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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第35夜 「終点のない車両」


今日も少女は夜を歩く。


ゴトン。


ゴトン。


ゴトン。


列車は闇の中を走り続けていた。


窓の外には何もない。


線路も。


街も。


空も。


ただ果てのない暗闇だけが広がっている。


まるで世界そのものが消えてしまったようだった。


車内では不気味な静寂が続いている。


虚ろな目をした乗客達。


赤い目を持つ小さな猿達。


そして調査を続ける霊能者達。


誰も油断していなかった。


「本体を探します」


篠崎冬華(しのざき ふゆか)が静かに言った。


「この列車そのものが怪異なのか、それとも別の何かに操られているのかを確認します」


霊能者達が頷く。


「二人一組で行動してください」


「はい」


「単独行動は禁止です」


冬華はカクリを見る。


「カクリさん」


「うん」


「れいなと一緒に行動してください」


「わかった」


れいなも頷いた。


「任せて!」


『頼もしいんだか頼もしくないんだか』


はっちゃんが呟く。


「聞こえてるよ!?」


少しだけ緊張が和らぐ。


だが車内の空気は重いままだった。


調査が始まる。


先頭車両。


中央車両。


後方車両。


霊能者達が手分けして進んでいく。


カクリとれいなも車内を歩いていた。


古い座席。


薄暗い照明。


どこか昭和の列車を思わせる内装。


しかし奇妙なことがあった。


車両の番号がない。


普通ならあるはずの車両番号。


案内表示。


路線図。


そういったものが一切存在していなかった。


「変だね」


れいなが呟く。


「うん」


カクリも感じていた。


まるで誰かが列車を真似して作ったみたいだった。


本物に似ている。


でも何かが違う。


その時。


通路の奥に一匹の猿が現れた。


キーッ。


小さく鳴く。


そして走り去った。


「逃げた」


れいなが指差す。


『追うか?』


はっちゃんが聞く。


カクリは少し考えた。


そして頷く。


「行こう」


二人は猿を追いかける。


車両を抜ける。


次の車両。


また次の車両。


猿は一定の距離を保ちながら逃げ続けていた。


まるで誘導しているみたいに。


『罠かもしれねぇぞ』


「わかってる」


それでも。


何か手掛かりがある気がした。


やがて猿は扉の前で止まった。


車両と車両を繋ぐ連結部分。


その奥。


真っ黒な扉。


今まで見たことがない場所だった。


「こんなのあった?」


れいなが首を傾げる。


カクリも覚えがない。


通った時にはなかった気がする。


猿は扉の前で立ち止まる。


そして。


こちらを見る。


赤い目。


次の瞬間。


ふっと消えた。


「消えた!?」


れいなが驚く。


扉だけが残る。


静寂。


ゴトン。


ゴトン。


列車の揺れだけが続く。


カクリは扉へ近づく。


手を伸ばす。


すると。


ゾワリ。


背筋に寒気が走った。


「……」


『感じるか』


はっちゃんの声。


「うん」


強い呪気。


今までの車両とは比べ物にならない。


だが。


同時に違和感もある。


この先に本体がいる。


そんな気配ではない。


何か別のものだ。


れいなが小声で言う。


「どうする?」


カクリは答える前に扉へ耳を当てた。


向こう側。


何か聞こえる。


人の声。


いや。


大勢の声。


泣き声。


笑い声。


怒鳴り声。


全部混ざっている。


聞いているだけで頭が痛くなる。


『開けるなよ』


はっちゃんが言う。


珍しく真面目な声だった。


『今はまだ情報が足りねぇ』


カクリは手を離した。


「……戻ろう」


れいなも頷く。


「うん」


二人はその場を離れる。


だが。


少し歩いたところで気付いた。


振り返る。


扉が消えていた。


「え……」


何もない。


普通の連結部分しかない。


れいなも青ざめる。


「いまの……」


『見間違いじゃねぇ』


はっちゃんが低く言った。


『確実にあった』


嫌な沈黙が流れる。


二人は急いで冬華達のいる車両へ戻った。


すると。


冬華も何かを調べていた。


「篠崎さん」


「どうしましたか」


カクリは扉のことを説明する。


消えたことも。


聞こえた声も。


冬華は最後まで黙って聞いていた。


そして。


静かに言う。


「私達も見ました」


「え?」


「別の場所で同じ扉を確認しています」


れいなが目を見開く。


「じゃあ本当にあったんだ」


冬華は頷く。


「ですが近づくと消える」


「……」


「おそらく本体へ繋がる道ではありません」


冬華の目が鋭くなる。


「むしろ逆です」


「逆?」


「誰かを遠ざけるための偽装でしょう」


車内が静まり返る。


つまり。


本体は隠れている。


見つからないように。


気付かれないように。


列車のどこかで。


その時だった。


ザザッ――。


再び車内スピーカーが鳴る。


全員が顔を上げる。


ノイズ。


不快な雑音。


そして。


機械音声が響いた。


『まもなく~』


ゴトン。


ゴトン。


列車が少し減速し始める。


『まもなく~』


虚ろな乗客達が一斉に立ち上がった。


誰一人例外なく。


全員。


同じ動き。


同じ角度。


同じ速度。


れいなが息を呑む。


「な、なに……?」


アナウンスが続く。


『次は~』


車内の照明が赤く染まる。


『迷子回収場~』


その瞬間。


列車全体が大きく揺れた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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