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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第67夜 「忘れられたもの」



今日も少女は夜を歩く。


「……嘘」


「なんで」


「まだ……」


「生きてたの?」


黄泉津大神。


怪異の母。


幽世そのもの。


その存在が。


初めて。


怯えていた。


全身を震わせ。


まるで幼子のように。


夜禍の少女が慌てて抱きつく。


「お母さん?」


「大丈夫?」


「……」


黄泉津大神は答えない。


ただ。


暗闇のさらに奥。


最深層よりも深い。


誰も踏み込んだことのない場所を見つめていた。


ゴリッ……


ゴリゴリ……


何か巨大なものが。


這う音。


冬華の背筋に悪寒が走る。


「……何です」


「何なんですか」


総長も震えている。


「こんな気配……」


「感じたこともない」


九条れいなは泣きそうになっていた。


「こ、怖いよぉ……」


断姫も顔色を失う。


「お兄ちゃん」


『あぁ』


「知ってる?」


『知らねぇ』


「え?」


『……知りたくもねぇ』


はっちゃんの声に。


余裕はなかった。


神である彼が。


初めて。


心の底から警戒していた。


ゴリ……


暗闇。


そこに。


二つの光が灯る。


目。


巨大な目。


しかし。


夜禍の目とは違う。


黄泉津大神の目とも違う。


感情がない。


意思もない。


ただ。


空虚。


「……見つけた」


声。


男とも女とも。


老人とも子供とも。


判別できない。


「見つけた」


「見つけた」


「見つけた」


声が重なる。


「かあさん」


その言葉に。


黄泉津大神が震えた。


「……!」


「やめて」


「お願い」


「もう」


「来ないで」


「かあさん」


巨大な目。


その奥から。


黒い腕が伸びる。


一本。


二本。


十本。


百本。


無数。


「かあさん」


「どこ?」


「どこ?」


「一人は嫌」


「見つけた」


「一緒」


「ずっと一緒」


夜禍の少女が怯える。


「なに……?」


「この子」


「誰?」


黄泉津大神が。


涙を流した。


「……私の」


「子供」


全員が固まる。


「え?」


冬華が目を見開く。


「子供……?」


総長も息を呑む。


「夜禍以外にも」


「いたのか……」


「……」


黄泉津大神は。


泣いていた。


「たくさん」


「いた」


「いっぱい」


「作った」


「寂しかったから」


「一人が嫌だったから」


「でも」


「みんな」


「壊れた」


「……」


「私の愛を」


「受け止められなかった」


「みんな」


「消えた」


「だから」


「忘れた」


「忘れたの」


「忘れなきゃ」


「壊れそうだったから」


その言葉。


カクリは。


どこか夜禍と似ていると思った。


寂しくて。


泣いて。


一人になりたくなくて。


ただ。


それだけ。


『……』


はっちゃんが目を閉じる。


『忘れたんじゃねぇ』


「……?」


『忘れようとしたんだ』


『自分を守るためにな』


「……」


「……うん」


黄泉津大神は泣いた。


「でも」


「忘れてくれなかった」


「この子だけ」


ゴリッ。


暗闇が裂ける。


そして。


姿が現れた。


小さい。


少年だった。


十歳ほど。


ボロボロの着物。


真っ黒な髪。


しかし。


背後には。


無数の腕。


全身には。


無数の目。


異形。


怪異。


なのに。


顔だけは。


普通の子供。


少年は。


泣きながら笑った。


「かあさん」


「会いたかった」


「ずっと」


「探してた」


「……!」


黄泉津大神が後ずさる。


「いや」


「ごめんなさい」


「ごめんなさい」


「許して」


少年は首を傾げる。


「?」


「なんで?」


「怒ってないよ?」


「だって」


「かあさんだから」


笑顔。


純粋。


無邪気。


だが。


その一歩で。


最深層が崩壊し始めた。


「まずい!」


冬華が叫ぶ。


「存在するだけで空間が!」


総長も青ざめる。


「怪異ですらない!」


「何じゃこやつ!」


『……』


はっちゃんが唸る。


『失敗作か』


「え?」


『違う』


『失敗なんかじゃねぇ』


『こいつは』


『愛されすぎて』


『壊れたんだ』


少年は笑う。


「かあさん」


「一緒」


「もう」


「離れない」


「ずっと」


「永遠」


「ね?」


そして。


その瞳が。


初めて。


カクリ達を見た。


「……」


「誰?」


「かあさんの」


「友達?」


「……」


「邪魔するの?」


笑顔。


だが。


その背後。


無数の腕が。


ゆっくりと。


全員へ向けて伸び始めた。


そして。


黄泉津大神は。


震える声で。


その少年の名を呼んだ。


「……マヨイ」


「お願い」


「もう」


「眠って」


しかし。


少年。


マヨイは。


泣きそうな笑顔で。


首を横に振った。


「やだ」


「だって」


「やっと」


「見つけたんだもん」


「かあさん」

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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