第二十一章: 彼らが選んだ沈黙。
夕方が近づくと、調査員たちは、私が一人で家に帰るには、遅すぎることに気づいた。
アイコは、暗くなっていく空を、窓の外に見た。「一人で歩いて帰るべきではない。今は、特に」
彼女が正しいことは、わかっていた。夜の村は、違う。沈黙は、より重い。影は、より深い。そして、学んだことの全ての後で、私は、自分の考えと共に、一人でいたくなかった。
「泊まります」 私は言った。
アイコは、うなずいた。彼女は、私のために、隅に布団を準備した。同じ薄いマットレス。同じ折りたたまれた毛布。私は、その上に落ち着いたが、眠らなかった。
調査員たちは、しばらく、写真と彼らの理論について、議論を続けた。その声は、低く、呟くようだった。私は、参加せずに、聞いていた。
やがて、皆が、眠りについた。
しかし、私は、目を覚まして、横たわっていた。
部屋は、暗かった。唯一の音は、他の者たちの柔らかな呼吸だった。私は、天井を見つめ、古代の記録について、考えた。
ヤマツチウシ。 大地の下の存在。眠る存在。
ニジエ。 虹の絵描きたち。災害の後に、約束を描いた者たち。
しかし、一つの問いが、私の心を、巡り続けた。
なぜ、皆は、ニジエを忘れたのか?
神は、覚えられていた。物語が歪められていても。神社は、維持されていた。供え物は、残されていた。しかし、ニジエは、筆と虹を持つ小さな人物たちは、あらゆる記録から、消去されていた。歴史もない。民間伝承もない。言及もない。
誰かが、彼らが忘れられることを、確実にした。
誰が?
そして、なぜ?
答えは、なかった。
目を閉じた。
眠りは、長い間、訪れなかった。
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翌朝、調査員たちは、機材を集めた。
カメラ。ノート。録音装置。神社の写真のコピー。紙に印刷され、フォルダに整理されている。彼らは、訓練された効率で動き、それぞれの項目を確認してから、しまった。
アイコは、私に向き直った。
「村の年長者と、話しに行きます」 彼女は言った。「彼が、ここで一番の年寄りです。誰かが古い物語を知っているなら、彼です」
私は、うなずいた。
「一緒に行きます」
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私たちは、一緒に村を歩いた。
朝は、明るかった。空は、晴れていた。村は、目覚めていた。店主たちが露店を設け、子供たちが通りを走り、老人たちがベンチに座って、世界が過ぎ去るのを見ている。
しかし、何かが、違っていた。
すぐに、気づいた。
村人たちが、私たちを、見ていた。
調査員たちが通り過ぎる時、話すのを止める者もいた。目をそらす者もいた。数人は、戸口に立ち、腕を組み、その顔は、読めなかった。
彼らは、私たちがどこへ行くのか、知っていた。
なぜかも、知っていた。
そして、それを、好んでいなかった。
私は、視線を前方に保った。凝視を、認識しなかった。しかし、それを感じた。重みのように、背中に押し付けられるのを。
年長者の家が、視界に入った。
柳の木。低い屋根。静かな庭。前回ここに来た時と、全く同じに見えた。平和的で、静かで、時の流れに、触れられていない。
調査員たちは、ドアの前で、止まった。
アイコは、ノックするために、手を上げた。
私は、息を止めた。
年長者は、私たちがノックする前に、ドアを開けた。彼は、私たちを見た。アイコ、タケシ、ケンジ、そして私。そして、ゆっくりと、うなずいた。
「お入り」 彼は言った。
私たちは、中に足を踏み入れた。部屋は、小さく、質素だった。一つの灯り。低いテーブル。村そのものより古く見える、数本の巻物が置かれた棚。
茶が、出された。年長者は、ゆっくりと、意図的に動き、全てに持ってくるのと同じ注意深い注意で、各茶碗を注いだ。
アイコは、儀礼が完了するまで、待った。それから、彼女は、話した。
「年長者様」 彼女は言った。「神社で、いくつかのものを発見しました。古代の記録。木の板。彫刻。それらを理解するのを、手伝っていただけると、思っていました」
彼女は、写真を、テーブルの上に、広げた。
年長者は、それらを注意深く調べた。その顔は、穏やかだった。読めない。彼は、彫刻を見た。木の板。ニジエの画像。
それから、アイコは、尋ねた。
「ヤマツチウシについて、何か、ご存知ですか?」
年長者は、間を置いた。
それは、小さな間だった。ほとんど気づかれない。しかし、私は、それを捉えた。
それから、彼は、答えた。
「ヤマツチウシ」 彼は、ゆっくりと言った。「古代の存在。山と。大地と、関連している」
彼は、静かに話した。注意深く。
「古い物語は、それが、地面の下で眠ると言う。それが動く時、大地を震わせると。村は、いつも、それを敬ってきた。供え物を残し。古い道を、守ってきた」
アイコは、前に、身を乗り出した。「どんな、供え物ですか?」
「米。酒。小さなものだ」
「なぜですか?」
年長者は、彼女を見た。「それを、鎮めるためだ」
調査員たちは、さらに質問した。地震について。儀式について。神社の歴史について。
年長者は、それら全てに、答えた。
私は、彼を、見ていた。
彼は、嘘をついては、いなかった。正確には、ね。
それから、調査員は、尋ねた。「ニジエについては?」
年長者の反応は、違っていた。
それは、小さかった。ほとんど、見えない。しかし、私は、見た。
彼の表情が、変わった。その目が、揺らめいた。テーブルの上に置かれていた彼の手が、動くのを、止めた。
彼の声は、より静かになった。
「ニジエ」 彼は、繰り返した。
「虹の絵描きたち」 アイコが言った。「彼らは、誰だったのですか?」
年長者は、長い間、黙っていた。
それから、彼は、話した。
「彼らは、召使いとして、描写されていた」 彼は言った。「古代の、より高位の存在の、召使い。彼らは、虹と関連していた。土地の、修復と」
彼は、間を置いた。
「それが、私が知っている全てだ」
アイコは、眉をひそめた。「しかし、彫刻は、それ以上のものを、示しています。ニジエが、災害の後に、虹を描くのを。地震の後に。彼らが、何かに、応答するのを、示しています」
年長者は、ゆっくりと、うなずいた。「そうだ。それが、彫刻の示すものだ」
「彼らは、誰だったのですか? どこから来たのですか? なぜ、他のどこにも、言及されていないのですか?」
年長者は、答えなかった。
彼は、写真を、見た。筆を持つ小さな人物たちを。彼らの上に、弧を描いて架かる、虹を。
それから、彼は、私を、見た。
ほんの一瞬、彼の目が、私の目と、合った。
そして、私は、その中に、何かを見た。名付けられない、何かを。
彼は、目を、そらした。
その時、女性調査員が、最後の問いを、尋ねた。
「なぜ、ニジエについての物語は、消去されたのですか?」
年長者は、長い間、黙っていた。
それから、彼は、答えた。
「誰も、彼らが何者か、あるいは誰かを、知らない。彼らは、この村より、古いかもしれない。誰も、知らない」
彼の口調は、以前とは、違っていた。
ヤマツチウシが言及された時、年長者は、慎重に、見えた。注意深く。彼は、薄い氷の上を歩く者のように、言葉を選び、重みを委ねる前に、各歩を、試していた。
しかし、ニジエが言及された時……
彼は、ほとんど、恐れているように、見えた。
彼の声は、より静かだった。テーブルの上に置かれていた彼の手は、完全に、動くのを止めていた。穏やかで、確かだった彼の目は、ドアへ、窓へ、テーブル上の写真以外の、何かへと、揺らめいた。
彼は、恐れていた。
調査員たちに、ではない。彼らの質問に、ではない。
ニジエそのものに。
私は、何も、言わなかった。
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調査員たちは、年長者に、感謝した。
彼らは、機材を集めた。彼らは、お辞儀をした。彼らは、丁寧な感謝の言葉を、述べた。年長者は、会話を通して、身に着けていたのと同じ、穏やかで、注意深い態度で、それらを受け入れた。
私たちは、ドアへと、歩いた。
私が、最後に、去った。
敷居を、またぐ時、私は、振り返った。
年長者は、戸口に、立ったままだった。その手は、前で、組まれていた。その顔は、穏やかだった。しかし、その目、その目は、私に、固定されていた。
彼は、私たちが、消えるまで、見ていた。
しかし、私は、彼が、調査員たちを、見ているのでは、ないという、感覚を、得た。彼は、私を、見ていた。基礎のひび割れを、見るように。直すためでは、ない。それが、広がっているかどうかを、見るために。
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私たちは、村を、歩いて戻った。
朝は、まだ明るかった。空は、まだ晴れていた。しかし、温かさは、その日から、色あせていた。村人たちの凝視が、私たちを、追った。沈黙が、私の背中に、押し付けられた。
アイコは、話していた。年長者のこと。尋ねるべきだった質問のこと。私は、聞いていなかった。
私は、年長者の目のことを、考えていた。
彼が、私を、見た、その仕方。
猜疑心で、では、ない。怒りで、では、ない。
別の何かで。認識のように、感じられる、何か。
まるで、彼が、私自身も知らない、私についての何かを、知っているかのように。
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調査員たちは、もし年長者が全てを話さないなら、普通の村人たちに、尋ねることにした。彼らは、誰にも、直接、立ち向かわなかった。その代わりに、彼らは、質問を、自然に、分け、普通の会話に、織り込んだ。
アイコは、野菜の商人に、尋ねた。曖昧な、肩すくめ。タケシは、漁師に、尋ねた。話題を、変えられた。ケンジは、米の店の近くで、たたずんだ。「ニジエ?」 「聞いたことが、ないな」 商人は言った。しかし、彼の息が、詰まった。ただ、一度。
ほとんどの村人は、曖昧な答えを、与えた。
ニジエを、聞いたことがないと言う者もいた。祖父母が、何かに言及していたが、何だったか、覚えていないと言う者もいた。数人は、ただ、首を振り、話題を、変えた。
その時、アイコは、年老いた店主に、近づいた。
その女性は、年老いていた。年長者よりも、村で見た誰よりも。彼女は、小さなカウンターの後ろに座り、その手は、乾燥した薬草を、選別するのに、忙しかった。
アイコは、ニジエについて、尋ねた。
女性の手が、止まった。
彼女は、顔を上げた。その目は、鋭く、澄んでいた。
「そんなことを、尋ねるべきでは、ない」 彼女は言った。
アイコは、瞬きした。「なぜですか?」
女性は、答えなかった。彼女は、向きを変え、働き続けた。その手は、素早く動き、その肩は、緊張していた。
アイコは、再び、試した。「お願いします。私たちは、ただ、理解しようとしているだけです」
「言ったはずです」 女性は、繰り返した。「そんなことを、尋ねるべきでは、ない」
彼女は、それ以上、何も言うことを、拒否した。
私たちは、先へ、進んだ。
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市場を歩いている間、私は、何かに、気づいた。
以前、年長者は、言った。*「誰も、古い物語を、覚えていない」*
しかし、年老いた店主は、ニジエという名前を、すぐに、認識した。彼女は、ためらわなかった。説明を、求めなかった。彼女は、アイコが何について話しているかを、正確に知り、そして、それを、議論することを、拒否した。
それは、知識が、完全には、消えていないことを、意味していた。
それは、抑制されていた。
私は、山の方を、見た。
神社は、木々の向こうに、隠れていた。六つの鳥居。古代の彫刻。木の板。ヤマツチウシの名前。ニジエ。
そして、今、私は、何かを、理解した。
村は、記憶を、失ってはいなかった。それを、埋めていた。 死体のように。秘密のように。子供のように。
そして、皆が、同意していた。
店主を除いて。老人を除いて。姿を消した子供たちを除いて。
私は、歩くのを、止めた。
アイコが、振り返った。「ヒカルさん?」
私は、山を、見た。木々の向こうに隠れた、神社を。
「何でもない」 私は言った。「ただ、考えていた」
彼女は、うなずいた。詰め寄らなかった。
私たちは、歩き続けた。
しかし、私が気づいたことの重みが、胸に、沈んでいた。
村が、沈黙しているのは、言うことが何もないからでは、ない。
村が、沈黙しているのは、そうすることを、選んだからだ。
そして、その選択、その合意、その抑制は、まだ、保たれていた。
まだ、機能していた。
まだ、何かを、埋め続けていた。
私は、ひなたのことを、思った。その小さな手。その明るい笑顔。その奇妙な質問。
私は、姿を消した子供たちのことを、思った。
私は、ニジエのことを、思った。虹の絵描きたち。歴史から、消去された者たち。
そして、思った。
村は、他に、何を忘れることに、同意したのだろう?




