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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第47夜 「目覚めの咆哮」



今日も少女は夜を歩く。


ゴォォォォォォォォォォォォン――――。


夜空を震わせる咆哮が響いた。


山の方角。


黒い呪気の柱が空へ伸びている。


館の敷地にいた全員がその異常な気配を感じ取っていた。


霊能者達が次々と外へ飛び出してくる。


緊急事態。


誰の目にも明らかだった。


宵町カクリは呪気の柱を見つめる。


先ほどまでそこにいた白い少女は消えていた。


まるで最初から存在しなかったように。


しかし。


最後に残した言葉だけは頭に焼き付いている。


――今度こそお姉ちゃんを助けて。


「......」


カクリは拳を握る。


篠崎冬華も険しい表情で山を見ていた。


「全隊員に連絡」


近くの霊能者へ指示を飛ばす。


「結界班を招集してください」


「了解!」


「医療班も待機」


「はい!」


周囲が慌ただしく動き始める。


だが。


はっちゃんは別のことを考えていた。


『なぁ』


低い声。


『あの嬢ちゃん』


「うん」


『姉ちゃんのこと知ってやがった』


「......うん」


偶然ではない。


絶対に。


何かを知っている。


だが今は追えない。


目の前の異変の方が優先だった。


再び。


咆哮が響く。


ゴォォォォォォォォォッ!!


今度はさらに近い。


地面が揺れた。


館の窓ガラスが震える。


れいなが顔を青くする。


「な、なにあれ......」


篠崎冬華は短く答えた。


「わかりません」


だが。


その言葉が逆に異常だった。


篠崎冬華がわからない。


つまり記録にない。


未知の怪異。


それも相当危険な存在。


その時。


館の奥から一人の老人が現れた。


白髪。


和服。


杖を持っている。


だが背筋は真っ直ぐだった。


周囲の霊能者達が道を開ける。


かなり偉い人物らしい。


「総長」


誰かがそう呼んだ。


老人は頷く。


そして山を見る。


「......目覚めたか」


静かな声。


だが重みがあった。


冬華が振り返る。


「ご存知なのですか」


老人は少し目を閉じる。


「完全にはな」


「では」


「昔話じゃ」


周囲が静まり返る。


老人は山の方角を見つめたまま続けた。


「今から五十年以上前」


誰も喋らない。


「この地で一つの村が消えた」


カクリも聞いていた。


「村?」


老人は頷く。


「小さな山村じゃ」


「災害ですか」


「違う」


老人の目が細くなる。


「村人全員が一夜で消えた」


空気が冷えた。


れいなが息を呑む。


老人は続ける。


「死体は見つからんかった」


「......」


「血痕もない」


「......」


「何も残らんかった」


まるで。


最初から存在しなかったかのように。


カクリの背中に寒気が走る。


「その後」


老人が呟く。


「山に近付いた者達が同じ言葉を残した」


「言葉?」


冬華が問う。


老人はゆっくり答えた。


「巨大な影を見た」


沈黙。


「それだけじゃ」


「巨大な影......」


「姿は誰も覚えておらん」


「覚えてない?」


「そうじゃ」


奇妙だった。


見たはずなのに。


覚えていない。


まるで記憶そのものが消されるように。


『気に入らねぇ話だな』


はっちゃんが呟く。


老人も同意した。


「ワシもじゃ」


その時。


館の警報がさらに大きく鳴った。


ビーッ!ビーッ!ビーッ!


霊能者が走ってくる。


「報告です!」


息を切らしていた。


「山麓の監視班との通信が途絶えました!」


その場がざわつく。


冬華の目が鋭くなる。


「何人ですか」


「三名です!」


「最後の連絡は」


「助けてくれ、と......」


そこまで言って。


霊能者は言葉を止めた。


顔色が悪い。


「続けなさい」


冬華が促す。


霊能者は震える声で言った。


「最後に」


ゴクリ。


唾を飲む音。


「子供の笑い声が聞こえました」


その瞬間。


カクリとはっちゃんが同時に反応した。


「!」


『まさか』


子供の笑い声。


白い少女。


クスクスという声。


偶然とは思えない。


冬華も気付いたらしい。


視線をカクリへ向ける。


「関係があるかもしれません」


「うん」


カクリは頷いた。


そして。


山を見る。


黒い呪気の柱はさらに大きくなっていた。


まるで何かが目覚め続けているように。


老人が杖を握る。


「総員」


重い声が響く。


館の霊能者達が振り向く。


「緊急討伐任務を発令する」


空気が変わった。


誰も笑わない。


誰も喋らない。


命懸けの任務。


それを全員が理解している。


老人は続ける。


「目的地は夜哭山」


夜哭山。


その名前が告げられた瞬間。


遠くの山から再び咆哮が響いた。


ゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!


夜空が震える。


木々が揺れる。


地面が鳴る。


まるで。


山そのものが生きているようだった。


カクリは巨大断ち鋏を握る。


姉を襲った怪異。


白い少女。


消えた村。


巨大な影。


全てがどこかで繋がっている気がした。


そして。


夜哭山の深い闇の中。


誰にも見えない場所で。


何か巨大な存在がゆっくりと目を開いた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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