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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第43夜 「影の笑い声」



今日も少女は夜を歩く。


クスクス。


クスクス。


どこからともなく聞こえた笑い声。


朝の通学路。


青空の下。


子供達の話し声や車の走る音が聞こえているはずなのに、その笑い声だけが妙に鮮明だった。


宵町カクリは足を止める。


電柱の影を見る。


誰もいない。


怪異の姿もない。


だが、はっちゃんの緊張は消えていなかった。


「......いたの?」


『いた』


即答だった。


『間違いねぇ』


「見えなかった」


『普通なら見えねぇだろうな』


れいなが不思議そうな顔をする。


「どうしたの?」


「......なんでもない」


『言わねぇのか?』


「今は」


れいなを巻き込みたくなかった。


少なくとも学校へ向かう途中までは。


三人は再び歩き始める。


しかし。


カクリはずっと周囲を警戒していた。


住宅街。


交差点。


公園。


電柱。


路地裏。


どこを見ても異常はない。


それでも。


誰かに見られている感覚だけが消えない。


やがて。


市立夕凪小学校が見えてきた。


校門の前には生徒達が集まっている。


いつもの朝。


いつもの光景。


「カクリちゃん!」


れいなが笑う。


「今日の放課後さ!」


「?」


「また一緒に帰ろう!」


「うん」


「約束ね!」


「わかった」


れいなは嬉しそうに教室へ向かっていった。


その背中を見送る。


すると。


『おい』


はっちゃんが低い声を出した。


『後ろ』


カクリは振り返る。


校門。


生徒達。


保護者。


教師。


異常なし。


だが。


ほんの一瞬だけ。


人混みの向こうに。


黒い髪の少女が立っていた気がした。


長い前髪。


白い服。


異様に細い身体。


だが次の瞬間には消えていた。


「......!」


『見えたか?』


「うん」


『やっぱりいやがる』


カクリの表情が険しくなる。


『追うな』


「でも」


『今は学校だ』


確かにそうだった。


授業がある。


それに。


あの怪異が何なのかもわからない。


カクリは校舎へ向かった。


だが。


胸のざわつきだけは消えなかった。



授業中。


教室。


黒板には算数の問題が並んでいる。


先生が説明している。


クラスメイト達も真面目に聞いていた。


その中で。


カクリだけは窓の外を見ていた。


『集中しろ』


「してる」


『してねぇだろ』


「してる」


全く説得力がなかった。


はっちゃんが呆れる。


その時。


ふと。


校庭の端が目に入る。


古い桜の木。


その下に。


誰かが立っていた。


長い黒髪。


白い服。


朝見た少女。


「......!」


カクリは立ち上がりそうになる。


しかし。


瞬きをした瞬間。


消えた。


何もいない。


普通の桜の木だけ。


「宵町さん?」


先生の声。


教室中の視線が集まる。


「はい」


「大丈夫ですか?」


「......大丈夫」


ゆっくり座る。


だが。


心臓の鼓動は速くなっていた。


『間違いねぇな』


はっちゃんが言う。


『お前を見てやがる』


「なんで」


『知らねぇ』


「敵?」


『それもわからねぇ』


正体不明。


目的不明。


それが一番厄介だった。



放課後。


授業が終わる。


れいなが駆け寄ってきた。


「帰ろー!」


「うん」


ランドセルを背負う。


教室を出る。


廊下。


階段。


昇降口。


何も変わらない。


だが。


学校を出ようとした瞬間。


カクリの耳に声が届いた。


クスクス。


クスクス。


あの笑い声。


はっちゃんも反応する。


『来たぞ』


カクリは周囲を見る。


れいなも異変に気付いたらしい。


「......今の」


『聞こえたか』


「少しだけ」


れいなの顔が真剣になる。


普段の明るさが消える。


霊能者としての表情だった。


「誰かいる」


『あぁ』


周囲には誰もいない。


だが。


確かに気配はある。


そして。


校門の向こう。


夕暮れに染まる道の先。


一人の少女が立っていた。


白いワンピース。


長い黒髪。


顔は見えない。


俯いている。


じっと。


こちらを見ているようだった。


れいなが息を呑む。


「怪異......?」


『いや』


はっちゃんが否定する。


『怪異の気配じゃねぇ』


「じゃあ何?」


『わからねぇ』


その答えにカクリは眉をひそめた。


はっちゃんがわからない。


それはかなり珍しいことだった。


少女は動かない。


ただ立っている。


夕陽が伸ばした影が異様に長い。


やがて。


少女がゆっくり顔を上げた。


その瞬間。


カクリは目を見開く。


見覚えがあった。


どこかで見た顔。


だけど思い出せない。


少女は小さく口を開いた。


そして。


誰にも聞こえないほど小さな声で何かを呟く。


次の瞬間。


ふっと姿が消えた。


まるで最初からいなかったかのように。


れいなが慌てる。


「消えた!?」


『追うな!』


はっちゃんが叫ぶ。


『今追うのは危険だ!』


カクリは拳を握った。


胸の奥がざわつく。


あの顔。


あの笑い声。


そして。


自分を見つめていた視線。


嫌な予感がした。


とても。


とても嫌な予感が。


夜が近付いていた。


そしてどこかで。


クスクス。


クスクス。


再び笑い声が響いた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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