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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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16/19

第15夜 「檻の中」



今日も少女は夜を歩く。


夜見ヶ館地下演習場。


広い空間の奥で、重い音が響いていた。


ガン。


ガン。


まるで何かが檻を叩いているような音。


空気が震える。


宵町カクリは自然と鋏へ手を伸ばした。


「……?」


周囲の霊能者達もざわつき始める。


「おい、今の……」


「封印区画の音か?」


「まさか、まだ時間じゃ……」


篠崎冬華の目が細くなる。


「全員、下がってください」


その声には強い緊張が混ざっていた。


れいなが不安そうに周囲を見る。


「篠崎さん……?」


『おい』


はっちゃんの声が低く響く。


『あれ、中位じゃねぇぞ』


次の瞬間だった。


――バキン。


奥の檻から、何かが砕ける音がした。


演習場の空気が一気に冷える。


照明がチカチカと点滅した。


そして。


「ァァァァァァアアアア――――」


耳障りな叫び声。


檻の扉が内側から吹き飛んだ。


爆風のような霊圧が演習場を揺らす。


「っ!?」


カクリは思わず目を細める。


煙の奥。


そこに“ソレ”はいた。


人型。


だが身体が異様に細長い。


腕が地面につくほど長く、首は不自然に曲がっている。


顔には目も鼻もない。


代わりに、大きく裂けた口だけが存在していた。


黒い液体のようなものが全身から滴っている。


れいなが青ざめる。


「な、なに……あれ……」


『名持ち未満……だが近い』


はっちゃんが唸る。


『かなり育ってやがる』


怪異はゆっくり首を傾けた。


そして。


ニタァ、と口が歪む。


「ヒ、ツ……ケタ……」


声。


明らかに今までの怪異とは違う。


言葉を喋っていた。


演習場の空気が張り詰める。


「総員戦闘態勢」


冬華が即座に札を構えた。


霊能者達も一斉に動く。


「結界展開!」


「れいな、後ろへ!」


「は、はい!」


床に術式が広がる。


淡い光の線が怪異を囲む。


だが。


怪異は一歩踏み込んだだけで、結界を軋ませた。


ビキビキ、と嫌な音が響く。


「なっ……!?」


若い霊能者が顔を引きつらせる。


次の瞬間。


怪異が消えた。


「え――」


ドゴン!!


一人の霊能者が壁へ叩き飛ばされた。


速い。


カクリの目でも追いきれない。


「がっ……!」


「危ない!」


札が飛ぶ。


炎が怪異へ直撃する。


だが。


「ァァァァ……」


怪異は燃えながら笑っていた。


『おいおい、タフすぎんだろ』


はっちゃんが舌打ちする。


怪異の口が裂ける。


そして視線が、れいなへ向いた。


「ミィツ……ケタ……」


「っ!?」


れいなが固まる。


怪異が床を這うように突進した。


速い。


その瞬間。


カクリの身体が先に動いていた。


「れいなちゃん!!」


巨大断ち鋏が一気に展開される。


銀色の刃。


カクリは怪異の前へ飛び込み、そのまま横薙ぎに振るった。


ギィィィン!!


重い衝撃。


怪異の腕が切断される。


黒い液体が飛び散った。


「ァァァァァ!!」


怪異が絶叫する。


だが完全には切れていない。


肉が蠢き、再生を始めていた。


「……再生?」


『面倒なタイプか!』


怪異がカクリを見る。


口がさらに裂けた。


「オマエ……ミエル……」


その瞬間。


カクリの背筋に寒気が走る。


怪異の周囲に、黒い靄が広がり始めた。


空間が歪む。


床が軋む。


冬華が鋭く叫ぶ。


「下がってください!!呪が来ます!!」


直後。


怪異の口から、大量の“手”が溢れ出した。


黒い腕。


何十本もの手が床を這い、周囲へ伸びる。


「きゃぁっ!?」


れいなが悲鳴を上げる。


霊能者達が迎撃するが、数が多い。


『カクリ!!』


「わかってる!!」


カクリは鋏を握り直した。


怖い。


わかる。


今までの怪異とは違う。


でも。


逃げない。


カクリは地面を蹴った。


一気に怪異へ突っ込む。


迫る黒い手を切り裂きながら進む。


「はぁぁぁっ!!」


巨大断ち鋏が怪異の胴体へ叩き込まれる。


ガギィン!!


硬い。


まるで鉄を切ったみたいな感触。


「っ……!」


怪異が笑う。


「ツカマエタ……」


黒い手がカクリの足へ絡みついた。


動きが止まる。


怪異の口が目の前まで迫る。


その時だった。


――チリン。


鈴の音。


澄んだ音色が演習場へ響いた。


瞬間、怪異の動きが止まる。


「今です」


冬華だった。


彼女の周囲には無数の札が浮いている。


その背後。


黒い着物姿の女が立っていた。


長い髪。

青白い肌。

人ではない。


だが怪異でもない。


『……使役怪異か』


はっちゃんが低く呟く。


冬華は静かに印を結ぶ。


「縛れ」


着物の女が動く。


黒い帯のようなものが怪異へ巻き付き、その動きを封じた。


「ァァァァァァ!!」


怪異が暴れる。


結界が震える。


冬華が叫ぶ。


「カクリさん!!」


カクリは鋏を構えた。


怪異の首元。


そこだけ、わずかに黒い靄が薄い。


『核だ!!』


はっちゃんが叫ぶ。


『そこを断て!!』


カクリは息を吸う。


怖い。


でも。


「……切る!!」


少女は跳んだ。


巨大断ち鋏が、夜を裂く。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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