第十一章: 空っぽのブランコ.
悲しみの後に続く朝の光は、普通の光よりも柔らかかった。
それは、屋根に、畑に、まだ露で濡れた葉に触れた。世界は、息を吐き出したようだった。まるで、夜の悲しみが、夜明けによって洗い流されたかのように。
キリは、私の隣を歩いていた。手をポケットに入れて、その視線は、前方の道に固定されていた。彼女は、疲れて見えた。通夜は、深夜まで続き、その重みが、まだ彼女の肩にまとわりついていた。
道は、今や見慣れたものだった。井戸。分かれ道。空っぽのバス停。低い屋根と、薄い壁。全ては、いつも通りのままだ。
しかし、何かが、変わっていた。
ついに、キリが、沈黙を破った。
**「あれは……すごかったね」** 彼女は言った。その声は、静かで、思索的だった。**「あんな通夜は、初めてだ。村中の人が、ただ……集まった。誰も尋ねず、誰も招待されず、ただ来た」**
私は、それを考えた。無言の弔問者で満ちた部屋。家族が、幽霊のように家の中を動き回った、その仕草。その顔は青白く、その手は震えていた。私の前に茶碗の飯を置いた母。その動きは機械的で、その目は空虚だった。
私は、その空虚さを知っていた。
自分自身も、それを身に着けていた。
彼らの悲しみは、私のものと同じだった。重く。容赦なく。それは、胸に沈み、何日経っても、去ろうとしなかった。
ほとんど感じることができた。その重みが、肋骨を圧迫する。その痛みが、骨に染み込む。
その時、突然、古い記憶が浮かび上がった。**娘**の顔。小さく。青白く。その黒い髪が、影のように、座席に広がっている。その目。あの、大きな、信頼する目。私には決して名付けられない何かを宿して、私を見上げていた。
恐怖ではない。困惑でもない。もっと柔らかい何か。どんな叫び声よりも、私を打ち砕いた何か。
彼女の唇が、動いた。乾いて。ゆっくりと。まるで、長い間練習してきた言葉を、ようやく言おうとしているかのように。私は、それを聞かなかった。決して、聞くことはなかっただろう。
私は、その記憶を押しのけた。他の全ての記憶をしまっている場所へ、押し込んだ。見ない記憶。触れない記憶。もし表面化させたら、私を引き裂くであろう記憶。
キリは、まだ私の隣を歩いていた。彼女は、気づいていなかった。
彼女は、まだ通夜の話をしていた。村の話を。都会とは、どれほど違うかを。
うなずいた。同意の声を出した。
**「村って、そういうものなんだ」** 私は言った。**「誰も、頼まれるのを待たない。誰かの屋根が漏れれば、人々は道具を持ってくる。誰かが悲しめば、その隣に座る。それが、私たちのやり方だ」**
キリは、しばらく黙っていた。
**「屋根が漏れた時も」** 私は続けた。**「村人たちが、私が頼まなくても、直しに来た。道具と竹を持ってきた。一日中働いて、何も見返りを期待せずに、去っていった。ここは、そういうところだ。ずっと、そうだった」**
キリは、ゆっくりとうなずいた。**「わかった気がする」** 彼女は言った。**「言葉が大事なんじゃない。**来ること**が大事なんだ」**
**「その通りだ」** 私は言った。
残りの道を、心地よい沈黙のうちに歩いた。
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家に着いた。
家は、静かだった。朝の光は、温かかった。前の夜の疲れが、重い毛布のように、私たちを押しつぶしていた。
**「寝よう」** 私は言った。**「後で、話そう」**
キリは、うなずいた。彼女は、客間へと消えた。
私は、布団に横になり、目を閉じた。
そして、沈黙。
そして、眠り。
何も夢見なかった。声も、顔も、山もない。ただ、ついに走るのを止めた心の、静かな闇。
それは、久しぶりの、最も深い休息だった。
目を覚ましたくなかった。
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正午頃、柔らかなノックが、家に響いた。
眠りの深いところから、それを聞いた。優しい音。見慣れた。
キリが、先に起きた。
床を横切る彼女の足音が聞こえた。引き戸が開く音が聞こえた。小さな、明るい声が聞こえた。
**「こんにちは、キリさん! ヒカルさん、起きてる?」**
微笑んだ。目を開ける前から、それが誰か、わかっていた。
ゆっくりと起き上がった。顔をこすった。立った。
戸口に着いた時、ひなたが部屋の真ん中に立って、満面の笑みを浮かべているのが見えた。彼女は、布で覆われた、編み竹の籠を運んでいた。何度も見た、あの同じ籠。
**「お母さんが、ヒカルさんは時々、食べるのを忘れるって言ってた」** 彼女は宣言した。**「だから、食べ物を持ってきた。ご飯と卵焼きと、少し漬物。それと、ちょっとしたスープ」**
キリが、笑った。
**「あなたのお母さんは、ヒカルのことをよく知ってるね」** 彼女は言った。
ひなたは、厳かにうなずいた。**「お母さんは、何でも知ってる」**
彼女は、籠を低いテーブルに置き、いつもの静かな有能さで、荷物を解き始めた。布。皿。小さな漬物の瓶。
私は、彼女を見た。
柿色のリボンは、まだ彼女の手首にあった。月の飾りは、まだ彼女の鎖骨の上にあった。その頬は、色づいていた。その目は、輝いていた。
彼女は、健康だった。彼女は、幸せだった。彼女は、ここにいた。
自分が息を止めていたことに、気づいた。
**「ありがとう」** 私は言った。**「食べ物を持ってきてくれて。私たちのことを考えてくれて」**
ひなたは、顔を上げた。その笑みが、広がった。
**「あなたは、いつも私のことを考えてくれる」** 彼女は言った。**「だから、私も、あなたのことを考える」**
彼女は、荷物の解き続けた。
キリが、私の目を捕らえた。その表情は、温かく、知っていた。
私は、何も言わなかった。
ただ、ひなたの隣に座り、彼女が差し出した茶碗を受け取った。
それから、立ち上がった。
**「お茶を入れる」** 私は言った。
キリは、テーブルの向こうから、私を見た。その目は、柔らかく、問いかけていた。彼女は、私の顔に何かを見ていた。いつものことだ。
ひなたが食事を整えている間、私はお茶を準備した。戻った時には、全てが整然と並べられていた。
彼女は、いつもの正確さで、皿を並べていた。紫蘇の葉で包まれたおにぎり。小さな漬物の瓶。きれいな長方形に切られた卵焼き。全てが、まさにその場所に置かれていた。まるで、何気ない午後ではなく、正式な食事のためにテーブルを整えているかのように。
キリは、楽しそうな微笑みで、彼女を見ていた。
**「彼女は、とても几帳面だね」** キリは言った。
**「彼女は、とても何かだね」** 私は言った。
ひなたは、私たちの両方を無視した。彼女は、箸が完璧に揃っていることを確認することで、忙しかった。
お茶の盆をテーブルに運び、置いた。茶碗は、手の中で温かかった。湯気が、細いリボンとなって立ち上り、緑茶のかすかな、草のような香りを運んだ。
私たちは、一緒に座った。キリが片側、ひなたがもう片側、私が真ん中。
ひなたは、すぐに話し始めた。
彼女は、その朝、追いかけた蝶の話をした。青かった、と言った。羽に、小さな目のような斑点があった。それは、彼女を川のほとりまで導き、葦の中に消えた。
**「もう少しで、捕まえられたのに」** 彼女は言った。**「でも、水の上を飛んでいった。それで、足を濡らすのは、好きじゃないの」**
**「それは、賢いね」** キリは言った。
**「知ってる」**
それから、彼女は、飼いたいと思っている野良猫の話をした。灰色で、痩せていて、片方の耳が、立つのではなく、垂れていた。彼女は、古い井戸の近くで、それを見た。
**「米を残しておいた」** 彼女は言った。**「でも、食べなかったみたい。もしかしたら、米は好きじゃないのかも」**
**「魚の方が好きなのかもね」** キリは提案した。
ひなたは、真剣にうなずいた。**「明日、魚を試してみる」**
それから、彼女はトマトに移った。
**「味が変」** 彼女は宣言した。**「酸っぱいのに、レモンみたいな酸っぱさじゃない。それに、濡れてるのに、水みたいな濡れ方じゃない。ただ……変」**
**「好きな人もいるよ」** 私は言った。
**「変な人もいる」** 彼女は付け加えた。
キリが、笑った。**「それは、とても良い指摘だ」**
ひなたは、お茶を手に取り、一口すする。その顔が、しわくちゃになった。
**「大人は、どうして苦いお茶を飲むの?」** 彼女は尋ねた。**「どうして、甘いお茶を飲まないの?」**
**「大人は、それを好きになることを学んだからだよ」** 私は言った。
**「それは、馬鹿げてる」**
**「そうだね」** キリは同意した。**「でも、私たちは大人だ。馬鹿げたことをする」**
ひなたは、それを考えた。それから、うなずいた。まるで、自分が尋ねているとは知らなかった質問への答えを、ようやく与えられたかのように。
会話は、続いた。ひなたは、ぺちゃくちゃと話した。キリは、質問をした。私は、聞いて、微笑んで、お茶を飲んだ。
その時、キリが、前に身を乗り出した。顎を手に乗せて。
**「ねえ」** 彼女は言った。**「毎日、食べ物を届けて、ヒカルを甘やかしちゃいけないよ」**
ひなたは、話の途中で止まった。その頬が、膨らんだ。
**「でも、ヒカルさんは、ちゃんと食べないんだもん」** 彼女は言った。
彼女は、腕を組み、大げさな真剣さで、私を上から下まで見た。ゆっくりと。買おうかどうか考えている家具を、調べるかのように。
**「もし私が食べ物を持って来なかったら」** 彼女は言った。**「彼女は、本当に、本当に痩せちゃう」**
顔が熱くなるのを感じた。
**「でも、私は、そんなに痩せてない」** 私は言った。
**「あなたは、とても痩せてる」** ひなたは言った。**「私には、わかる」**
キリが、笑い声を爆発させた。温かく、豊かな笑い声。どこか深いところから来る、あの種類の。
**「彼女の言う通りだよ、ヒカル」**
**「彼女の言う通りじゃない」** 私は言った。
**「彼女は、間違いなく、言う通りだ」**
ひなたは、きっぱりとうなずいた。**「だから、私は、彼女が食べるようにしなきゃいけないの」** 彼女は、大げさに食べ物をテーブルに置いた。**「それが、食べ物を持ってくる理由。甘やかしじゃない。**責任**なんだ」**
キリは、再び笑った。
私は、恥ずかしさに、ため息をついた。しかし、唇に浮かぶ微笑みは、抑えられなかった。
**「責任」** 私は、繰り返した。
**「そう」** ひなたは言った。**「誰かが、あなたの面倒を見なきゃいけないの」**
部屋は、温かい笑い声で満たされた。
そして、しばらくの間、世界は、軽く感じられた。
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温かい笑い声が、心地よい沈黙に変わっていた。私たちは、低いテーブルの周りに座った。皿は、片付けられ、茶碗は、まだ手の中で温かい。午後の光は、移り変わり、より柔らかくなり、床に、より長い影を落としていた。
キリが、茶碗を置いた。その声は、優しかった。
**「ひなた……ユキのことを、知ってる?」**
ひなたが、顔を上げた。最初は、その表情は変わらなかった。ただ、予期せぬ質問をされた子供の、静かで、開かれた好奇心。
それから、うなずいた。
**「うん」** 彼女は言った。**「彼女は、とても優しかった」**
その明るい表情が、消えた。その目の輝きが、暗くなり、もっと複雑なものに取って代わられた。彼女は、膝の上の自分の手を見下ろした。
**「彼女は、病気じゃなかった」** 彼女は言った。**「何も悪いことは、起こらなかった」**
彼女は、私たちを見上げた。その眉は、ひそめられて。
**「どうして、急に死んだのか、誰も知らない」**
部屋は、沈黙した。
その言葉が、胸に沈むのを感じた。完全に健康な子供が。ただ、死んだ。説明もなく、理由もなく。ただ、ある日そこにあった生命の不在が、次の日には、消えていた。
キリを見た。その顔は、動かず、読めなかった。しかし、その目の奥で、同じ考えがちらついているのを見ることができた。
奇妙だ。
間違っている。
沈黙が、続いた。それから、ゆっくりと、ひなたが、再び話し始めた。
彼女は、ユキのことを話してくれた。小さなこと。普通のこと。子供を現実にする、ああいうこと。
**「彼女は、色とりどりの葉っぱを集めるのが好きだった」** ひなたは言った。**「箱いっぱいに、それを持ってた。赤いの。黄色いの。橙色の。まるで、小さな炎みたいだって言ってた」**
ひなたは、微笑んだ。小さな、悲しい微笑み。
**「彼女は、いつもお菓子を分けてくれた。たとえ、一つしか持っていなくても、半分に割った。分けると、美味しくなるって言ってた」**
喉が、詰まるのを感じた。
**「彼女は、大声で笑った」** ひなたは続けた。**「本当に、本当に、大声で。時々、人々は彼女を見たけど、彼女は、気にしなかった。笑うことは、大声でするものだって言ってた」**
彼女は、間を置いた。その声は、より柔らかくなった。
**「彼女は、先生になりたかった。小さな子供たちを教えたいって言ってた。彼女は、彼らには、話を聞いてくれる誰かが必要だと言っていた」**
部屋は、とても静かだった。
その時、ひなたは、間を置いた。
その眉が、ひそめられた。その口が、わずかに開いた。
**「……」**
**「私……」**
彼女は、瞬きした。彼女は、何かを思い出そうとしていた。その顔に、それが見えた。来ない言葉を探す、その仕草。
彼女は、首を振った。
**「なんでもない」**
笑みが、戻った。明るく。陽気に。まるで、何も起こらなかったかのように。
しかし、キリも私も、それに気づいた。
そのためらい。
何かがあるべき場所の、**空虚**。
どちらも、何も言わなかった。
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午後は、続いた。ひなたは、他のことについて、ぺちゃくちゃと話した。
しかし、私は、その瞬間のことを考えずにはいられなかった。
間。
眉をひそめたこと。
何か重要でないことを忘れたかのように、首を振り、微笑んだ、その仕草。
彼女が何を思い出そうとしていたのか、わからなかった。
知りたいかどうかも、確かではなかった。
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天気は、快適だった。暖かいが、暑くはない。軽い風が、乾いた草と野花の香りを運んでいた。太陽は、山々に向かって、ゆっくりと沈み始めていた。村を、金と琥珀の色合いで、染めていた。
朝の重さの後で、新鮮な空気は、贈り物のように感じられた。
ひなたが、散歩を提案した。彼女は、落ち着きがなく、かかとで跳ね、その目は、使い切れないエネルギーで輝いていた。キリは、すぐに同意した。私は、後に続いた。
私たちは、一緒に村を歩いた。ひなたが先頭で、その足は、小さな埃の雲を蹴り上げている。キリは、私の隣で、手をポケットに入れて。
道すがら、村人たちは、私がいつもこの場所を愛していた、あのたやすい優しさで、私たちを迎えた。キリが落ち着いているかどうか、何か必要かどうか、尋ねて。
ほとんどは、温かく微笑んだ。
彼らは、キリが訪問を楽しんでいるか尋ねた。十分に食べたか、眠ったか、何か必要か尋ねた。
それは、私が最初にこの村を好きになった、あの、小さな、普通の優しさの種類だった。
その時、ひなたが、ユキのことを口にした。
**「彼女は、とても優しかった」** 彼女は、米の商人に言った。**「彼女は、いつもお菓子を分けてくれた」**
商人の微笑みが、揺らめいた。その目が、そらされた。
**「ああ」** 彼は言った。**「そうだ。彼女は……良い子だった」**
彼は、すぐに話題を変えた。**「新しい米は、試したか? 東の畑のだ。とても甘い」**
ひなたは、気づいていないようだった。しかし、私は、気づいた。
キリも、気づいた。
歩き続けた。
ひなたは、井戸のところで、再びユキのことを口にした。そして、古い橋の近くで、再び。その度に、同じ反応。同じ一瞬の不快感。同じ素早い話題の転換。
ある者は、目を伏せた。
他の者は、ただ、黙り込んだ。
キリは、そのパターンに気づいた。彼女は、何も言わなかった。言う必要はなかった。
彼女の目の奥に、問いが形作られるのが見えた。
私も、同じ問いを持っていた。
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村の遊び場を通り過ぎた。
それは、小さかった。簡素な木の滑り台。いくつかの擦り切れた登り棒。そして、錆びた枠からぶら下がる、二つのブランコ。子供たちが、近くで遊んでいた。その笑い声は、明るく、無邪気だった。彼らは、芝生の上を追いかけ合い、その声は、温かい午後の空気に響いていた。
**一つのブランコだけが、動かずにいた。**
止まった。どうしようもなかった。
ひなたも、止まった。彼女は、空っぽのブランコに、目を固定した。
**「ユキは、いつもあれが好きだった」** 彼女は言った。
その声は、柔らかかった。静かだった。
沈黙が、続いた。
子供たちは、遊び続けた。草は、ざわめいた。
誰も、それに座らなかった。
誰も、それに近づかなかった。
長い間の後、ひなたは、向きを変えた。
**「帰ろう」** 彼女は言った。
歩いた。
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光が、色あせ始める頃、家に着いた。影が、庭に長く、細く伸びていた。てるてる坊主は、まだ窓辺に吊るされ、そよ風に優しく揺れていた。
ひなたは、別れを告げた。彼女は、一度手を振り、それから、道を歩き去った。その小さな姿は、曲がり角に消えた。
キリは、ドアのところで、私の隣に立っていた。
太陽が、山々の背後に沈んだ。
次に何が起こるのか...
次回、同じ時間に、同じ場所で。




