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強豪校との初対決

前書き


第四話をお届けします。


今回は、いよいよ悠真たち軟式野球部が、初めて強豪校との練習試合に挑みます。


相手は県大会ベスト4。


部員数は三十人以上。


専用グラウンドを持ち、練習環境も充実している。


一方の悠真たちは、部員十二人。


グラウンドは他の部活動と共有。


練習場所がなく、体育館裏で練習することさえある。


誰が見ても、圧倒的に不利です。


しかし、野球は設備だけで決まるものではありません。


少ない人数だからこそ、一人ひとりが努力する。


限られた練習時間だからこそ、集中する。


そして、負けたからこそ、自分たちに何が足りないのかを知る。


今回の試合では、悠真たちは0対4で敗れました。


数字だけを見れば完敗です。


しかし、試合を通して彼らは確かな手応えを感じました。


「勝てない相手ではない」


その言葉が、これからのチームを変えていきます。


そして黒田蓮も、再び野球をする意味を少しずつ取り戻していきます。


野球をやめた過去。


グラウンドから離れていた時間。


それでも、心のどこかでは野球を続けたかった。


悠真とのキャッチボールが、その気持ちを引き出しました。


ここから二人は、チームメイトでありながら、お互いを高め合うライバルになっていきます。


悠真は「全国に行きたい」。


黒田も「もう負けたくない」。


二人の思いが重なったとき、軟式野球部はさらに強くなっていくでしょう。


ただし、全国への道はまだまだ遠い。


次に待っているのは、さらに強い相手。


そして、部内でもレギュラー争いが始まります。


「軟式だから弱い」


「無名校だから勝てない」


そんな常識を、彼らは一つずつ覆していくことができるのか。


まだ誰にも分かりません。


でも、一つだけ確かなことがあります。


彼らはもう、最初の頃の弱小チームではありません。


小さな一歩を踏み出した。


その一歩が、いつか全国へつながっていきます。


それでは、次の戦いへ。


軟式野球部の挑戦は、ここからさらに熱くなっていきます。

第四話 強豪校との初対決――軟式野球部をなめるな


「プレイボール!」


審判の声がグラウンドに響いた。


俺たちの初めての練習試合が始まった。


相手は県大会ベスト4。


部員数三十人以上。


専用グラウンドあり。


設備も充実。


一方、俺たちは――。


部員十二人。


グラウンドは他の部活と共有。


練習場所がなくて体育館裏に行くこともある。


正直に言えば、比べること自体がおかしい。


それでも。


俺たちは、この試合を楽しみにしていた。


「神谷!」


ベンチから佐伯先輩の声が飛んでくる。


「はい!」


「一番、センター!」


「はい!」


俺は左打席に入った。


相手投手を見る。


背が高い。


フォームもきれいだ。


捕手のサインを見る。


そして――。


初球。


ストレート。


俺はバットを振った。


カキィン!


打球は三塁線へ飛んだ。


「ファウル!」


惜しい。


二球目。


外角。


見送る。


「ストライク!」


三球目。


低い。


「ボール!」


四球目。


また外角。


俺はバットを出した。


カキン!


ボテボテのゴロ。


「ファースト!」


俺は全力で走った。


しかし――。


「アウト!」


一塁手の捕球が速い。


俺はベースを駆け抜けた。


「……速い」


思わず呟いた。


相手の守備。


送球。


判断。


全部が速い。


これが強豪校。


俺はベンチへ戻った。


「ドンマイ!」


美咲先輩が声をかける。


「はい!」


次の打者が打席に入る。


だが。


三振。


三振。


そして三者凡退。


俺たちは何もできなかった。


「チェンジ!」


ベンチに戻る。


佐伯先輩が言った。


「相手、やっぱり強いな」


「はい」


「でも、まだ一回だ」


先生が口を開く。


「焦るな」


全員が頷いた。


そして――。


相手の攻撃。


俺はセンターを守る。


相手の一番打者が打席へ。


初球。


ストライク。


二球目。


ファウル。


三球目。


「カキーン!」


高い打球が飛んできた。


センター後方。


俺は走った。


「来い!」


打球がどんどん伸びる。


一歩。


二歩。


三歩。


俺は最後にジャンプした。


パシッ!


「アウト!」


取った。


ベンチから声が飛ぶ。


「ナイス神谷!」


俺はグラブを掲げた。


「よし!」


次の打者。


ライト方向へ鋭い打球。


ライトが捕る。


そして三人目。


ショートゴロ。


チェンジ。


俺たちはベンチへ戻った。


「神谷、今のよかったぞ」


先生が言う。


「ありがとうございます!」


佐伯先輩も笑う。


「やっぱり足あるな」


「もっと練習します!」


「その意気だ」


二回表。


俺たちの攻撃。


四番候補の黒田が打席に入る。


相手ベンチが少しざわついた。


「黒田……?」


「去年いた奴か?」


「戻ったって聞いたぞ」


黒田は何も言わない。


ただバットを構える。


相手投手が投げる。


初球。


ストライク。


二球目。


外角。


黒田は見送る。


三球目。


内角。


黒田が振った。


カキィィィン!


鋭い打球が右中間へ飛んだ。


「走れ!」


黒田は一塁へ走る。


外野手が追う。


しかし――。


打球はフェンス手前で転がった。


「二塁!」


黒田が二塁へ滑り込む。


「セーフ!」


俺たちのベンチが沸いた。


「ナイス!」


黒田は立ち上がった。


表情は変わらない。


でも、拳を握っていた。


「やっぱり打てるじゃん!」


佐伯先輩が叫ぶ。


黒田は笑った。


「まだまだ」


「十分だろ!」


続く五番打者。


送りバント。


黒田は三塁へ進む。


一死三塁。


先制のチャンス。


しかし――。


次の打者は三振。


二死。


そして最後の打者。


三球目。


空振り。


「三振!」


チェンジ。


黒田は三塁に残った。


「くそっ……」


黒田が悔しそうに呟く。


ベンチに戻ってくる。


俺は声をかけた。


「惜しかったですね」


「お前も打て」


「はい!」


黒田は俺の肩を軽く叩いた。


「俺たちで点取るぞ」


その言葉に、俺は頷いた。



三回。


四回。


試合は膠着した。


0対0。


俺たちは守り続けた。


相手も点を取れない。


投手の二年生、山下が粘っていた。


「山下、ナイス!」


「あと一つ!」


しかし五回。


ついに試合が動く。


相手の四番。


打席に入った瞬間、雰囲気が変わった。


「来るぞ」


佐伯先輩が言った。


初球。


ストライク。


二球目。


ファウル。


三球目。


低め。


そして――。


カキィィィン!


強烈な打球が飛ぶ。


センター。


俺は走った。


だが――。


「抜かれる!」


打球は頭上を越えていった。


「二塁!」


打者は二塁へ。


続く五番打者。


送りバント。


一死三塁。


そして六番。


犠牲フライ。


「タッチアップ!」


俺は捕球した。


三塁ランナーが走る。


「ホーム!」


俺はバックホーム。


しかし――。


間に合わない。


「セーフ!」


0対1。


先制された。


俺は悔しかった。


「……くそ」


ベンチに戻る。


誰も下を向いていない。


先生が言った。


「まだ一回だ」


「はい!」


しかし相手は強かった。


その後も追加点を許す。


六回終了。


0対3。


七回。


0対3。


八回。


0対4。


残り一回。


俺たちの攻撃。


九回表。


「最後だ」


佐伯先輩が言う。


「ここからだ」


先頭打者。


三振。


一死。


二番。


ショートゴロ。


二死。


あと一つ。


相手ベンチから声が飛ぶ。


「あと一人!」


「勝てるぞ!」


俺たちのベンチは静かだった。


そして――。


三番打者が打席に入る。


粘る。


ファウル。


ファウル。


ファウル。


そして――。


四球。


出塁。


二死一塁。


次は――。


黒田。


「蓮!」


佐伯先輩が叫ぶ。


黒田はバットを持って立ち上がった。


俺もベンチから見つめる。


「ここで一本!」


黒田は打席に入った。


相手投手が投げる。


初球。


ストライク。


二球目。


ボール。


三球目。


ファウル。


四球目。


外角。


黒田は見送る。


「ボール!」


フルカウント。


五球目。


相手投手が投げる。


黒田が振った。


カキィィィン!


打球は左中間へ。


「抜けろ!」


俺たちが叫ぶ。


外野手が走る。


しかし――。


捕球。


「アウト!」


試合終了。


0対4。


負け。


誰も喋らなかった。


俺は空を見上げた。


悔しい。


ただ、それだけだった。


「……負けた」


黒田が呟く。


佐伯先輩が近づく。


「でも、やれたな」


「勝てなかった」


「そうだな」


先生が全員を集める。


「今日は負けた」


全員が下を向く。


「だが、よくやった」


顔を上げる。


「強豪相手に四点で抑えた。守備も崩れなかった。打撃ではまだ課題がある」


先生は続けた。


「つまり――」


「勝てない相手ではない」


全員が驚いた。


「本気で全国を目指すなら、今日の敗戦を忘れるな」


先生の言葉が響く。


「何が足りなかったのか考えろ」


俺はバットを見る。


打撃。


もっと打てるようにならないといけない。


守備。


もっと速くならないといけない。


走塁。


もっと判断できるようにならないといけない。


全部だ。


「俺、もっと練習します」


俺が言った。


黒田が笑う。


「俺も」


佐伯先輩が言う。


「全員だ」


「はい!」



帰り道。


俺と黒田は二人で歩いていた。


「悔しいですね」


俺が言う。


「当たり前だ」


「先輩、あの最後の打席……」


「打てなかった」


「でも、惜しかった」


「結果が全部だ」


黒田は空を見た。


「俺はもう、負けるの嫌なんだ」


「……」


「だから戻ってきた」


俺は黒田を見る。


「野球をやめて、ずっと後悔してた」


黒田は続けた。


「毎日、野球部のグラウンドを見てた」


「……」


「練習してる奴らを見て、俺は何してるんだろうって思った」


そして黒田は笑った。


「だから、お前にキャッチボール誘われたとき、正直嬉しかった」


俺は驚いた。


「そうだったんですか?」


「ああ」


「じゃあ、もっと早く戻ればよかったじゃないですか」


「お前、遠慮ないな」


二人で笑った。


そして黒田が言った。


「神谷」


「はい」


「お前、全国行きたいんだろ?」


「はい」


「なら、俺と競争しよう」


「競争?」


「ああ」


黒田は笑う。


「打率でも、打点でも、守備でも、何でもいい」


「……負けませんよ」


「その顔だ」


俺たちは拳を合わせた。


「絶対、全国行くぞ」


「はい!」



翌日の練習。


俺たちは朝から走った。


昼休みも素振りした。


放課後は守備練習。


打撃練習。


走塁練習。


練習場所は相変わらず狭かった。


グラウンドはサッカー部に取られていた。


だから体育館裏。


その日は雨が降った。


今度は校舎の廊下。


「野球部なのに廊下で何やってるんだ?」


通りかかった生徒が笑う。


俺たちは気にしなかった。


「素振りです!」


「頑張れよ!」


そんな声が聞こえた。


少しずつ。


少しずつ。


俺たちは変わっていった。


そして二週間後。


次の練習試合が決まった。


相手は――。


前回とは違う強豪校。


しかも今度は、県大会優勝候補。


先生が対戦相手の名前を書いた。


全員がざわつく。


「また強豪?」


「先生、鬼じゃないですか?」


先生は笑った。


「全国に行きたいんだろ?」


「……はい」


「だったら強い相手と戦え」


黒田が立ち上がる。


「勝ちます」


先生が頷いた。


「その意気だ」


俺も立ち上がった。


「俺も打ちます」


佐伯先輩が笑った。


「じゃあ決まりだな」


俺たちはグラウンドへ向かった。


すると――。


サッカー部がいた。


「今日も使うのか?」


「はい!」


「じゃあ、端っこ空けとくよ」


「ありがとうございます!」


以前なら「またか」と思っていた。


でも今は違う。


端っこでもいい。


体育館裏でもいい。


狭い場所でもいい。


俺たちには夢がある。


全国制覇。


誰も期待していないなら、それでもいい。


笑われてもいい。


弱小と言われてもいい。


俺たちは一歩ずつ進む。


その日の夕方。


練習が終わったあと。


俺は一人でグラウンドに残った。


空を見上げる。


「全国……」


まだ遠い。


本当に遠い。


でも。


今日より明日。


明日より明後日。


少しずつ近づけばいい。


そのとき、背後から声がした。


「神谷」


振り返る。


黒田だった。


「帰らないのか?」


「もう少しだけ」


「じゃあ付き合う」


黒田はバットを持った。


俺もバットを持つ。


二人で素振りを始める。


一回。


二回。


三回。


「全国制覇」


黒田が呟く。


俺も言った。


「全国制覇」


二人の声が夕暮れのグラウンドに響く。


まだ、俺たちは弱い。


でも――。


弱いからこそ、強くなれる。


そして。


この小さな軟式野球部は、少しずつ変わり始めていた。


全国制覇への道。


その第一歩は――。


強豪校に負けたことだった。

後書き


第四話、最後まで読んでいただきありがとうございました。


今回は、この物語で初めて「強豪校との実力差」を描きました。


結果は0対4。


悠真たちの敗北です。


しかし、この敗北には大きな意味があります。


これまでの悠真たちは、自分たちがどれくらい強いのかを知りませんでした。


全国制覇を目指す。


そう口にしていても、実際に全国を狙うようなチームと戦った経験はありません。


だからこそ、今回の試合は大切でした。


相手の守備は速い。


送球も正確。


打撃も強い。


走塁も上手い。


何より、試合慣れしている。


悠真たちは、その差を実際に体感しました。


「やっぱり強豪は強い」


そう思ったことでしょう。


でも、そこで終わらなかった。


4点取られた。


しかし、10点も20点も取られたわけではない。


守備で粘ることができた。


投手も踏ん張った。


黒田は二塁打を放った。


悠真もセンターで好守を見せた。


つまり――。


「絶対に勝てない相手ではない」


これが、今回の最大の収穫です。


そして、黒田蓮。


彼にとっても、この試合は大きな意味を持ちました。


一年間、野球から離れていた黒田。


それでも、打席に立った瞬間、かつての感覚が戻ってくる。


最後は打ち取られました。


それでも、黒田はもう逃げません。


「もう負けたくない」


その気持ちを取り戻しました。


そして悠真との関係も変わってきました。


最初は先輩と後輩。


しかし、今は少しずつ「仲間」であり「ライバル」になっています。


これは、これからの二人にとって重要な関係になります。


どちらが多く打つのか。


どちらがチームに貢献するのか。


そして、どちらが先に全国大会の舞台へたどり着くのか。


競い合うことで、二人はさらに成長していくでしょう。


もちろん、このチームにはまだまだ課題があります。


打撃力。


投手力。


守備力。


走塁。


そして何より――選手層。


部員が十二人しかいない以上、誰か一人が怪我をすればチーム全体に影響します。


だからこそ、全員がレギュラー争いをする必要があります。


「俺が試合に出る」


「俺がチームを勝たせる」


その気持ちが、チームを強くします。


次回からは、いよいよ部内競争も激しくなっていきます。


悠真も、ただ試合に出るだけではありません。


「レギュラーを取る」


そして――。


「全国大会で戦える選手になる」


そのための厳しい練習が始まります。


グラウンドは相変わらず狭い。


練習場所も安定しない。


それでも、選手たちはバットを振ります。


ボールを投げます。


走ります。


何度失敗しても、また立ち上がります。


全国制覇なんて、今はまだ遠い。


でも、夢を見ることはできる。


そして、夢を叶えるために努力することもできる。


「軟式野球部だっていいじゃないか」


この言葉が、いつか全国の舞台で響く日を目指して。


次の物語へ続きます。

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