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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第34夜 「次は八つ裂き」


今日も少女は夜を歩く。


列車が動き始めた瞬間。


宵町カクリは違和感に気付いた。


窓の外。


そこにあるはずの景色が消えていた。


山も。


線路も。


夜空も。


何もない。


ただ黒い闇だけが広がっている。


「……なに、これ」


れいなの声も震えていた。


車内の空気が重い。


息苦しい。


冷たい。


まるで現実から切り離された場所にいるみたいだった。


篠崎冬華が静かに周囲を観察する。


「警戒してください」


霊能者達も武器を構える。


だが。


乗り込んだ時には空だった車内に、いつの間にか人影が増えていた。


「っ……!」


カクリが目を見開く。


座席。


通路。


車両の隅。


そこら中に人が座っている。


老若男女。


学生。


会社員。


主婦。


老人。


服装も様々だった。


だが全員に共通点がある。


目だ。


全員。


虚ろな目をしていた。


生気がない。


まるで魂だけ抜け落ちたみたいだった。


誰も喋らない。


誰も動かない。


ただ座っている。


列車の揺れに合わせて微かに身体が揺れているだけ。


『いつ増えた……』


はっちゃんの声も低い。


カクリは巨大断ち鋏へ手を添える。


その時だった。


車内スピーカーからノイズが流れた。


ザザッ――


全員が顔を上げる。


そして。


聞き覚えのある機械音声が響いた。


『次は~』


静かな車内へ声が広がる。


『次は~』


少し間が空く。


そして。


『八つ裂き~』


車内が静まり返る。


『八つ裂き~』


れいなが青ざめる。


「や、やっぱりあのアナウンス……」


『八つ裂き~』


『八つ裂き~』


同じ言葉が何度も繰り返される。


不気味だった。


意味がわからない。


だが。


聞いているだけで嫌な予感がした。


冬華が前へ出る。


「全員、その場から動かないでください」


その瞬間。


カサッ。


小さな音が聞こえた。


カクリは反射的に振り向く。


通路。


座席の下。


そこから何かが出てきた。


小さい。


手のひらほどの大きさ。


猿だった。


だが普通の猿じゃない。


全身が真っ黒。


目だけが赤い。


そして。


小さな包丁のようなものを持っていた。


「……猿?」


れいなが呟く。


すると。


一匹。


二匹。


三匹。


次々に現れる。


座席の下。


荷物棚。


車両の隅。


あちこちから現れた。


『おいおい』


はっちゃんが唸る。


『気味悪ぃな』


猿達は何も喋らない。


ただ歩く。


てくてくと。


通路を歩いていく。


そして。


一人の乗客の前で止まった。


スーツ姿の男性。


虚ろな目。


反応しない。


逃げない。


猿達が男性を囲む。


冬華が叫ぶ。


「下がってください!」


だが。


男性は動かなかった。


いや。


動けないのかもしれない。


次の瞬間。


猿達が一斉に飛び上がった。


「――ッ!」


カクリが思わず前へ出る。


しかし。


間に合わない。


黒い影が男性を包み込む。


そして。


ふっと消えた。


静寂。


猿達は何事もなかったかのように通路へ戻る。


男性が座っていた席を見る。


そこにはもう誰もいなかった。


服も。


荷物も。


何も残っていない。


まるで最初から存在しなかったみたいに。


れいなが息を呑む。


「……消えた」


冬華も険しい顔になる。


「物理的な攻撃ではありませんね」


『連れ去られたか』


はっちゃんが呟く。


車内の乗客達は反応しない。


誰も驚かない。


誰も叫ばない。


ただ虚ろなまま座っている。


まるで。


次は自分だと知っているみたいに。


ザザッ――


再びスピーカーが鳴った。


全員の視線が上へ向く。


『まもなく~』


ノイズ。


『まもなく~』


車内の照明が一瞬だけ暗くなる。


『次は~』


猿達が一斉に動きを止めた。


『次は~』


赤い目が同時にこちらを向く。


カクリの背筋が冷たくなる。


『迷子~』


機械音声が響く。


『迷子~』


猿達が笑った。


キーッ。


キーッ。


キーッ。


小さな鳴き声。


不気味な笑い声。


冬華が静かに札を構える。


「……来ます」


れいなも震えながら札を握る。


カクリは巨大断ち鋏を呼び出した。


銀色の刃が車内で輝く。


だが。


まだ本当の敵は現れていない。


列車は闇の中を走り続ける。


ゴトン。


ゴトン。


ゴトン。


どこへ向かっているのか。


誰も知らないまま。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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