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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第30夜 「守れなかった約束」


今日も少女は夜を歩く。


灰崎団地四号棟最上階。


封印された部屋。


割れた鏡の奥から現れた巨大な黒い怪異が腕を振り上げた。


「ガァァァァァァァァァァ!!」


咆哮。


空気が震える。


部屋の壁が砕け、窓ガラスが吹き飛んだ。


霊能者達が身構える。


「来ます!」


冬華の声が響く。


次の瞬間。


巨大な腕が振り下ろされた。


ドゴォォォォン!!


床が陥没する。


衝撃波で霊能者達が吹き飛んだ。


「ぐっ!」


「結界を維持しろ!」


札が舞う。


光が弾ける。


しかし怪異は止まらない。


鏡の中で何年も何十年も育ち続けた呪い。


暴走した絶望そのものだった。


『こりゃ厄介だぞ!!』


はっちゃんが叫ぶ。


カクリは巨大断ち鋏を構えた。


だが。


その前へ出た者がいた。


顔のない女。


長い黒髪の怪異。


守護型怪異。


「……こないで」


震える声。


身体は既にボロボロだった。


さっきまで戦っていた時とは違う。


今の彼女は必死だった。


巨大怪異が再び咆哮する。


「ガァァァァァ!!」


無数の腕が伸びる。


女怪異へ向かう。


それを見た瞬間。


女怪異も飛び出した。


黒髪が広がる。


「この子には……!」


髪が腕を絡め取る。


怪異同士が激突した。


ドォォォン!!


部屋全体が揺れる。


『おい!』


はっちゃんが叫ぶ。


『あいつ一人じゃもたねぇぞ!!』


女怪異は必死に押さえ込む。


だが力の差は大きかった。


黒い腕が次々と身体を貫いていく。


「っ……!」


それでも離さない。


守るように。


抱きしめるように。


巨大怪異を押さえ続ける。


カクリは見ていた。


守れなかった少女。


それでも守ろうとしている怪異。


その姿が。


どこか自分と重なった。


姉を守れなかった自分。


何もできなかった夜。


病院で泣いた日。


全部。


思い出した。


「……はっちゃん」


『なんだ』


「私、あの人を助けたい」


一瞬の沈黙。


そして。


はっちゃんが笑った。


『へへっ』


いつもの笑い。


『そう言うと思ったぜ』


巨大断ち鋏が輝く。


銀色の光。


呪いを断つ刃。


カクリは地面を蹴った。


「はぁぁぁぁぁぁっ!!」


一直線。


巨大怪異へ飛び込む。


「ガァッ!?」


鋏が腕を斬り裂く。


黒い血のような霧が噴き出した。


怪異が怒りの咆哮を上げる。


だが。


止まらない。


カクリは再び飛び込む。


ザン!!


ザン!!


ザン!!


巨大断ち鋏が呪いを切り裂いていく。


れいなも札を投げる。


「やぁぁぁっ!!」


霊力の光。


冬華も結界を展開する。


「拘束術式展開!」


鎖のような光が怪異へ絡みつく。


霊能者達も続いた。


「封印準備!」


「核を探せ!」


戦いが始まった。


巨大怪異は暴れ狂う。


だが。


今度は一人じゃない。


全員で戦っている。


その時。


女怪異がふらついた。


身体が薄くなっている。


黒髪も消え始めていた。


「っ……」


カクリが気づく。


限界だ。


長年の封印。


戦闘。


消耗。


もう長くない。


女怪異は静かに鏡を見た。


割れた鏡。


そこに。


少女の姿が映っていた。


幻か。


記憶か。


それとも。


本当にそこにいるのか。


誰にもわからない。


だが。


少女は笑っていた。


優しく。


悲しそうに。


女怪異の身体が震える。


「ごめん……ね」


かすれた声。


「まもれなかった……」


少女は何も言わない。


ただ微笑む。


その瞬間。


女怪異の涙が零れた。


黒い涙。


呪いの涙。


「ごめん……なさい」


そして。


少女が口を開いた。


誰にも聞こえない。


だが。


女怪異だけには聞こえた。


その言葉を聞いた瞬間。


女怪異の表情が変わる。


安堵。


救われたような顔。


そして。


ゆっくり振り向いた。


巨大怪異を見る。


「……もういいんだね」


黒髪が舞う。


最後の力。


全ての呪い。


全ての想い。


全部を込める。


「この子を……返して」


次の瞬間。


女怪異は巨大怪異へ飛び込んだ。


「ァァァァァァァ!!」


黒髪が巨大怪異を包み込む。


拘束。


封印。


呪い同士がぶつかり合う。


部屋が光に包まれた。


冬華が叫ぶ。


「今です!!」


カクリは駆けた。


巨大断ち鋏を握る。


女怪異が最後に笑った気がした。


そして。


カクリは叫ぶ。


「終われぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


銀色の刃が振り下ろされた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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