


「そこにいるの……?」


黄泉津大神の顔から血の気が消えていた。


その姿に。


全員が息を呑む。


今まで。


怪異の母。


幽世そのもの。


神すら恐れる存在。


そう呼ばれる黄泉津大神が。


ここまで怯えた顔を見せたことはなかった。


総長が低い声で問う。


「黄泉津大神」


「何者じゃ」


「……」


返事はない。


いや。


答えられない。


そんな顔だった。


ヒヒッ。


ヒヒヒヒッ。


暗闇の奥。


誰もいないはずの場所から。


不気味な笑い声だけが響く。


れいなが冬華の服を掴んだ。


「こ、怖いよぉ……」


「大丈夫ですよ」


そう言う冬華も。


冷や汗を流していた。


『チッ』


はっちゃんが黄金の神気を纏う。


『出てこい』


『陰に隠れて笑ってんじゃねぇ』


「ヒヒッ」


「怒ってる」


「怒ってる」


「怖い」


「でも」


「面白い」


声。


男。


女。


老人。


子供。


様々な声が混ざり合う。


断姫が身震いした。


「お兄ちゃん」


『あぁ』


「気持ち悪い」


『同感だ』


すると。


カクリだけが。


じっと暗闇を見つめていた。


「……」


「笑ってる」


「え?」


夜禍が振り返る。


「うん」


「でも」


「泣いてる」


全員が目を見開く。


『何?』


「寂しい」


「悲しい」


「怒ってる」


「いっぱい」


「ぐちゃぐちゃ」


「……可哀想」


はっちゃんが目を細めた。


『見えてんのか』


「うん」


「なんとなく」


その時。


ゴン。


また。


釘を打つ音。


そして。


少女の声。


「お願い……」


「もう」


「怒らないで」


「駄目」


「皆を傷つけちゃ駄目」


「……!」


黄泉津大神が顔を上げる。


「長女!」


ゴン。


ゴン。


ゴン。


「お姉ちゃん!」


夜禍が叫ぶ。


「お姉ちゃん!」


「……」


マヨイも涙目になる。


「会いたい」


「お姉ちゃん」


しかし。


返事はない。


代わりに。


「ヒヒッ」


「優しい」


「優しい」


「優しい」


「だから」


「壊れた」


その声。


黄泉津大神が震える。


「やめて……」


「ヒヒッ」


「まだ」


「怯える?」


「母さん」


「……!」


全員が固まる。


母さん。


そう呼んだ。


「まさか……」


冬華が目を見開く。


「子供……?」


「ヒヒヒッ」


「子供?」


「違う」


「違う」


「違う」


「違う」


「私は」


「失敗」


「失敗」


「失敗」


「だから」


「捨てられた」


黄泉津大神が首を振る。


「違う!」


「違う!」


「私は!」


「捨ててない!」


「……」


「ヒヒッ」


「そうだね」


「そうだね」


「母さん」


「優しかった」


「優しすぎた」


「だから」


「壊れた」


「全部」


「全部」


「全部」


ゴゴゴゴ……


空間が歪む。


最深層が悲鳴を上げる。


『チッ!』


『感情で空間が歪んでやがる!』


総長が唸る。


「なんという呪力じゃ!」


「怪異の域を超えておる!」


すると。


カクリが一歩前に出た。


「……」


「泣いてる」


「ヒヒ?」


「一人?」


静寂。


笑い声が止まる。


「……」


「寂しい?」


「……」


「悲しい?」


「……」


「怒ってる?」


「……」


「全部?」


暗闇の奥。


何かが。


止まった。


「……ヒヒ」


「変」


「変」


「変」


「お前」


「変」


カクリは頷いた。


「うん」


「知ってる」


「よく言われる」


「ヒヒッ」


「面白い」


「面白い」


「夜を歩く子」


「……」


「お前」


「嫌いじゃない」


『おいおい』


はっちゃんが顔をしかめる。


『気に入られてんじゃねぇか』


「うん」


「よくある」


『ねぇよ!』


その瞬間。


暗闇のさらに奥。


ゴン。


釘を打つ音が止まった。


そして。


少女の声。


今までで一番近く。


「……カクリちゃん」


「!」


全員が振り向く。


「今」


れいなが目を丸くする。


「名前呼んだ?」


「うん」


カクリは頷く。


「お姉ちゃんの声」


「……!」


黄泉津大神が涙を流した。


「長女……」


「お願い」


「まだ来ちゃ駄目」


「そこは」


「深すぎる」


「でも」


「もうすぐ」


「もうすぐだから」


「待ってて」


「……」


「みんな」


「家族なんだから」


その声と共に。


暗闇の向こう。


一瞬だけ。


少女の姿が見えた。


長い髪。


優しい笑顔。


そして。


胸元から腹部にかけて。


巨大な錆びた釘が貫いていた。


その痛々しい姿に。


夜禍は泣き出した。


「お姉ちゃん!!」


マヨイも。


「お姉ちゃん!!」


黄泉津大神も。


「……ごめんなさい」


「ごめんなさい」


しかし。


少女は。


泣いている母へ。


優しく微笑んだ。


『お母さん』


『もう泣かないで』


『私は』


『ちゃんと』


『ここにいるから』


そして。


少女の背後。


その笑顔を。


無数の赤い目が。


じっと見つめていた。


まるで。


少女を逃がすまいとするように。


そして。


その赤い目の中心で。


誰かが。


楽しそうに笑った。


「ヒヒヒッ」


「もう少し」


「もう少しで」


「完成だ」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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