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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第64夜 「夜の果てより来るもの」


今日も少女は夜を歩く。


「……見つけた」


その声は。


夜禍のものではなかった。


誰も知らない暗闇。


誰も知らない場所。


そこで開いた一つの目。


その目は。


静かに笑っていた。



最深層。


小さな少女。


夜禍の本体。


真っ黒な着物を着た少女は、差し伸べられたカクリの手を見つめていた。


「……一緒に」


「帰る?」


少女の瞳が揺れる。


「……帰る?」


「うん」


「帰る」


「でも」


「私は」


「夜」


「怪異」


「悪い子」


カクリは首を横に振った。


「悪いことした」


「うん」


「だから」


「怒る」


少女はビクリと震える。


「……」


「でも」


「一人にしない」


「だから」


「帰ろう」


少女の目から涙が零れた。


「……ほんとう?」


「うん」


「嘘じゃない?」


「うん」


「……」


「嫌いにならない?」


「ならない」


「……」


「捨てない?」


「捨てない」


「……」


少女は震える手を伸ばした。


その瞬間。


夜禍の世界全体が大きく揺れる。


ゴゴゴゴゴ……


「!?」


篠崎冬華が顔を上げる。


「何ですか!?」


総長も目を見開く。


「揺れておる!?」


断姫が周囲を見る。


「違う!」


「揺れてるんじゃない!」


「壊されてる!」


『何!?』


はっちゃんも驚く。


次の瞬間。


バキッ!!


最深層の空間そのものに亀裂が走った。


「え……?」


カクリが振り返る。


バキバキバキッ!!


無数のひび。


そして。


暗闇の向こうから。


巨大な何かが覗いていた。


夜禍の少女が顔を青くする。


「……いや」


「いや」


「来ちゃだめ」


「来ないで」


「……」


少女の震え。


恐怖。


カクリは気づいた。


この子は。


夜禍は。


“あれ”を恐れている。


『おい』


はっちゃんの声が低くなる。


『まさか』


断姫も青ざめていた。


「そんな」


「嘘……」


「まだいたの?」


九条れいなが震える。


「な、なに?」


篠崎冬華が叫ぶ。


「知っているのですか!?」


断姫は震えていた。


「お兄ちゃん……」


『あぁ』


『最悪だ』


総長が唸る。


「なんじゃ?」


はっちゃんは珍しく。


笑わなかった。


『夜禍じゃねぇ』


『もっと前だ』


『もっと古い』


『怪異ですらねぇ』


『夜禍が生まれる前からいた』


『最初の……』


バキィィィン!!


空間が砕けた。


そして。


暗闇の中から。


白い指が現れる。


人間の指。


だが。


あまりにも巨大。


山ほどもある一本の指。


それだけで。


最深層が悲鳴を上げる。


夜禍の少女は泣きながら叫んだ。


「嫌!」


「怖い!」


「嫌だ!」


「お母さん!」


「嫌だよ!」


「……!」


全員が固まった。


カクリも目を見開く。


「お母さん?」


夜禍の少女は泣いていた。


「お母さん!」


「怒らないで!」


「いい子にするから!」


「一人にしないで!」


「嫌!」


「嫌ぁぁぁぁぁ!!」


その瞬間。


暗闇の向こう。


巨大な目が開いた。


しかし。


それは夜禍の目とは違う。


優しい。


慈愛。


そして。


底知れない狂気。


「夜禍」


女の声。


優しい声。


まるで母親のような。


「どうして外に出たの?」


「どうしてお友達を作ったの?」


「どうして」


「お母さん以外と仲良くするの?」


ニコリ。


優しい笑顔。


なのに。


全員の背筋が凍る。


九条れいなが涙目になる。


「こわい……」


冬華ですら冷や汗を流す。


「この存在……」


総長も震えていた。


「馬鹿な……」


「こんなもの……」


断姫が怯える。


「お兄ちゃん……」


『……』


はっちゃんの顔から笑みが消えていた。


『久しぶりだな』


『母神』


『いや』


『全ての怪異の母』


『幽世そのもの』


『――黄泉津大神』


その名を聞いた瞬間。


夜禍の少女は。


ガタガタと震えながら。


泣き叫んだ。


「お母さん……」


「ごめんなさい……」


「ごめんなさい……!」


そして。


暗闇の奥で。


黄泉津大神は。


優しく。


微笑んだ。


「大丈夫」


「お母さんは」


「怒ってないわ」


「だから」


「皆で」


「帰りましょう?」


しかし。


その笑顔を見たはっちゃんだけは。


冷や汗を流しながら。


静かに呟いた。


『……嘘つけ』


『テメェが笑ってる時が』


『一番怖ぇんだよ』

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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