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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第46夜 「窓の向こうの少女」



今日も少女は夜を歩く。


「館の外で白い女の子を見たの」


れいなの言葉が部屋の空気を凍り付かせた。


カクリは一瞬だけ目を見開く。


はっちゃんも机の上で沈黙した。


やがて。


『本当に見たのか』


低い声が響く。


れいなは真剣な顔で頷いた。


「うん」


いつもの明るさはなかった。


冗談を言っている様子もない。


「窓の外」


「どこ?」


「中庭の向こう」


カクリはすぐに窓へ向かった。


カーテンを開く。


夜の館。


月明かり。


静かな中庭。


そして――。


いた。


白い少女。


木の傍に立っている。


長い黒髪。


白い服。


俯いた顔。


間違いない。


あの少女だった。


「......」


カクリの心臓が強く鳴る。


少女は逃げない。


ただじっとこちらを見ている。


『おい』


はっちゃんの声。


『妙だぞ』


「うん」


今までならすぐ消えていた。


だが今回は違う。


まるで待っているようだった。


その時。


背後から声が聞こえた。


篠崎冬華だった。


「何かありましたか」


れいなが振り返る。


「先生!」


冬華も窓を見る。


そして表情が変わった。


「......なるほど」


冷静な彼女が警戒している。


それだけで異常さがわかる。


「皆さんはここに」


そう言いながら札を取り出す。


だが。


カクリは首を振った。


「行く」


「カクリさん」


「話したい」


冬華は少し考える。


そして小さく息を吐いた。


「なら私も同行します」


『当然だな』


はっちゃんが言う。


れいなも拳を握る。


「私も!」


「ダメです」


即答だった。


「ええっ!?」


「今回は待機です」


「そんなぁ......」


れいながしょんぼりする。


だが反論はしなかった。


危険だと理解しているからだ。


数分後。


カクリ。


冬華。


はっちゃん。


三人は館の外へ出た。


夜風が吹く。


中庭は静かだった。


虫の声だけが聞こえる。


少女はまだいる。


逃げない。


動かない。


ただこちらを見ている。


距離は二十メートルほど。


ゆっくり近付く。


十五。


十。


五。


そして。


数歩先。


ようやく少女の顔が見えた。


年齢はカクリと同じくらい。


整った顔立ち。


青白い肌。


だが。


どこか違和感がある。


人形のようだった。


「......あなた」


カクリが声を掛ける。


少女は答えない。


「誰?」


沈黙。


風が吹く。


木の葉が揺れる。


少女はゆっくり口を開いた。


「やっと」


小さな声。


「会えた」


カクリの目が揺れる。


「私に?」


少女は頷く。


「ずっと」


「......」


「探してた」


その言葉に。


冬華の目が細くなる。


「目的を聞いても?」


少女は冬華を見る。


そして首を横に振った。


「あなたじゃない」


「......」


「この子」


真っ直ぐ。


カクリを見つめる。


その視線には敵意がない。


殺意もない。


だが。


強い執着があった。


「どうして私を」


少女は少しだけ悲しそうな顔になる。


「忘れたの?」


「え?」


「覚えてない?」


カクリは戸惑う。


知らない。


見覚えはある。


だが思い出せない。


少女は苦しそうに目を伏せた。


「そっか」


小さく呟く。


「やっぱり」


「......」


「覚えてないんだ」


その声は。


どこか寂しそうだった。


『おい』


はっちゃんが警戒を強める。


『何者だ』


少女は鋏を見る。


初めて少し驚いた顔をした。


「神具」


『答えろ』


「......」


少女は黙る。


そして。


ゆっくり右手を胸へ当てた。


「私は」


その時だった。


館全体が震えた。


ゴォォォォンッ!!


重い音。


地面が揺れる。


冬華が即座に周囲を警戒する。


「!?」


遠く。


館の外。


山の方角。


巨大な呪気が噴き上がった。


夜空を染めるほどの黒い気配。


はっちゃんの声が変わる。


『なんだあれは!?』


冬華も顔色を変える。


「この規模は......!」


異常だった。


夢見電車を遥かに超える。


今まで感じたことのないレベル。


館の警報が鳴り響く。


ウゥゥゥゥゥゥン!!


赤い警告灯が点灯する。


霊能者達が慌ただしく動き始める気配が伝わってきた。


少女はその方向を見る。


そして。


初めて焦った顔をした。


「もう始まった」


「なにが」


カクリが問う。


少女は振り返る。


その瞳には恐怖があった。


「逃げて」


「え?」


「お願い」


少女の声が震える。


「アイツが目を覚ます前に」


空気が凍る。


『アイツだと?』


はっちゃんが問う。


少女は答えない。


代わりに。


一粒の涙を流した。


「今度こそ」


震える声。


「お姉ちゃんを助けて」


その言葉を残し。


少女の身体は光となって消えた。


「待って!」


カクリが手を伸ばす。


だが届かない。


少女は消えた。


跡形もなく。


残されたのは。


夜空を覆う巨大な呪気だけ。


そして。


少女が残した言葉。


――お姉ちゃんを助けて。


カクリの瞳が揺れる。


なぜ。


あの少女が姉のことを知っているのか。


答えを考える暇はなかった。


遠くの山から。


人ではありえない咆哮が響いた。


それはまるで。


長い眠りから目覚めた怪物の産声のようだった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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