第11夜 「夜を歩く者達」
今日も少女は夜を歩く。
夜の『市立夕凪小学校』。
人気のない校庭に、冷たい風が吹き抜ける。
街灯の光が四人の影を伸ばしていた。
宵町カクリは巨大断ち鋏を握りしめたまま、篠崎冬華を見つめる。
「でも、私は、目的のために戦う!」
冬華は静かに目を細めた。
「.........目的、とは?」
カクリは少しだけ俯く。
脳裏に浮かぶのは病院の白い部屋。
眠ったままの姉。
そして、あの夜の黒い影。
「...お姉ちゃんを襲ったお化けを見つけてぶちのめす」
れいなが目を丸くする。
「......カクリちゃんのお姉さん?」
「うん」
短い返事。
けれど、その声には強い感情が混ざっていた。
怒り。
悔しさ。
恐怖。
全部を押し込めたような声。
その時、巨大断ち鋏がガチン、と鳴った。
「あぁ!ソイツを倒すためにオレとこいつは協力している!」
カクリが目を見開く。
「はっちゃん......」
今まで頭の中だけで喋っていたはっちゃんが、普通に声を出していた。
れいなが飛び上がる。
「え!?その大きいハサミさん!しゃべるの!?」
冬華も珍しく驚いた顔をした。
「これは驚きました、自我を持つ霊具とは」
はっちゃんは得意げに笑う。
「オレは、こいつにはっちゃんって呼ばれてる。神だ」
「そうは見えませんが、まぁいいでしょう」
冬華はさらっと流した。
「ますます、アナタには共に来てもらいたいですね」
カクリは少し黙る。
夜風が吹く。
学校の窓が小さく軋んだ。
れいながカクリへ駆け寄る。
「一緒に行きましょ!楽しいよ!」
「……楽しいの?」
「うん!」
即答だった。
カクリは少しだけ困った顔をする。
『どうする?』
はっちゃんが聞いた。
冬華は静かに続ける。
「アナタのお姉さんを襲ったお化けとやらも、見つけやすくなるかもですよ」
その言葉に、カクリの目がわずかに揺れる。
「どうです?これは強制ではなく、提案とでも思ってください」
冬華は淡々としていた。
「ですが、危険なのは変わりません」
沈黙。
カクリは少しだけ鋏を握り直した。
一人で探すより、情報は増える。
強い怪異についても知れる。
そして――姉を襲ったお化けへ近づけるかもしれない。
「............わかった、行く」
れいながぱっと笑顔になる。
「ほんと!?」
冬華も小さく頷いた。
「...わかりました。車を手配しましょう。親にはこちらから連絡しましょう」
「わーい!」
れいなが嬉しそうに跳ねる。
だがその瞬間だった。
校舎の奥から、低い呻き声が響く。
「ァァァァ......」
黒い気配。
窓ガラスの奥から、人影のようなものが這い出してくる。
はっちゃんが楽しそうに笑った。
「おでましだぜぇ」
影は三体。
昼間より濃い。
しかも、一体は人型に近い。
れいなが慌てて札を取り出す。
「わ、私もやる!」
冬華が少しだけ眉を上げる。
「れいな、無理は――」
「大丈夫!」
れいなは札を前へ突き出した。
「えっと……えっと……!」
だが動きがぎこちない。
構えも不安定だ。
黒い影が一気に距離を詰める。
「ァァァァ!!」
「ひゃっ!?」
れいなが固まる。
その瞬間。
カクリが前へ飛び出した。
「邪魔」
巨大断ち鋏が閃く。
一撃。
影が真っ二つになる。
続けざまに回転し、二体目を断ち切る。
最後の一体が飛びかかるが、カクリは冷静だった。
「終わり」
鋏が振り下ろされる。
黒い怪異はそのまま霧散した。
静寂。
れいながぽかんと口を開ける。
「……す、すご」
冬華は小さく息を吐いた。
「れいな」
「は、はい!」
「まず落ち着きなさい」
「うぅ……」
れいなはしゅんと肩を落とす。
カクリは巨大断ち鋏を小さく戻した。
その様子を見ながら、はっちゃんが冬華へ聞く。
「なぁ、この嬢ちゃんはなんなんだ?」
冬華はれいなを見る。
「九条家の子です」
「九条?」
「古くから霊能を扱う家柄ですよ」
れいなが少し照れたように笑う。
「修行で来てるの!」
「へぇ」
はっちゃんが感心したように鳴る。
「なるほどな。だから気配が違ったのか」
「ですが、まだ経験不足です」
冬華の視線が少し厳しくなる。
れいなは「うぅ……」とさらに縮こまった。
その後、四人は学校を軽く探索した。
夜の校舎。
無人の廊下。
薄暗い階段。
教室の奥から時折黒い気配が覗く。
カクリ達はそれらを片付けながら進んだ。
やがて校門へ戻ってきた時だった。
遠くから、強いライトが近づいてくる。
低いエンジン音。
そして現れたのは――
「……長っ」
カクリが思わず呟く。
黒塗りの、異様に長い車だった。
まるでテレビで見る高級車。
れいなが嬉しそうに手を振る。
「来たー!」
『なんだありゃ』
はっちゃんも若干引いていた。
車の扉が静かに開く。
中は広かった。
向かい合うソファ席まである。
カクリは少し緊張しながら乗り込んだ。
「すご……」
「慣れますよ」
冬華が淡々と言う。
車が静かに走り出す。
窓の外で夜の街が流れていく。
カクリは小さく聞いた。
「……霊能者って、いっぱい居るの?」
冬華は頷く。
「えぇ。怪異は昔から存在します。それに対抗する者達も」
「じゃあ、みんな夜に戦ってるの?」
「人によりますね。祓う者、封じる者、観測する者。色々います」
れいなが元気よく手を上げた。
「私は修行中!」
「見ればわかります」
「ひどい!」
車内に少しだけ笑いが広がる。
カクリは窓の外を見る。
夜の街。
その裏側。
自分の知らない世界が、まだたくさんある。
「……それで、今からどこ行くの?」
冬華は静かに答えた。
「私達の拠点です」
その目が少しだけ鋭くなる。
「――夜を歩く者達の場所へ」
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




