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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第5夜 「朝の気配」



今日も少女は夜を歩く。


――けれど今は、朝だった。


空は青く、太陽の光が街を照らしている。

昨夜まであれほど不気味に見えていた住宅街も、今は普通の通学路だ。


小学生達の笑い声。

自転車のベル。

犬の散歩をする人。


夜の気配は薄い。


だが、完全に消えたわけではない。


宵町カクリはランドセルを背負い、静かに歩いていた。


その鞄には、小さな鋏のキーホルダーが付いている。


もちろん普通のキーホルダーではない。


はっちゃんだった。


『気をつけろよ』


頭の中へ声が響く。


カクリは表情を変えず、前を向いたまま歩く。


『朝とはいえ、強いやつは残っている』


通学路の角。


古びたアパートの影に、一瞬だけ黒い揺らぎが見えた。


だが、昼の光に押されているのか、その輪郭は薄い。


『見かけた時は――』


「わかってる。無視、でしょう?」


小声で返す。


周囲から見れば、独り言を呟いているようにしか見えない。


『あぁ、正解だ』


はっちゃんの声は軽い。


『昼間はお前の力も落ちる。無理して戦う時間じゃねぇ』


カクリは小さく頷いた。


夜と昼では違う。


夜は幽世と常世が重なる時間。


だからこそ、お化けを切ることができる。


だが昼は違う。


世界が閉じている。


お化けの気配も弱まる代わりに、こちらの力も不安定になるのだ。


カクリは通学路を見渡した。


いつもの朝。


いつもの景色。


それなのに、自分だけが裏側を知っている。


そう思うと、少しだけ不思議だった。


そのときだった。


「お~い!」


明るい声が飛んでくる。


はっちゃんが小さく鳴った。


『おっと、お友達の登場だ。オレは黙るぜ』


カクリは振り向く。


そこには、一人の少女が立っていた。


長い黒髪を揺らしながら、元気よく手を振っている。


「……れいな。おはよう」


「うん!おはよーカクリちゃん!」


彼女はにこにこ笑いながら駆け寄ってくる。


宵町カクリは少しだけ目を細めた。


「うん」


彼女は九条れいな。


カクリの友達だった。


昔からよく話しかけてくれる子で、クラスでも明るい方だ。


カクリが静かな性格だからか、れいなはいつも一方的なくらい元気に喋る。


だが今日は、少しだけ様子がおかしかった。


はっちゃんが黙っている。


いや、正確には“黙り込んだ”。


普段なら何か一言は挟んでくるはずなのに。


カクリが少し不思議に思ったその時、頭の中へ低い声が響いた。


『……ん?』


ほんの少しだけ警戒を含んだ声。


『この気配……』


カクリは目を瞬かせる。


『この娘、もしや……』


はっちゃんはそこで言葉を切った。


『霊能者……いや、なんでもない』


「?」


カクリは小さく首を傾げる。


だが、れいなは気づいていないようだった。


「一緒に行きましょ!」


そう言うなり、れいなは元気よく走り出す。


「あ、まって」


カクリは慌てて声をかけた。


「走ると危ない」


朝の通学路は人も多い。


ぶつかれば転ぶかもしれない。


だが、れいなは笑いながら振り返った。


「あははははは!こっちだよ~!」


そしてそのまま角を曲がっていく。


「……もう」


カクリはため息を吐き、小走りで追いかけた。


その途中だった。


道路脇のガードレールの下。


ほんの一瞬だけ、黒い手のようなものが見えた。


昼なのに。


カクリの足が止まりかける。


『見るな』


はっちゃんの声が鋭く響く。


『無視しろ』


カクリは唇を引き結んだ。


黒い手は地面に溶けるように消えていく。


昼間に残っているということは、かなり強い。


だが今は戦えない。


戦うべきじゃない。


カクリは視線を逸らし、そのまま歩き出した。


『……正しい判断だ』


はっちゃんが静かに言う。


『昼は生きてる人間の時間だ。夜とは違う』


カクリは小さく頷いた。


夜になれば、また歩く。


また探す。


姉を襲ったお化けを。


だが今は、普通の小学生でいなければいけない。


学校へ行って、授業を受けて、友達と話す。


その普通を壊さないためにも。


「カクリちゃーん!」


前かられいなの声が聞こえる。


「早く早くー!」


カクリは少しだけ笑った。


「……はいはい」


そして少女は、朝の街を歩いていく。


夜の秘密を胸に隠したまま。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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