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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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第21夜 「完成前夜」



今日も少女は夜を歩く。


「オマエモ……クル?」


巨大怪異の口が裂ける。


その奥。


無数の目が、宵町カクリを見つめていた。


黒い。


深い。


まるで底なしの穴みたいだった。


商店街の空気が重く沈む。


周囲の霊能者達でさえ、一瞬動きを止めていた。


「なんだ、あの気配……」


「まずい、呪がさらに強く――」


怪異の周囲から黒い霧が噴き出す。


地面の顔達が苦しそうに呻き始めた。


「イヤダ……」


「クライ……」


「サムイ……」


その声が頭へ直接流れ込んでくる。


カクリは歯を食いしばった。


『気ぃ抜くな!!』


はっちゃんの声が響く。


『飲まれんぞ!!』


怪異がゆっくり腕を持ち上げる。


その瞬間。


商店街の影という影が、一斉に蠢いた。


「っ!?」


影の中から大量の黒い腕が飛び出す。


霊能者達が迎撃する。


札が燃え、光が弾ける。


だが数が多い。


「きゃぁっ!!」


一人の霊能者が腕を掴まれ引きずられる。


「離せ!!」


冬華が即座に札を放つ。


「破ッ!!」


霊力の衝撃。


黒い腕が吹き飛ぶ。


だが怪異は笑っていた。


「カエセ……」


『チッ、遊んでやがる』


はっちゃんが低く唸る。


カクリは怪異を睨む。


今ならわかる。


あれはただ暴れているわけじゃない。


何かを探している。


何かを集めている。


「……完成って、なに」


カクリが小さく聞く。


はっちゃんは少し黙った。


『怪異ってのはな、強くなるほど“この世に残る理由”が必要になる』


「理由……」


『人の未練、恐怖、記憶。そういうのを喰って形を保つんだ』


怪異が再び口を開く。


その奥から、人の呻き声が漏れている。


『だがアイツは違う』


はっちゃんの声が低くなる。


『アイツは“人そのもの”を取り込んでる』


カクリの背筋が冷える。


冬華も険しい表情で怪異を見ていた。


「器型怪異……ここまで大規模なものは初めて見ます」


「器型?」


「人を媒体にし、自身を安定化させる怪異です」


冬華は黒い霧を見上げた。


「本来なら、ここまで成長する前に消えるはずなのですが……」


その時。


怪異の身体が脈打った。


ドクン。


ドクン。


まるで心臓みたいな音。


次の瞬間。


怪異の身体から、さらに複数の人影が吐き出された。


ドサドサッ。


「っ!?」


地面へ転がる人達。


男。

女。

学生。


皆、黒い靄に覆われている。


「まだ生きてる!!」


霊能者達が駆け寄る。


だが怪異は咆哮した。


「カエセェェェェェ!!!」


巨大な腕が振り下ろされる。


ドゴォォォン!!


商店街の地面が砕けた。


衝撃波で霊能者達が吹き飛ぶ。


「ぐぁっ!!」


「結界が!!」


『おい、かなりヤバいぞ!!』


はっちゃんが叫ぶ。


怪異の黒い霧がさらに濃くなっていく。


空が暗い。


昼なのに、まるで夜だった。


カクリは少女を庇いながら後退する。


その少女が小さく震えていた。


「おねえ……ちゃん……」


「!」


カクリが目を見開く。


少女の瞳は虚ろだった。


だが確かに今、“お姉ちゃん”と言った。


「ねぇ!」


カクリは肩を掴む。


「何か見たの!?」


少女は震える声で呟く。


「くらいところ……」


「うん」


「いっぱい……いた……」


涙が溢れる。


「……あのひと、ずっとわらってた……」


カクリの心臓が止まりそうになる。


「あのひと?」


少女の唇が震える。


「め……が……いっぱい……」


その瞬間。


カクリの脳裏に、あの夜の影が浮かんだ。


姉を襲った怪異。


暗闇。


大量の視線。


『……カクリ』


はっちゃんの声が重い。


『多分、この怪異……誰かに育てられてる』


「……え」


『自然発生じゃねぇ』


冬華も同じ結論に辿り着いたらしい。


「誰かが、意図的に怪異を集めている……?」


周囲の霊能者達がざわつく。


「そんなこと……」


「何のために……」


その時だった。


怪異の口の奥。


闇の中で、何かが動いた。


ゆっくり。


ゆっくりと。


黒い人影。


そして。


無数の目。


ギョロリ、と。


それら全てが一斉にカクリを見た。


「――ッ!!」


全身が凍る。


知っている。


この気配。


この視線。


姉を襲った“本体”。


巨大怪異の中に、いる。


次の瞬間。


怪異の口が裂けるほど歪んだ。


「ミィツケタァ」


その声と同時に。


巨大怪異の身体が、内側から膨れ上がった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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