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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第63夜 「夜の向こう側」



今日も少女は夜を歩く。


三つ目の目。


それは。


今までの巨大な目とは違っていた。


怒りも。


憎しみも。


悪意もない。


ただ。


静かに。


じっと。


宵町カクリを見つめていた。


「……」


カクリもまた。


その目を見返す。


不思議だった。


怖くない。


むしろ。


どこか寂しそうだった。


夜禍の声が響く。


「見えるか」


「夜の中心が」


「人の心の底」


「誰にも理解されず」


「誰にも見つけてもらえない」


「最初の孤独」


「それが夜の始まり」


断姫が小さく呟く。


「……泣いてる」


『あぁ』


はっちゃんも頷く。


『こいつ』


『泣いてやがる』


巨大な三つ目。


その目から。


黒い涙が流れていた。


ポタリ。


ポタリ。


落ちた涙は。


無数の怪異へと姿を変えていく。


人型。


獣型。


影。


霧。


異形。


ありとあらゆる怪異。


しかし。


どの怪異も。


苦しそうだった。


「助けて」


「怖い」


「一人にしないで」


「帰りたい」


「寂しい」


そんな声ばかり。


九条れいなが涙を浮かべる。


「この子たち……」


篠崎冬華も目を伏せた。


「これが……怪異の本当の姿……」


夜禍は笑う。


「そうだ」


「怪異とは」


「人の心の傷」


「忘れられた想い」


「行き場を失った願い」


「故に」


「消えることはない」


「人がいる限り」


「夜は続く」


『……』


はっちゃんは何も言わなかった。


神である自分が。


ずっと怪異を断ち続けてきた。


それが間違いだったとは思わない。


人を守るために必要だった。


だが。


今目の前にいる怪異達。


そのほとんどは。


ただ泣いているだけだった。


『皮肉なもんだな』


断姫が悲しそうに笑う。


「お兄ちゃん」


『あぁ』


「オレ達」


『ずっと』


『泣いてる奴らを斬ってたのかもしれねぇ』


夜禍が微笑む。


「だから私は必要だ」


「夜を受け入れる者」


「悲しみを抱える者」


「それが私」


「私は悪ではない」


「私は夜」


「私は人」


「私は孤独」


「私は涙」


「私は願い」


「私は怪異」


カクリは静かに聞いていた。


そして。


一歩前に出る。


「違う」


夜禍が目を細める。


「何?」


「一人で抱えてる」


「だから苦しい」


「だから泣いてる」


夜禍は笑った。


「違う」


「誰も分かってくれない」


「神も」


「人も」


「怪異も」


「誰も」


「だから私が抱える」


「全部」


「永遠に」


カクリは首を横に振る。


「一人じゃない」


「……」


「泣いてるなら」


「一緒に泣く」


「寂しいなら」


「一緒にいる」


「怖いなら」


「手を繋ぐ」


夜禍の笑みが止まる。


「……」


「怪異でも?」


「うん」


「神でも?」


「うん」


「人でも?」


「うん」


「私でも?」


「うん」


静寂。


最深層。


誰も動けなかった。


夜禍が。


初めて。


困ったような顔をした。


「……馬鹿だ」


「そんなこと」


「できるわけがない」


「全部なんて」


「抱えられない」


カクリは頷く。


「うん」


「無理」


夜禍が目を細める。


「なら」


「なぜ」


「だから」


カクリは笑った。


「みんなでやる」


断姫も笑う。


「うん!」


『へへっ』


はっちゃんも笑う。


『一人じゃねぇ』


九条れいなが手を上げる。


「私も!」


篠崎冬華が静かに微笑む。


「仕方ありませんね」


総長も笑う。


「老いぼれも付き合おう」


ユウ。


ミコ。


村人達。


霊能者達。


皆が立ち上がる。


夜禍は呆然としていた。


「……何故だ」


「私は」


「お前達を苦しめた」


「人を殺した」


「怪異を生んだ」


「それでも?」


カクリは答える。


「悪いことしたら」


「怒る」


「でも」


「泣いてるなら」


「放っておけない」


夜禍の瞳が揺れる。


そして。


三つ目の巨大な目。


その奥。


そこに。


小さな少女がいた。


真っ黒な髪。


真っ黒な着物。


一人ぼっちで座り込んでいる。


断姫が驚く。


「あの子……」


『本体か』


はっちゃんが目を細める。


少女は怯えていた。


「こないで」


「嫌」


「怖い」


「また」


「一人になる」


「嫌」


カクリはゆっくり歩く。


「大丈夫」


「怖くない」


少女は震える。


「嘘」


「みんな」


「いなくなる」


「私だけになる」


「だから」


「夜にした」


「みんな一緒にいれば」


「寂しくないから」


涙。


小さな少女の涙。


カクリは。


その前にしゃがみ込んだ。


「……」


そして。


そっと。


手を差し伸べる。


「一緒に帰ろう」


少女が目を見開く。


その瞬間。


夜禍の世界全体が。


大きく揺れた。


そして。


遥か彼方。


誰も知らない場所で。


暗闇の中。


一つの目が開いた。


「……見つけた」


その声は。


夜禍のものではなかった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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