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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第58夜 「夜の底にいたもの」



今日も少女は夜を歩く。


「――やっと」


「眠りから覚めたか」


不気味な声。


赤い目の裏側。


そこにいた。


巨大な影。


いや。


影と呼ぶにはあまりにも異様だった。


真っ黒な身体。


形は定まらない。


煙のようでもあり。


泥のようでもあり。


しかし。


その全身には無数の目。


無数の口。


そして。


歪んだ笑みが浮かんでいた。


「……」


宵町カクリは息を呑む。


九条れいなも凍り付いていた。


篠崎冬華ですら言葉を失う。


だが。


誰よりも。


はっちゃんが震えていた。


『……嘘だろ』


『なんで』


『なんでテメェが……』


黒い影は笑う。


「久しいな」


「断神」


「はっちゃん」


「いや」


「神断鋏ノ命」


その瞬間。


空気が変わった。


「え?」


カクリが目を見開く。


冬華も驚愕する。


「神断鋏ノ命……?」


『その名で呼ぶんじゃねぇ!!』


はっちゃんが怒鳴った。


初めてだった。


ここまで怒るはっちゃんを見るのは。


『テメェ!!』


『なんで生きてやがる!!』


黒い影は楽しそうに笑う。


「生きてなどいない」


「元より」


「私は夜」


「人の恐怖」


「忘れ去られた悪意」


「そして」


「幽世そのもの」


「名を」


「夜禍」


「そう呼ばれていた」


ゴクリ。


総長が息を呑む。


「夜禍……」


「まさか……」


冬華の顔色も変わる。


「霊能者の伝承にある」


「最古の怪異……」


「……」


カクリだけが知らない。


「知ってるの?」


冬華は震える声で答える。


「古代」


「神々が封印したとされる存在」


「怪異を生み出す怪異」


「夜そのもの」


「ありえません……」


「封印されたはずです」


夜禍は笑った。


「封印?」


「違う」


「私は眠っただけ」


「そして」


「待っていた」


「悲しみを」


「寂しさを」


「絶望を」


「願いを」


「それらが熟す時を」


ユウが震える。


「……誰?」


夜禍は優しく笑った。


「私は友達」


「お前が泣いていた時」


「一人ぼっちだった時」


「話を聞いてあげた」


「寂しかったな?」


「辛かったな?」


ユウは怯えていた。


「……うん」


「だから」


「皆を一緒にしてあげた」


「……!」


ミコの顔色が変わる。


「違う!」


「ユウくん!」


「そいつは!!」


夜禍は笑う。


「違わない」


「私は願いを叶えただけ」


「それの何が悪い?」


その言葉と共に。


千の目の怪物の身体から黒い霧が溢れ出す。


「まずい!」


冬華が叫ぶ。


「離れて!!」


ゴォォォォォ!!


怪物が苦しみ始める。


ユウが泣き叫ぶ。


「痛い!」


「苦しい!」


「嫌だ!」


「一人は嫌だ!」


夜禍が笑う。


「大丈夫」


「また眠ればいい」


「永遠に」


その瞬間。


「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」


はっちゃんが叫んだ。


赤黒い光。


いや。


黄金。


初めてだった。


はっちゃんが放つ黄金の神気。


『テメェ!!』


『ガキを利用しやがって!!』


『五十年も!!』


『ふざけんじゃねぇ!!』


夜禍の笑みが消える。


「……変わらんな」


『当たり前だ!!』


『オレは神だ!!』


『人の願いを喰らうテメェみたいなクソ野郎とは違う!!』


カクリは驚いていた。


「はっちゃん……」


『カクリ!!』


「うん!」


『あいつだけは許すな!!』


『ユウ坊も!』


『村の連中も!』


『全部利用されてたんだ!!』


「……!」


ユウが泣いている。


ミコが泣いている。


村人達も。


怪物も。


皆。


苦しんでいる。


その中心で。


夜禍だけが笑っている。


「人は愚かだ」


「だから美しい」


「悲しみは甘い」


「絶望は素晴らしい」


「私は」


「それを食らう」


「夜だから」


その瞬間。


カクリの目が変わった。


怒り。


初めてだった。


姉を襲った怪異を探す時とも違う。


もっと。


深い怒り。


「……」


『カクリ?』


「許さない」


静かな声。


「友達泣かせた」


「姉ちゃん苦しめた」


「みんな泣いてる」


巨大断ち鋏を握る。


「お前」


「嫌い」


夜禍は笑った。


「ほう?」


「なら」


「どうする?」


「切る」


即答。


夜禍が初めて笑みを深めた。


「面白い」


「なら」


「遊ぼう」


「神の鋏を持つ少女」


「宵町カクリ」


「お前の絶望を」


「見せてくれ」


その瞬間。


夜空が裂けた。


月が消える。


星が消える。


夜哭山の上空。


そこに。


巨大な目が現れる。


夜空そのものが。


カクリ達を見下ろしていた。


そして。


はっちゃんが。


かつてないほど低い声で呟いた。


『……最悪だ』


『完全に目覚めやがった』

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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