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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第57夜 「約束の遊び」


今日も少女は夜を歩く。


「……ねぇ」


「まだ」


「遊んでくれる?」


幼い男の子の声。


その声が響いた瞬間。


暴れ狂っていた千の目の怪物が止まった。


無数の腕が空中で止まる。


大地の揺れも止まった。


「……男の子?」


九条れいなが呟く。


篠崎冬華も目を細めた。


「この声……」


ゴォォォ……


怪物の胸。


赤い目の奥。


そこから小さな人影が浮かび上がる。


五歳くらいの男の子。


古い時代の服。


黒い髪。


そして。


寂しそうな顔。


「遊ぼうよ」


「一人は嫌なんだ」


「帰りたくない」


「だって」


「一人になるから」


「……!」


夜哭ミコが息を呑む。


「ユウくん……?」


男の子が振り向く。


「ミコちゃん」


嬉しそうに笑う。


「やっと会えた」


「ユウくん……」


カクリはミコを見る。


「知ってるの?」


ミコは震えながら頷く。


「……うん」


「私の弟」


「え?」


全員が驚く。


総長も目を見開く。


「弟……じゃと?」


ミコは涙を流していた。


「夜哭ユウ」


「私の……弟」


「病気で」


「ずっと外で遊べなかった」


ユウは笑っている。


「でも」


「みんな遊んでくれたよ?」


「村のみんな」


「お父さん」


「お母さん」


「ミコちゃん」


「みんな」


「優しかった」


「だから」


「一人は嫌」


「帰りたくない」


「ずっと一緒がいい」


その言葉。


はっちゃんが低く呟く。


『そういうことか』


「はっちゃん?」


『核だ』


『願いの中心』


『全部の始まり』


『この坊主だ』


「……」


ユウは悪意のない顔で笑う。


ただ。


寂しそうだった。


「みんな帰っちゃう」


「だから」


「帰れなくした」


その言葉に。


霊能者達が息を呑む。


「え?」


「だって」


「寂しいもん」


「一人は嫌」


「みんなと一緒がいい」


純粋。


だからこそ恐ろしい。


悪意ではない。


憎しみでもない。


ただ。


寂しさ。


それだけ。


その願いが。


村を飲み込み。


人を縛り。


怪異になった。


「ユウくん……」


ミコが涙を流す。


「もうやめよう?」


「みんな苦しいよ?」


「嫌」


「なんで?」


「また一人になる」


「嫌だ」


「嫌だ」


「嫌だ」


ユウの目から涙が溢れる。


それに呼応するように。


怪物も泣き始める。


ゴォォォォォォ!!


「帰らない!」


「帰らない!」


「一人は嫌!!」


無数の目が開く。


暴走が始まる。


『チッ!』


はっちゃんが叫ぶ。


『時間切れだ!!』


赤い目が輝く。


無数の腕が降り注ぐ。


「結界展開!!」


冬華の札が舞う。


バチィィィ!!


結界が腕を受け止める。


しかし。


ひび割れる。


「くっ……!」


総長達も術を重ねる。


「カクリさん!!」


「今のうちです!!」


カクリは走る。


「はっちゃん!」


『おうよ!!』


巨大断ち鋏が赤く光る。


「ユウくん!!」


男の子が振り向く。


「?」


「一人じゃない!」


「嘘だ!」


「みんな帰る!」


「帰らない!」


「嘘!」


「嘘じゃない!」


カクリは叫ぶ。


「ミコちゃんも!」


「姉ちゃんも!」


「れいなちゃんも!」


「冬華さんも!」


「みんないる!」


「私は!」


「帰らない!!」


「……え?」


ユウが止まる。


「遊ぶ!」


「え?」


「また遊ぼ!」


「だから!」


「みんなを離して!!」


ユウの瞳が揺れる。


「……ほんと?」


「うん!」


「また?」


「うん!」


「約束?」


「約束!」


ユウは震えていた。


「でも」


「みんな忘れる」


「忘れない!」


「また一人になる」


「なら!」


カクリは笑った。


「私が友達になる!」


その瞬間。


時間が止まった。


ミコも。


ユズキも。


冬華も。


れいなも。


誰もが目を見開く。


ユウは呆然としていた。


「……友達?」


「うん!」


「だから!」


「もう泣かないで!」


「一人じゃない!」


ユウの瞳から涙が零れる。


「……ほんと?」


「ほんと!」


「ずっと?」


「うん!」


「……」


ユウは泣いた。


五十年間。


泣き続けていた少年。


初めて。


救われたように。


「……ありがとう」


その瞬間。


赤い目に大きな亀裂が走る。


ピシィィィ!!


怪物全体が震える。


ゴォォォォォォ!!


だが。


その咆哮は。


苦しみではなかった。


まるで。


長い悪夢から目覚めるような。


安堵の声。


そして。


怪物の中心。


さらに奥。


赤い目の裏側。


そこに。


何か別のものがいた。


真っ黒な。


巨大な影。


無数の牙。


無数の目。


そして。


不気味な笑み。


ソレは。


初めて口を開いた。


「――やっと」


「眠りから覚めたか」


その声を聞いた瞬間。


はっちゃんの表情が凍りついた。


『……な』


『なんでだよ』


『なんでテメェがいる……!?』

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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