第22夜 「逃げた影」
今日も少女は夜を歩く。
「ミィツケタァ」
巨大怪異の口が裂ける。
その声と同時に、怪異の身体が内側から膨れ上がった。
ドクン。
ドクン。
脈打つ。
まるで巨大な心臓。
次の瞬間。
――バキバキバキッ!!
巨大怪異の胸部が裂けた。
黒い肉の奥。
そこから、“ソレ”が這い出てくる。
「っ……!」
宵町カクリの身体が硬直する。
細長い影。
真っ黒な身体。
そして。
全身に無数の目。
ギョロギョロと蠢く視線。
見た瞬間、思い出す。
あの日。
病院。
姉を襲った怪異。
間違いない。
「あ……」
呼吸が止まりそうになる。
怪異は巨大怪異の中からゆっくり這い出ると、不気味に首を傾けた。
無数の目が、一斉にカクリを見た。
「ミィツケタ」
カクリの全身に鳥肌が立つ。
『おい!!』
はっちゃんが怒鳴る。
『アレが本命か!!』
周囲の霊能者達もざわつく。
「なんだあれ……!」
「別個体!?」
「いや、寄生型……!?」
冬華の顔色が変わる。
「全員警戒!!あちらが本体です!!」
その瞬間。
巨大怪異が絶叫した。
「ォォォォォォォォォ!!」
暴走。
黒い霧が爆発的に広がる。
商店街全体が揺れた。
大量の黒い腕が地面から噴き出す。
「ぐぁぁっ!?」
「結界が崩れる!!」
霊能者達が一気に押し込まれる。
冬華が札を展開する。
「防壁展開!!」
光の壁。
だが黒い腕が次々叩きつけられる。
ビキビキ、と嫌な音。
『チッ、時間稼ぎか!!』
はっちゃんが叫ぶ。
その間に。
目だらけの怪異が、ゆっくり後退していた。
「待って!!」
カクリは反射的に駆け出す。
「カクリさん!!」
冬華の制止。
だが止まれない。
あいつだ。
姉を襲った怪異。
やっと見つけた。
怪異は壁を這うように移動する。
速い。
人間じゃない動き。
「逃げるな!!」
カクリが巨大断ち鋏を展開する。
銀色の刃。
そのまま飛び込む。
だが。
ギョロリ。
怪異の目が一斉に動いた。
次の瞬間。
カクリの視界が歪む。
「っ!?」
景色が変わる。
病院の廊下。
白い天井。
静かな機械音。
ベッド。
眠る姉。
「お姉ちゃん……?」
幻覚。
いや、呪だ。
『目ぇ逸らすな!!』
はっちゃんの怒声。
カクリはハッとする。
気づけば怪異が目前まで迫っていた。
無数の目。
その中央。
裂けた口が笑う。
「オマエモ」
黒い腕が伸びる。
カクリは咄嗟に鋏を振るった。
ギィィィィン!!
火花。
怪異の腕が弾かれる。
だが。
速い。
怪異は四つ足の獣みたいに壁を駆け、天井へ飛び移った。
『クソッ!!』
はっちゃんが唸る。
『知能も高ぇ!!』
怪異が笑う。
「マダ……ダメ」
「……何が」
怪異の無数の目が細まる。
「アレガ……ヒツヨウ」
次の瞬間。
怪異の身体が霧へ変わった。
「っ!?」
「逃がすか!!」
カクリは跳ぶ。
巨大断ち鋏を振り下ろす。
銀色の刃が黒霧を裂く。
だが。
斬れた感触がない。
『実体化してねぇ!!』
怪異は霧のまま商店街の奥へ流れていく。
速い。
追いつけない。
「待てぇぇぇぇ!!」
カクリが走る。
だがその瞬間。
ドゴォォォン!!!
背後で爆発音。
巨大怪異が完全に暴走した。
「ォォォォォォォォォ!!」
商店街の建物が崩れる。
黒い腕が暴れ回る。
冬華が叫ぶ。
「カクリさん戻って!!」
カクリが振り返る。
霊能者達が押されている。
結界が崩壊寸前だった。
『……選べ』
はっちゃんが低く言う。
『追うか、助けるか』
カクリの足が止まる。
悔しい。
やっと見つけたのに。
姉を襲った怪異。
でも。
今ここで放置すれば、みんな危ない。
怪異の霧が遠ざかっていく。
最後に。
無数の目が、闇の向こうからこちらを見た。
「マタネ」
その声を残し。
怪異は、完全に姿を消した。
「……っ!!」
カクリは拳を握る。
逃げられた。
また。
その瞬間。
巨大怪異が咆哮し、黒い腕を振り下ろした。
「危ない!!」
カクリは即座に飛び出す。
巨大断ち鋏を構える。
逃げたなら。
今はこっちを止めるしかない。
少女は地面を蹴った。
夜を裂くために。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




