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「夜になると、子供たちは歌い出す」  作者: アンドリュー・チェン


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第二十一章: 彼らが選んだ沈黙。

夕方が近づくと、調査員たちは、私が一人で家に帰るには、遅すぎることに気づいた。


アイコは、暗くなっていく空を、窓の外に見た。「一人で歩いて帰るべきではない。今は、特に」


彼女が正しいことは、わかっていた。夜の村は、違う。沈黙は、より重い。影は、より深い。そして、学んだことの全ての後で、私は、自分の考えと共に、一人でいたくなかった。


「泊まります」 私は言った。


アイコは、うなずいた。彼女は、私のために、隅に布団を準備した。同じ薄いマットレス。同じ折りたたまれた毛布。私は、その上に落ち着いたが、眠らなかった。


調査員たちは、しばらく、写真と彼らの理論について、議論を続けた。その声は、低く、呟くようだった。私は、参加せずに、聞いていた。


やがて、皆が、眠りについた。


しかし、私は、目を覚まして、横たわっていた。


部屋は、暗かった。唯一の音は、他の者たちの柔らかな呼吸だった。私は、天井を見つめ、古代の記録について、考えた。


ヤマツチウシ。 大地の下の存在。眠る存在。


ニジエ。 虹の絵描きたち。災害の後に、約束を描いた者たち。


しかし、一つの問いが、私の心を、巡り続けた。


なぜ、皆は、ニジエを忘れたのか?


神は、覚えられていた。物語が歪められていても。神社は、維持されていた。供え物は、残されていた。しかし、ニジエは、筆と虹を持つ小さな人物たちは、あらゆる記録から、消去されていた。歴史もない。民間伝承もない。言及もない。


誰かが、彼らが忘れられることを、確実にした。


誰が?

そして、なぜ?


答えは、なかった。


目を閉じた。


眠りは、長い間、訪れなかった。


---


翌朝、調査員たちは、機材を集めた。


カメラ。ノート。録音装置。神社の写真のコピー。紙に印刷され、フォルダに整理されている。彼らは、訓練された効率で動き、それぞれの項目を確認してから、しまった。


アイコは、私に向き直った。


「村の年長者と、話しに行きます」 彼女は言った。「彼が、ここで一番の年寄りです。誰かが古い物語を知っているなら、彼です」


私は、うなずいた。


「一緒に行きます」


---


私たちは、一緒に村を歩いた。


朝は、明るかった。空は、晴れていた。村は、目覚めていた。店主たちが露店を設け、子供たちが通りを走り、老人たちがベンチに座って、世界が過ぎ去るのを見ている。


しかし、何かが、違っていた。


すぐに、気づいた。


村人たちが、私たちを、見ていた。


調査員たちが通り過ぎる時、話すのを止める者もいた。目をそらす者もいた。数人は、戸口に立ち、腕を組み、その顔は、読めなかった。


彼らは、私たちがどこへ行くのか、知っていた。


なぜかも、知っていた。


そして、それを、好んでいなかった。


私は、視線を前方に保った。凝視を、認識しなかった。しかし、それを感じた。重みのように、背中に押し付けられるのを。


年長者の家が、視界に入った。


柳の木。低い屋根。静かな庭。前回ここに来た時と、全く同じに見えた。平和的で、静かで、時の流れに、触れられていない。


調査員たちは、ドアの前で、止まった。


アイコは、ノックするために、手を上げた。


私は、息を止めた。


年長者は、私たちがノックする前に、ドアを開けた。彼は、私たちを見た。アイコ、タケシ、ケンジ、そして私。そして、ゆっくりと、うなずいた。


「お入り」 彼は言った。


私たちは、中に足を踏み入れた。部屋は、小さく、質素だった。一つの灯り。低いテーブル。村そのものより古く見える、数本の巻物が置かれた棚。


茶が、出された。年長者は、ゆっくりと、意図的に動き、全てに持ってくるのと同じ注意深い注意で、各茶碗を注いだ。


アイコは、儀礼が完了するまで、待った。それから、彼女は、話した。


「年長者様」 彼女は言った。「神社で、いくつかのものを発見しました。古代の記録。木の板。彫刻。それらを理解するのを、手伝っていただけると、思っていました」


彼女は、写真を、テーブルの上に、広げた。


年長者は、それらを注意深く調べた。その顔は、穏やかだった。読めない。彼は、彫刻を見た。木の板。ニジエの画像。


それから、アイコは、尋ねた。


「ヤマツチウシについて、何か、ご存知ですか?」


年長者は、間を置いた。


それは、小さな間だった。ほとんど気づかれない。しかし、私は、それを捉えた。


それから、彼は、答えた。


「ヤマツチウシ」 彼は、ゆっくりと言った。「古代の存在。山と。大地と、関連している」


彼は、静かに話した。注意深く。


「古い物語は、それが、地面の下で眠ると言う。それが動く時、大地を震わせると。村は、いつも、それを敬ってきた。供え物を残し。古い道を、守ってきた」


アイコは、前に、身を乗り出した。「どんな、供え物ですか?」


「米。酒。小さなものだ」


「なぜですか?」


年長者は、彼女を見た。「それを、鎮めるためだ」


調査員たちは、さらに質問した。地震について。儀式について。神社の歴史について。


年長者は、それら全てに、答えた。


私は、彼を、見ていた。


彼は、嘘をついては、いなかった。正確には、ね。


それから、調査員は、尋ねた。「ニジエについては?」


年長者の反応は、違っていた。


それは、小さかった。ほとんど、見えない。しかし、私は、見た。


彼の表情が、変わった。その目が、揺らめいた。テーブルの上に置かれていた彼の手が、動くのを、止めた。


彼の声は、より静かになった。


「ニジエ」 彼は、繰り返した。


「虹の絵描きたち」 アイコが言った。「彼らは、誰だったのですか?」


年長者は、長い間、黙っていた。


それから、彼は、話した。


「彼らは、召使いとして、描写されていた」 彼は言った。「古代の、より高位の存在の、召使い。彼らは、虹と関連していた。土地の、修復と」


彼は、間を置いた。


「それが、私が知っている全てだ」


アイコは、眉をひそめた。「しかし、彫刻は、それ以上のものを、示しています。ニジエが、災害の後に、虹を描くのを。地震の後に。彼らが、何かに、応答するのを、示しています」


年長者は、ゆっくりと、うなずいた。「そうだ。それが、彫刻の示すものだ」


「彼らは、誰だったのですか? どこから来たのですか? なぜ、他のどこにも、言及されていないのですか?」


年長者は、答えなかった。


彼は、写真を、見た。筆を持つ小さな人物たちを。彼らの上に、弧を描いて架かる、虹を。


それから、彼は、私を、見た。


ほんの一瞬、彼の目が、私の目と、合った。


そして、私は、その中に、何かを見た。名付けられない、何かを。


彼は、目を、そらした。


その時、女性調査員が、最後の問いを、尋ねた。


「なぜ、ニジエについての物語は、消去されたのですか?」


年長者は、長い間、黙っていた。


それから、彼は、答えた。


「誰も、彼らが何者か、あるいは誰かを、知らない。彼らは、この村より、古いかもしれない。誰も、知らない」


彼の口調は、以前とは、違っていた。


ヤマツチウシが言及された時、年長者は、慎重に、見えた。注意深く。彼は、薄い氷の上を歩く者のように、言葉を選び、重みを委ねる前に、各歩を、試していた。


しかし、ニジエが言及された時……


彼は、ほとんど、恐れているように、見えた。


彼の声は、より静かだった。テーブルの上に置かれていた彼の手は、完全に、動くのを止めていた。穏やかで、確かだった彼の目は、ドアへ、窓へ、テーブル上の写真以外の、何かへと、揺らめいた。


彼は、恐れていた。


調査員たちに、ではない。彼らの質問に、ではない。


ニジエそのものに。


私は、何も、言わなかった。


---


調査員たちは、年長者に、感謝した。


彼らは、機材を集めた。彼らは、お辞儀をした。彼らは、丁寧な感謝の言葉を、述べた。年長者は、会話を通して、身に着けていたのと同じ、穏やかで、注意深い態度で、それらを受け入れた。


私たちは、ドアへと、歩いた。


私が、最後に、去った。


敷居を、またぐ時、私は、振り返った。


年長者は、戸口に、立ったままだった。その手は、前で、組まれていた。その顔は、穏やかだった。しかし、その目、その目は、私に、固定されていた。


彼は、私たちが、消えるまで、見ていた。


しかし、私は、彼が、調査員たちを、見ているのでは、ないという、感覚を、得た。彼は、私を、見ていた。基礎のひび割れを、見るように。直すためでは、ない。それが、広がっているかどうかを、見るために。


---


私たちは、村を、歩いて戻った。


朝は、まだ明るかった。空は、まだ晴れていた。しかし、温かさは、その日から、色あせていた。村人たちの凝視が、私たちを、追った。沈黙が、私の背中に、押し付けられた。


アイコは、話していた。年長者のこと。尋ねるべきだった質問のこと。私は、聞いていなかった。


私は、年長者の目のことを、考えていた。


彼が、私を、見た、その仕方。


猜疑心で、では、ない。怒りで、では、ない。


別の何かで。認識のように、感じられる、何か。


まるで、彼が、私自身も知らない、私についての何かを、知っているかのように。


---


調査員たちは、もし年長者が全てを話さないなら、普通の村人たちに、尋ねることにした。彼らは、誰にも、直接、立ち向かわなかった。その代わりに、彼らは、質問を、自然に、分け、普通の会話に、織り込んだ。


アイコは、野菜の商人に、尋ねた。曖昧な、肩すくめ。タケシは、漁師に、尋ねた。話題を、変えられた。ケンジは、米の店の近くで、たたずんだ。「ニジエ?」 「聞いたことが、ないな」 商人は言った。しかし、彼の息が、詰まった。ただ、一度。


ほとんどの村人は、曖昧な答えを、与えた。


ニジエを、聞いたことがないと言う者もいた。祖父母が、何かに言及していたが、何だったか、覚えていないと言う者もいた。数人は、ただ、首を振り、話題を、変えた。


その時、アイコは、年老いた店主に、近づいた。


その女性は、年老いていた。年長者よりも、村で見た誰よりも。彼女は、小さなカウンターの後ろに座り、その手は、乾燥した薬草を、選別するのに、忙しかった。


アイコは、ニジエについて、尋ねた。


女性の手が、止まった。


彼女は、顔を上げた。その目は、鋭く、澄んでいた。


「そんなことを、尋ねるべきでは、ない」 彼女は言った。


アイコは、瞬きした。「なぜですか?」


女性は、答えなかった。彼女は、向きを変え、働き続けた。その手は、素早く動き、その肩は、緊張していた。


アイコは、再び、試した。「お願いします。私たちは、ただ、理解しようとしているだけです」


「言ったはずです」 女性は、繰り返した。「そんなことを、尋ねるべきでは、ない」


彼女は、それ以上、何も言うことを、拒否した。


私たちは、先へ、進んだ。


---


市場を歩いている間、私は、何かに、気づいた。


以前、年長者は、言った。*「誰も、古い物語を、覚えていない」*


しかし、年老いた店主は、ニジエという名前を、すぐに、認識した。彼女は、ためらわなかった。説明を、求めなかった。彼女は、アイコが何について話しているかを、正確に知り、そして、それを、議論することを、拒否した。


それは、知識が、完全には、消えていないことを、意味していた。


それは、抑制されていた。


私は、山の方を、見た。


神社は、木々の向こうに、隠れていた。六つの鳥居。古代の彫刻。木の板。ヤマツチウシの名前。ニジエ。


そして、今、私は、何かを、理解した。


村は、記憶を、失ってはいなかった。それを、埋めていた。 死体のように。秘密のように。子供のように。


そして、皆が、同意していた。


店主を除いて。老人を除いて。姿を消した子供たちを除いて。


私は、歩くのを、止めた。


アイコが、振り返った。「ヒカルさん?」


私は、山を、見た。木々の向こうに隠れた、神社を。


「何でもない」 私は言った。「ただ、考えていた」


彼女は、うなずいた。詰め寄らなかった。


私たちは、歩き続けた。


しかし、私が気づいたことの重みが、胸に、沈んでいた。


村が、沈黙しているのは、言うことが何もないからでは、ない。


村が、沈黙しているのは、そうすることを、選んだからだ。


そして、その選択、その合意、その抑制は、まだ、保たれていた。


まだ、機能していた。


まだ、何かを、埋め続けていた。


私は、ひなたのことを、思った。その小さな手。その明るい笑顔。その奇妙な質問。


私は、姿を消した子供たちのことを、思った。


私は、ニジエのことを、思った。虹の絵描きたち。歴史から、消去された者たち。


そして、思った。


村は、他に、何を忘れることに、同意したのだろう?

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