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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第49夜 「消えた村の灯」



今日も少女は夜を歩く。


大型車両の列は夜哭山の麓へ到着した。


車が停止する。


エンジン音が静かに消えていく。


周囲には深い森。


月明かりだけが木々を照らしていた。


車内の全員が緊張している。


先ほどの無線。


そして消えた通信。


誰も楽観視していなかった。


ドアが開く。


冷たい夜風が吹き込む。


宵町カクリは車から降りた。


巨大断ち鋏を握る。


はっちゃんも警戒している。


『嫌な場所だ』


「うん」


空気が重い。


まるで山全体が息を潜めているようだった。


篠崎冬華が前へ出る。


「全員、二人一組で行動してください」


霊能者達が頷く。


「勝手な単独行動は禁止です」


続いて総長が口を開いた。


「まずは先行班との合流を優先する」


誰も異論はない。


通信が途絶えた仲間を探す。


当然だった。


やがて。


山道を進み始める。


草木を踏む音だけが響く。


数分後。


先頭を歩いていた霊能者が足を止めた。


「見えました」


全員が顔を上げる。


木々の隙間。


その向こう。


灯りが見えた。


ぽつり。


ぽつり。


幾つもの明かり。


まるで人が暮らしている村のようだった。


だが。


その光景に誰も安心しない。


むしろ逆だった。


五十年前に消えた村。


存在するはずのない村。


それが目の前にある。


異常以外の何物でもない。


『おい』


はっちゃんが呟く。


『気付いたか』


「うん」


カクリも感じていた。


音がない。


村なのに。


人の生活音が全く聞こえない。


犬もいない。


虫もいない。


話し声もない。


ただ灯りだけがある。


まるで誰かが村を真似して作った模型だった。


冬華も異変に気付いている。


「慎重に進みます」


一行は村へ入った。


古い家々。


畑。


井戸。


神社。


全て普通に見える。


だが。


やはり音がない。


不自然なほど静かだった。


その時。


れいなが小さく声を上げた。


「いた」


全員が振り向く。


家の前。


老人が立っている。


白髪。


和服姿。


じっとこちらを見ている。


さらに。


別の家の前。


女性。


その隣。


子供。


気付けば。


あちこちに人影が立っていた。


誰も動かない。


誰も喋らない。


ただ見ている。


カクリはその顔を見た。


そして。


息を呑んだ。


「......同じ」


無線で聞いた通りだった。


老人も。


女性も。


子供も。


全員同じ顔だった。


同じ目。


同じ口。


同じ表情。


人形を複製したように。


全て同じだった。


『気持ち悪ぃな』


はっちゃんが唸る。


冬華が札を握る。


「何者ですか」


問い掛ける。


返事はない。


住民達は動かない。


すると。


一人の少年がゆっくり前へ出た。


十歳くらい。


しかし顔は全員と同じ。


少年は口を開く。


「おかえり」


静かな声だった。


誰に向けた言葉なのかわからない。


「おかえり」


また言う。


そして。


周囲の住民達も一斉に口を開いた。


「おかえり」


「おかえり」


「おかえり」


「おかえり」


「おかえり」


同じ声。


同じ抑揚。


同じ表情。


全員が同じ言葉を繰り返す。


れいなが後退る。


「な、なにこれ......」


気味が悪い。


異常だった。


冬華が前へ出る。


「先行班を知りませんか」


住民達は答えない。


ただ。


「おかえり」


それだけを繰り返す。


そして。


一人が指を差した。


村の奥。


さらに奥。


山へ続く道。


その先だった。


「......あっち」


初めて別の言葉を話した。


「帰った」


冬華の表情が険しくなる。


「帰った?」


「うん」


少年が笑う。


だがその笑顔も不自然だった。


まるで笑顔を真似しているだけ。


「みんな帰った」


「どこへ」


「おうち」


意味がわからない。


しかし。


その瞬間だった。


カクリがあるものを見つける。


地面。


家の陰。


そこに落ちていた。


「......!」


駆け寄る。


拾い上げる。


それは霊能者が持つ通信機だった。


傷だらけになっている。


先行班の物だ。


冬華も確認する。


「間違いありません」


先行班の装備だった。


だが。


持ち主がいない。


血もない。


争った跡もない。


通信機だけが落ちている。


『消えたか』


はっちゃんが低く呟く。


その時だった。


村の外れ。


山へ続く道の先。


何かが動いた。


白い影。


一瞬だけ。


カクリは目を見開く。


「あの子」


白い少女だった。


間違いない。


だが。


今度は逃げなかった。


村の奥で立ち止まり。


こちらを見ている。


そして。


ゆっくり手を上げた。


まるで。


ついて来いと言うように。


『おい』


はっちゃんが警戒する。


「うん」


わかっている。


危険かもしれない。


罠かもしれない。


だが。


カクリには確信があった。


あの少女は何かを伝えようとしている。


そして。


先行班が消えた理由も。


五十年前に村が消えた理由も。


全て。


この先にある。


少女は森の奥へ歩き始めた。


その背中を見ながら。


カクリは巨大断ち鋏を握り直す。


夜哭山の闇はさらに深くなっていく。


そして森の奥から。


誰かが笑う声が聞こえた。


クスクス。


クスクス。


だがその声は。


今までよりずっと近かった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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