第28夜 「封じられた部屋」
今日も少女は夜を歩く。
灰崎団地四号棟。
最上階。
天井へ張り付いた女が、不気味に笑っていた。
「みぃつけた」
その瞬間。
団地全体が大きく揺れる。
ドゴン!!
壁が震え、天井の埃が降り注いだ。
「きゃっ!?」
れいながよろける。
カクリは咄嗟に支えた。
「大丈夫!?」
「う、うん……!」
だが揺れは止まらない。
ミシミシ、と建物が軋む。
『おいおい、団地ごと呪われてんのか!?』
はっちゃんが叫ぶ。
冬華が札を展開した。
「全員、防護結界を!」
霊能者達が一斉に霊力を流す。
光の膜が広がる。
その直後。
女の髪が爆発的に伸びた。
黒い奔流。
廊下を埋め尽くしながら襲いかかる。
「っ!!」
カクリは巨大断ち鋏を振るう。
ザンッ!!
髪を斬る。
だが次の瞬間には再生。
終わらない。
『核を探せ!!』
はっちゃんが怒鳴る。
『本体を断たねぇ限り無限だ!!』
カクリは女を睨む。
顔のない怪異。
空っぽの目。
でも。
さっき確かに聞こえた。
――たすけて。
「……」
怪異が再び消える。
速い。
そして。
「下がってください!!」
冬華の叫び。
次の瞬間。
壁を突き破って女が飛び出した。
「かえせぇぇぇぇぇ!!」
長い腕。
鋭い爪。
一直線に霊能者へ襲いかかる。
だが。
カクリが前へ出た。
「させない!!」
巨大断ち鋏を振り上げる。
ギィィィン!!
爪と刃が激突した。
衝撃。
床が砕ける。
女の顔が目前に迫る。
真っ黒な穴。
その奥。
涙みたいな黒い液体が流れていた。
「……くるしい」
カクリの目が揺れる。
『惑わされんな!!』
はっちゃんの声。
その瞬間。
女の髪がカクリの足へ巻き付いた。
「っ!?」
引っ張られる。
女の口が裂けた。
「みぃつけた」
危ない。
そう思った時。
「やぁぁぁっ!!」
れいなが札を叩きつけた。
バチィッ!!
霊力が炸裂。
女の髪が弾け飛ぶ。
「カクリちゃん!!」
「ありがと!」
カクリは距離を取る。
だが女は笑っていた。
異常なほど嬉しそうに。
「ともだち……」
『気色悪ぃ笑い方しやがる』
はっちゃんが唸る。
冬華は周囲を見回していた。
「……おかしいですね」
「?」
「この怪異、強すぎます」
冬華の視線が札だらけの廊下へ向く。
「本来なら、この規模の封印で抑えられていたはずがない」
その時。
一人の霊能者が叫んだ。
「篠崎さん!この部屋!」
廊下奥。
封印札が最も多く貼られた部屋。
扉が半開きになっていた。
中は真っ暗。
異様な呪気が漏れている。
女が突然叫ぶ。
「ダメェェェェ!!」
黒髪が荒れ狂う。
まるでその部屋へ近づかせたくないみたいに。
冬華の目が鋭くなる。
「……あそこですね」
カクリも感じていた。
嫌な気配。
重たい。
息苦しい。
でも。
何かある。
冬華が札を構える。
「道を開きます!!」
大量の札が宙へ舞う。
「破ッ!!」
光が炸裂した。
黒髪が吹き飛ぶ。
「ギィィィィィ!!」
女が絶叫する。
「今です!!」
カクリは走った。
廊下を駆け抜ける。
伸びてくる髪を斬り裂く。
ザン!!
ザン!!
そして。
封印の部屋へ飛び込んだ。
「っ……!」
部屋の中は異様だった。
壁一面に、お札。
床には巨大な陣。
そして中央。
古い鏡が置かれていた。
大きな姿見。
だが。
鏡面は真っ黒だった。
まるで闇そのもの。
『……なるほどな』
はっちゃんが低く呟く。
『依代か』
「依代?」
『怪異を固定する器だ』
その瞬間。
後ろから女が飛び込んできた。
「ヤメテェェェェェ!!!」
叫び。
絶叫。
部屋が揺れる。
女は必死だった。
まるで。
本当に壊されたくないみたいに。
カクリは鏡を見る。
真っ黒な鏡。
その奥。
ぼんやり、人影が映った。
小さな女の子。
泣いている。
「……え」
その瞬間。
カクリの頭へ映像が流れ込んだ。
暗い団地。
泣く少女。
閉じ込められた部屋。
そして。
鏡の前で首を吊る女。
「っ!!」
激痛。
頭が割れそうになる。
『カクリ!!』
はっちゃんの声。
カクリは息を荒げながら鏡を見た。
この怪異は。
最初から“ここ”に縛られていた。
そして。
誰かが封じ込めていた。
だが。
何かの拍子で、壊れ始めた。
女が泣き叫ぶ。
「イヤァァァァァ!!」
その瞬間。
鏡の表面から、無数の手が這い出してきた。
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