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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第44夜 「夜の追跡者」

今日も少女は夜を歩く。


クスクス。


クスクス。


夕暮れの校門で聞こえた笑い声が頭から離れなかった。


家へ帰る途中も。


夕食を食べている時も。


宿題をしている時も。


ずっと。


何かが引っ掛かっていた。


あの少女。


見覚えがあった。


だが思い出せない。


それが妙に気持ち悪かった。


窓の外を見る。


空はすっかり暗くなっていた。


時計の針は夜を指している。


「......行く」


カクリは立ち上がった。


ランドセルの代わりに巨大断ち鋏を手に取る。


普段の鋏はキーホルダーサイズだが、戦う時は違う。


神を名乗る鋏。


はっちゃん。


『ようやくか』


「うん」


『今日は荒れそうだぜ』


はっちゃんの声にも緊張が混じっていた。


カクリは部屋の窓を開く。


冷たい夜風が吹き込む。


二階の窓枠へ足を掛ける。


『落ちんなよ』


「落ちない」


次の瞬間。


身体を躍らせた。


夜の空気を切り裂きながら着地する。


ドサッ。


軽い音。


普通の小学生ではありえない高さだ。


だがカクリは平然としていた。


『慣れたな』


「うん」


夜の街へ歩き出す。


街灯が照らす住宅街。


静かな公園。


誰もいない横断歩道。


昼間とは違う顔。


常世と幽世が重なり始める時間。


カクリは周囲を警戒しながら進む。


『どうする』


「探す」


『あの女か』


「うん」


笑い声の主。


白い少女。


正体不明の存在。


そして。


何故か自分を見ていた相手。


気にならないはずがなかった。


しばらく歩いていると。


ふいに。


はっちゃんが声を潜めた。


『止まれ』


カクリは即座に足を止める。


「?」


『前だ』


視線を向ける。


公園。


ブランコ。


滑り台。


砂場。


誰もいない。


だが。


そこにいた。


街灯の下。


白いワンピース姿の少女。


昼間見た存在。


長い黒髪。


青白い肌。


俯いている。


『見つけたな』


「うん」


少女は動かない。


まるで待っていたように。


カクリはゆっくり近付く。


十メートル。


九メートル。


八メートル。


すると。


少女が顔を上げた。


その瞬間。


カクリは再び違和感を覚えた。


やはり見覚えがある。


どこかで見た顔。


知っている気がする。


なのに思い出せない。


少女が口を開く。


「......」


だが声は聞こえない。


無音。


唇だけが動いている。


『なんて言った』


「わからない」


少女は一歩後ろへ下がった。


「待って」


カクリが声を掛ける。


少女はさらに下がる。


そして。


走った。


「!」


『逃げたぞ!』


カクリも駆け出す。


夜の住宅街を全力疾走する。


少女は速い。


異常なほど速い。


人間離れしている。


電柱を抜ける。


公園を抜ける。


裏路地へ飛び込む。


『怪異か!?』


「わからない!」


追う。


追う。


追い続ける。


だが。


距離が縮まらない。


少女は振り返りもしない。


ただ前へ走る。


そして。


ある場所で急に止まった。


「......?」


そこは住宅街の外れ。


古びた神社だった。


鳥居は朽ちかけている。


石段には苔が生えていた。


誰も管理していないらしい。


夜の闇に沈んでいる。


少女は鳥居の前に立つ。


そして。


ゆっくり振り返った。


初めて正面から顔が見える。


年齢はカクリと同じくらい。


だが。


どこか人間離れしていた。


瞳が異様に暗い。


深い闇のような色。


「あなたは誰」


カクリが聞く。


少女は答えない。


風が吹く。


長い髪が揺れる。


そして。


小さく笑った。


クスクス。


昼間聞いた笑い声。


間違いない。


『気を付けろ』


はっちゃんが低く言う。


『こいつ妙だ』


「うん」


少女は鳥居へ手を触れる。


その瞬間。


空気が変わった。


ゾワリ。


背筋が凍る。


周囲の景色が歪み始める。


街灯の光が消える。


住宅街の音も消える。


虫の声も消える。


静寂。


異様な静寂。


カクリは鋏を握り直す。


『おい』


はっちゃんの声が険しくなる。


『こいつ』


『空間を弄ってやがる』


次の瞬間だった。


鳥居の向こうから無数の手が伸びた。


青白い腕。


黒い影の腕。


人とも怪異ともつかない無数の手。


地面から。


木の陰から。


鳥居の内側から。


這い出してくる。


カクリは即座に後ろへ飛ぶ。


ドンッ!


さっきまで立っていた場所を手が掴んだ。


「なにこれ」


『知らねぇ!』


はっちゃんも驚いている。


少女は無表情だった。


まるで感情がない。


ただこちらを見ている。


そして。


再び唇が動く。


今度は聞こえた。


小さな声。


か細い声。


「......見つけた」


「?」


「やっと......見つけた」


カクリの瞳が揺れる。


見つけた?


何を?


誰を?


問い掛けようとしたその時。


少女の身体が闇に溶け始めた。


『消える!?』


「待って!」


手を伸ばす。


だが届かない。


少女は最後に微笑んだ。


悲しそうな。


どこか懐かしそうな笑顔。


そして。


完全に消えた。


残されたのは。


静まり返った神社だけ。


無数の手も消えている。


何もなかったように。


夜風だけが吹いていた。


『......おい』


はっちゃんが呟く。


「なに」


『嫌な予感しかしねぇ』


カクリも同じだった。


あの少女は敵なのか。


味方なのか。


怪異なのか。


人間なのか。


何一つわからない。


だが一つだけ確かなことがあった。


あの少女は。


間違いなくカクリを探していた。


そして。


何かを知っている。


姉を襲った怪異に繋がる何かを。


夜はまだ終わらない。


闇の奥では。


新たな異変が静かに動き始めていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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