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幽世断ちのカクリ 〜宵町カクリは夜を歩く〜  作者: れんP


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13/18

第12夜 「夜見ヶ館」



今日も少女は夜を歩く。


黒塗りの長い車は、静かな夜道を走っていた。


窓の外には街の灯りが流れていく。


コンビニ。

住宅街。

赤信号。


その全てが普通に見える。


けれどカクリは知っている。


夜の裏側には、お化けがいる。


そして今、自分はその“裏側”へ向かっていた。


「もうすぐ着きます」


篠崎冬華(しのざき ふゆか)が静かに言う。


宵町カクリは窓へ顔を向けた。


やがて車は、街外れの高台へ入っていく。


木々に囲まれた細い坂道。


その先に、大きな屋敷が見えた。


和風と洋風が混ざったような古い建物。


広い庭。


高い塀。


だがどこか普通じゃない。


建物全体から、静かな圧のようなものを感じる。


「ここ……」


「私達の拠点です」


冬華が答える。


「“夜見ヶ館”」


車が門を通り抜ける。


その瞬間、カクリは空気が変わるのを感じた。


外より静か。


いや、“清浄”だった。


お化けの気配が薄い。


『結界か』


はっちゃんが感心したように言う。


『なかなかやるじゃねぇか』


車が止まる。


扉が開き、カクリ達は外へ出た。


夜見ヶ館は近くで見るとさらに大きかった。


古い木造建築。


だが窓には薄く札のようなものが貼られている。


ただの屋敷じゃない。


れいなが元気よく走る。


「おかえりなさーい!」


玄関の扉が開いた。


中から数人の大人が出てくる。


和服姿の女性。

札を持った青年。

眠そうな目をした老人。


全員、普通ではない気配を持っていた。


その視線が、一斉にカクリへ向く。


「……子供?」


「冬華さん、新人ですか?」


「いや、若すぎないか?」


ひそひそ声が飛ぶ。


カクリは少しだけ身構えた。


だが冬華は平然としている。


「保護対象兼、協力者です」


『雑な紹介だなオイ』


はっちゃんが突っ込む。


その瞬間。


全員の視線が鋏へ集まった。


「しゃべった!?」


「霊具!?」


「え、神格持ちか?」


一気に騒がしくなる。


はっちゃんは得意げだった。


「ハハッ!もっと崇めてもいいぜ!」


「……うるさい」


カクリが小声で言う。


冬華は軽く咳払いした。


「立ち話もなんです。中へ」


館の中は広かった。


木の廊下。

古い柱。

薄い灯り。


旅館みたいな雰囲気なのに、空気は妙に張り詰めている。


壁には札。

廊下の端には古い刀。


ここが普通じゃないことは、すぐわかった。


やがて一行は広い居間へ通された。


大きな座卓。


座布団。


湯気の立つお茶。


れいなは慣れた様子で座る。


「カクリちゃんこっち!」


カクリは少し戸惑いながら座布団へ腰を下ろした。


はっちゃんは机の上へ置かれる。


『なんか旅館みてぇだな』


「静かに」


冬華は向かいへ座った。


そして真剣な目でカクリを見る。


「さて。まずは、怪異――お化けについて整理しましょう」


部屋の空気が少し変わる。


カクリも自然と姿勢を正した。


冬華は静かに話し始める。


「アナタは既に“幽世”について知っていますね」


「うん」


「では、そのお化けが何なのか。どこから来るのかは?」


カクリは少し考える。


「……人の怖い気持ち、とか?」


「半分正解です」


冬華は頷いた。


「怪異は、人の感情、未練、恐怖、信仰。そういった“想い”が幽世で歪み、形を得た存在です」


れいなが補足するように言う。


「つまり、人の心が元なんだよ!」


「はい。だから人が多い場所ほど怪異は発生しやすい」


学校。


病院。


駅。


人の感情が集まる場所。


カクリは昼間の学校を思い出した。


「じゃあ、強いやつは?」


冬華の目が細くなる。


「強い怪異ほど、自我を持ちます」


「名がつくやつ、か」


「えぇ」


冬華は頷く。


「名を持つ怪異は、“この世へ定着した存在”です」


空気が少し冷えた気がした。


「そういった怪異は、独自の“呪”を持つことがあります」


カクリは小さく呟く。


「異能……」


「はい。炎を操るもの。夢へ入り込むもの。音を媒介に呪うもの」


冬華は淡々と言う。


「そして厄介なのは、それぞれに“理屈”があることです」


「理屈?」


「例えば、“振り返った相手だけを襲う怪異”がいたとします」


れいなが「うわぁ……」と嫌そうな顔をする。


「その場合、どれだけ強くても、振り返らなければ襲われない」


カクリは少し目を見開いた。


「つまり、お化けにはルールがある」


「その通りです」


冬華は頷く。


「力押しで倒せる相手ばかりではありません。相手の呪を理解することも重要です」


はっちゃんが笑う。


『へへっ、勉強になってんじゃねぇか』


「……学校より難しい」


「実際、命に関わりますからね」


冬華は静かにお茶を飲んだ。


その時だった。


館の奥。


暗い廊下の向こうから、カタン、と小さな音がした。


カクリが反応する。


「……いる」


冬華は目を細めた。


「気づきましたか」


『おいおい、この館の中にもいるのか?』


はっちゃんが呟く。


冬華は静かに答える。


「えぇ。ここには“捕獲した怪異”も保管していますから」


カクリの背筋に冷たいものが走った。


夜見ヶ館。


そこは、夜を歩く者達の拠点。


そして――怪異と共にある場所でもあった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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