第13夜 「夜更けの会話」
今日も少女は夜を歩く。
夜見ヶ館の居間。
静かな灯りの下で、怪異についての話は続いていた。
宵町カクリは少し考え込むように呟く。
「......捕獲した怪異?」
篠崎冬華は静かに頷いた。
「えぇ。一人前の霊能者なら、使役し共に戦う友となります」
「篠崎さんも、いる」
「わかりますか」
「なんとなく」
冬華の周囲には、確かに“何か”の気配があった。
だが姿は見えない。
隠れているのか、封じられているのか。
九条れいなが誇らしげに言う。
「篠崎さんはね、霊能者のなかでも高位なんだよ!」
「へぇ……」
カクリが小さく呟くと、はっちゃんがれいなを見る。
「九条の嬢ちゃんは持ってないんだな」
「うん、まだ、修行中だから。」
れいなは少し照れくさそうに笑った。
カクリは少し黙る。
「............」
「どうした?」
「使役って、言うこと聞くの?」
冬華はわずかに口元を緩めた。
「いい質問ですね。使役にはいくつか種類があります。」
「種類?」
「主に二つ。強制的に服従させる使役と、友好関係を築く方法です。」
はっちゃんが感心したように鳴る。
「なるほどな。友好関係を築くほうは難しそうだな。あいつらは本能のままに人を襲うからな、よっぽど知能が高くないと無理だ」
「はい、その通りです。」
冬華は頷いた。
れいながキラキラした目ではっちゃんを見る。
「はっちゃん詳しい!」
「ま、これでも神だからな」
得意げだった。
カクリは少し考える。
「......危なくないの?」
「時には危険ですが、うまく使えばいいのです。」
冬華は静かにお茶を飲み、それから続けた。
「カクリさんも、使役、やってみますか?」
「考えとく」
即答はしなかった。
お化けと仲良くする。
まだ、想像できない。
れいなは元気よく手を挙げる。
「私はするよ!お友達もっとほしいもん!」
「れいなちゃんは変わらないね」
「え?だってそうでしょ?多いほうが楽しいもん!」
その言葉に、カクリは少しだけ笑った。
冬華はそんな二人を見ながら言う。
「そうです。明日、れいなも入れた演習があるのですが、見ていきませんか?」
「演習?」
「はい」
はっちゃんがカクリへ聞く。
「どうする?カクリ」
「他の人もやる?」
「もちろん」
カクリは少し考え、頷いた。
「うん、じゃあ、見ようかな」
「わかりました。では、今日はここで泊まってください。話はしているので」
「うん」
すると、れいなが勢いよく立ち上がった。
「わーい!カクリちゃんとお泊まり~!」
そのままカクリの腕を掴み、廊下を引っ張っていく。
「ちょ、れいなちゃん、走ると危ない」
「だいじょーぶ!」
『元気な嬢ちゃんだなぁ』
はっちゃんが呆れたように笑った。
案内された部屋は和室だった。
畳の匂い。
押し入れ。
並べられた二組の布団。
窓の外には静かな庭が見える。
「ここ、私よく使うんだー!」
れいなは慣れた様子で布団へ飛び込んだ。
カクリはゆっくり荷物を置く。
「……広い」
「でしょー!」
はっちゃんは机の上へ置かれた。
『なんか修学旅行みてぇだな』
「修学旅行したことあるの?」
『ねぇな』
「ないんだ」
『神だからな』
意味がわからなかった。
やがて灯りが消される。
部屋は薄暗くなり、月明かりだけが障子を照らしていた。
布団へ入る。
静かだった。
夜見ヶ館は広いのに、不思議と落ち着く。
怪異の気配はある。
でも危険な感じは薄い。
結界のおかげなのだろう。
隣の布団から、れいなの声が聞こえた。
「ねぇ、カクリちゃん」
「?」
「怖くないの?」
カクリは少し考える。
「……怖いよ」
正直に答えた。
「でも、行かなきゃって思うから」
れいなは静かに聞いていた。
「お姉さん、大事なんだね」
「うん」
短い返事。
でも、その一言に全部詰まっていた。
れいなが少しだけ天井を見る。
「私ね、小さい頃から霊能者になるって決まってたの」
「そうなの?」
「うん。九条家だから」
その声は明るいけれど、少しだけ複雑そうだった。
「だから修行して、いっぱい覚えて、強くならなきゃなんだ」
「れいなちゃんは、なりたいの?」
少しの沈黙。
そして、れいなは笑った。
「……うん!私はね、困ってる人を助けたい!」
まっすぐな声だった。
カクリは目を閉じる。
助けたい。
その気持ちは、自分も同じかもしれない。
姉だけじゃない。
夜の中で泣いてる誰かがいるなら。
「カクリちゃんは強いね」
れいながぽつりと言う。
「そんなことない」
「強いよ。私だったら、夜に一人で歩けないもん」
カクリは少しだけ布団を握った。
強いわけじゃない。
怖い。
毎回怖い。
でも。
「……止まれないだけ」
その声は小さかった。
れいなは静かに笑う。
「そっか」
しばらく沈黙が続く。
外では風が木々を揺らしていた。
すると、机の上からはっちゃんの声が聞こえる。
『おい、お前ら』
「?」
『明日からもっと忙しくなるぞ』
カクリは薄く目を開けた。
「……うん」
『夜は広ぇ。怪異も山ほどいる』
はっちゃんの声は、どこか楽しそうだった。
『だから――もっと暴れられるぜ』
カクリは少しだけ笑った。
そして少女は、静かな夜の中で目を閉じる。
明日もまた、夜を歩くために。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




