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戻ってこい、四番

登場人物


神谷かみや 悠真ゆうま


1年生/左投げ左打ち/外野手


本作の主人公。

中学時代は軟式野球部に所属していたが、特別に目立つ選手ではなかった。


名門高校への進学を目指していたものの、「軟式上がりではレギュラーを取るのは難しい」と言われ、名門校への進学を諦める。


硬式野球部のない高校に進学し、軟式野球部へ入部。


「軟式野球部だっていいじゃないか」を胸に、全国制覇を目指す。


素直で負けず嫌いな性格。

まだ技術的には未熟だが、守備範囲の広さと左打ちを武器に成長していく。



佐伯さえき 恒一こういち


3年生/主将/内野手


軟式野球部のキャプテン。


部員が少なく、グラウンドも自由に使えない弱小チームをまとめている。


明るく面倒見の良い性格だが、チームを強くしたいという気持ちは誰よりも強い。


黒田蓮とは中学時代からの知り合い。


一度野球部を離れた黒田が戻ってくることを誰よりも望んでいた。


最後の夏に、全国大会へ出場することを目標にしている。



黒田くろだ れん


2年生/右投げ右打ち/強打者


中学時代、県大会で四番を打っていた実力者。


打撃センスに優れ、チームからも大きな期待を受けていた。


しかし高校入学後、わずか一か月ほどで野球部から離れてしまう。


理由は本人しか知らない。


「俺が野球やったって、何も変わらない」


そう言って野球から距離を置いていた。


しかし、悠真とのキャッチボールをきっかけに、再び野球部へ戻ることを決意。


チームの主砲候補であると同時に、悠真にとって最大の刺激となる存在。



高橋たかはし 美咲みさき


2年生/マネージャー


軟式野球部のマネージャー。


選手の練習や体調管理、道具の管理などを担当している。


明るくしっかり者で、選手に対しても言うべきことははっきり言うタイプ。


悠真の守備を見て、その才能の片鱗に気づく。


「全国を目指すなら、あの程度じゃ足りない」


厳しい言葉をかけながらも、選手たちを誰よりも応援している。



軟式野球部顧問


名前:未定


野球部を指導する教師。


強豪校のような設備も、豊富な部員もいないことを理解している。


それでも最初からチームに「全国制覇」という目標を掲げる。


厳しい指導をする一方で、選手の努力をしっかり見ている。


「全国大会に行くチームは、地味な練習を誰よりも大切にする」


という信念を持つ。



軟式野球部の部員たち


選手12人+マネージャー5人


現在の軟式野球部は、選手12人という少人数。


1年生、2年生、3年生がそれぞれ異なる個性を持っている。


部員不足に悩まされているため、一人ひとりの役割は大きい。


また、マネージャーが5人おり、選手たちを陰から支えている。



サッカー部


軟式野球部とグラウンドを共有するライバル的存在。


決して敵対しているわけではなく、限られたグラウンドをお互いに譲り合っている。


「野球部、今日も端っこ使う?」


そんな会話が日常になっている。



強豪校・野球部


最初の練習試合の対戦相手


県大会ベスト4の実績を持つ強豪軟式野球部。


部員は30人以上。


専用グラウンドや充実した設備を持ち、選手層も厚い。


悠真たちにとって、初めて自分たちの実力を試す相手となる。


「環境が違えば、本当に勝てないのか?」


その答えを確かめる戦いが始まる。

第三話 戻ってこい、四番――軟式野球部の新たな仲間


翌朝。


俺はいつもより早く学校へ向かった。


理由は特にない。


ただ、昨日のことが頭から離れなかった。


グラウンドの隅で練習する俺たち。


サッカー部と譲り合う練習場所。


少ない部員。


そして――。


最後に現れた、あの男子。


中学時代、県大会で四番を打っていた選手。


佐伯先輩は、彼のことを知っているようだった。


「一体、何者なんだ……」


俺は校門をくぐりながら呟いた。


朝の校舎は静かだった。


まだ登校している生徒も少ない。


グラウンドを見る。


誰もいない。


昨日とは違い、サッカー部もまだ来ていない。


俺は少しだけグラウンドを眺めた。


土の上に残った昨日のスパイク跡。


白線の跡。


端に置かれたサッカーボール。


そして、野球部の倉庫。


俺は倉庫の前に立った。


扉を開ける。


中にはボール、バット、ヘルメット、ベース、キャッチャー道具。


どれも少し古い。


ボールには何度も使った跡がある。


バットも新品ではない。


だけど――。


俺はその一本を手に取った。


「……これで全国に行くのか」


思わず笑ってしまった。


全国大会。


この道具。


このグラウンド。


この人数。


普通に考えれば、無謀だ。


それでも。


俺はバットを握った。


「やるしかないだろ」


その瞬間。


「朝から気合入ってんな」


後ろから声がした。


振り返る。


佐伯先輩だった。


「おはようございます」


「おはよう。早いな」


「先輩もですよ」


「俺は朝練が好きだからな」


佐伯先輩は倉庫に入り、ボールを取り出した。


「昨日のこと、気になってるだろ?」


俺は黙った。


「……あの人ですよね」


「ああ」


佐伯先輩はボールを握ったまま、少し遠くを見る。


「名前は?」


「黒田蓮」


「黒田……蓮」


「俺たちの一つ上。今は二年生だ」


「じゃあ、先輩なんですね」


「そうだ」


佐伯先輩は続けた。


「中学時代は、とにかくすごかった」


「四番だったって聞きました」


「四番どころじゃない」


「え?」


「県大会で打率四割超え。ホームランも何本か打ってる」


俺は驚いた。


「そんな人が、どうして野球部にいないんですか?」


佐伯先輩は答えなかった。


その沈黙が、すべてを物語っているように感じた。


「何かあったんですか?」


「……去年の春だ」


「はい」


「一年生のとき、入部した」


「ですよね」


「最初は期待されていた。俺たちも『これで強くなる』と思った」


佐伯先輩は一度、空を見上げた。


「でも、一か月もしないうちに来なくなった」


「どうして?」


「本人が何も言わなかった」


「怪我とか?」


「違う」


「じゃあ……」


「分からない」


佐伯先輩は首を振った。


「ただ、最後に俺が話したとき、あいつはこう言った」


「何て?」


佐伯先輩は少し間を置いた。


「『俺が野球やったって、何も変わらない』」


俺は言葉を失った。


「……何も変わらない?」


「ああ」


「そんな……」


「それから、あいつは野球部に来なくなった」


「でも、昨日はボールを持ってました」


「ああ」


佐伯先輩は笑った。


「だから俺も気になってる」


「戻りたいんじゃないですか?」


「そうかもしれない」


「だったら――」


俺は言った。


「誘えばいいじゃないですか」


佐伯先輩は俺を見る。


「簡単に言うなよ」


「え?」


「俺も何度も誘った」


「……」


「『戻ってこい』ってな」


佐伯先輩の声が少し低くなる。


「でも、全部断られた」


俺は黙った。


そのとき。


遠くから足音が聞こえた。


俺たちは振り返る。


黒田蓮だった。


昨日と同じ制服姿。


手には野球ボール。


彼は俺たちを見ると、少し驚いた。


「……朝から野球か」


佐伯先輩が声をかける。


「おう」


「蓮」


「何?」


「またボール持ってるな」


黒田は手元を見る。


「……なんとなく」


「野球部、来ないか?」


沈黙。


黒田は笑わなかった。


「行かない」


「なんで?」


「もう辞めたから」


「まだ退部届は出してないだろ」


「そういう問題じゃない」


「じゃあ、どういう問題だよ」


黒田は答えなかった。


俺は二人を見ていた。


何か深い事情がある。


それだけは分かった。


黒田は俺を見る。


「お前、新入部員?」


「はい」


「名前は?」


「神谷悠真です」


「左利きか」


「はい」


黒田は俺の左手を見る。


「外野?」


「そうです」


「……頑張れよ」


「ありがとうございます」


黒田はそのまま歩いていった。


佐伯先輩は追いかけなかった。


ただ、拳を握っていた。


「……悔しいんですか?」


俺が聞く。


「そりゃ悔しいさ」


佐伯先輩は言った。


「俺たちは、本気で強くなりたいんだ」


「はい」


「でも、あいつがいればもっと強くなれる」


「……」


「それだけじゃない」


佐伯先輩は黒田の背中を見ながら言った。


「あいつ自身に、もう一度野球をしてほしい」


俺は頷いた。


「俺もそう思います」


「お前が?」


「はい」


佐伯先輩が俺を見る。


「昨日会っただけだろ」


「それでも」


俺は言った。


「野球をやめたい人が、朝から野球ボールを持って学校に来ますか?」


佐伯先輩は黙った。


そして――。


笑った。


「お前、面白いな」


「そうですか?」


「ああ」


佐伯先輩はボールを投げてきた。


俺は受け取った。


「じゃあ、やるか」


「何を?」


「朝練」


「はい!」



その日の放課後。


部員が全員集まった。


今年の軟式野球部は、一年生が俺を含めて三人入部した。


二年生が五人。


三年生が四人。


合計十二人。


ギリギリの人数だ。


公式戦を戦うには、決して余裕のある人数ではない。


そしてマネージャーが――。


「五人?」


俺は思わず数えた。


「多くないですか?」


佐伯先輩が笑った。


「うちの名物だ」


「選手十二人でマネージャー五人……」


「文句ある?」


一人の女子が睨んできた。


「ありません!」


俺は即答した。


「よろしい」


彼女は満足そうに笑った。


「私はマネージャーの高橋美咲。二年生」


「よろしくお願いします」


「神谷くん」


「はい」


「あなた、昨日ファインプレーしたでしょ」


「見てたんですか?」


「もちろん」


「ありがとうございます」


「でも――」


美咲先輩は真剣な顔になった。


「まだまだね」


「……」


「全国を目指すなら、あの程度じゃ足りない」


「はい」


俺は素直に答えた。


すると美咲先輩は笑った。


「その返事、嫌いじゃない」


俺たちはグラウンドへ向かった。


しかし――。


「今日は陸上部です」


「……またか」


佐伯先輩が頭を抱える。


先生が腕を組む。


「仕方ない。今日は体育館裏」


「先生!」


「文句言うな」


「全国制覇したいんですけど!」


「だったらどこでも練習しろ!」


全員が黙った。


そして――。


「……行くか」


佐伯先輩が笑った。


俺たちは体育館裏へ移動した。


狭い。


とにかく狭い。


キャッチボールも満足にできない。


バットを振るのも危険だ。


そこで俺たちは基礎練習をすることになった。


走る。


筋トレ。


素振り。


フォーム確認。


地味な練習ばかりだった。


しかし、先生は言った。


「全国大会に行くチームは、地味な練習を誰よりも大切にする」


俺は素振りを続けた。


一回。


二回。


三回。


十回。


五十回。


百回。


腕が疲れてくる。


それでも振る。


「神谷」


先生が声をかけた。


「はい!」


「左打ちのフォーム、悪くない」


「ありがとうございます!」


「ただ、上半身に力が入りすぎてる」


「はい」


「もっと下半身を使え」


「分かりました」


俺はフォームを直した。


もう一度。


素振り。


今度は少し軽く振れた。


「そうだ」


先生が頷く。


「野球は力だけじゃない」


俺はバットを握り直した。



練習が終わった。


俺たちは学校を出た。


そのとき。


校門の近くに黒田がいた。


俺たちを見ると、少し驚いた顔をする。


「まだ練習してたのか?」


佐伯先輩が答えた。


「当たり前だろ」


「グラウンド使えないのに?」


「体育館裏でやってた」


黒田が少し笑った。


「相変わらずだな」


「何が?」


「この部」


「どういう意味だよ」


「……別に」


黒田は歩き出した。


俺はその背中を見ていた。


そして――。


気づいた。


黒田の右手には、今日も野球ボールがあった。


俺は走った。


「黒田先輩!」


黒田が振り返る。


「何?」


「一緒にキャッチボールしませんか?」


黒田の顔が固まった。


佐伯先輩も驚いている。


「神谷、お前……」


俺は黒田を見る。


「俺、左利きなんで」


「……」


「先輩も右利きですよね?」


黒田はボールを見た。


「……キャッチボールだけなら」


俺は笑った。


「ありがとうございます!」


二人で学校の端にある小さなスペースへ移動した。


俺がボールを投げる。


「お願いします!」


黒田が受ける。


パシッ。


そして投げ返してくる。


ビュンッ。


速い。


俺は驚いた。


「速っ……!」


「これくらい普通」


「いや、普通じゃないです」


俺は笑った。


もう一度投げる。


黒田が受ける。


また投げ返す。


数十球。


会話はほとんどなかった。


ただ、ボールだけが二人の間を行き来する。


そして――。


黒田が突然言った。


「お前、本当に全国目指してるのか?」


「はい」


「本気で?」


「本気です」


「どうして?」


俺は少し考えた。


「……悔しかったからです」


「何が?」


「名門高校に行けないって言われたこと」


黒田は黙って聞いている。


「軟式上がりだから無理だって」


「……」


「最初は、自分には無理なのかなって思いました」


俺はボールを握った。


「でも、野球をやめることはできなかった」


「……」


「だから、この高校に来ました」


黒田は俺を見る。


「ここで全国を目指します」


「無理だと思わないのか?」


「思います」


「じゃあ、なんで?」


俺は笑った。


「無理かどうかは、やってみないと分からないじゃないですか」


黒田は何も言わなかった。


俺は続けた。


「先輩も、本当は野球したいんじゃないですか?」


その瞬間。


黒田の表情が変わった。


「……帰る」


「先輩!」


黒田は振り返らなかった。


「余計なこと言うな」


そのまま去っていった。


俺はその場に立ち尽くした。


「……失敗したかな」


後ろから佐伯先輩が歩いてきた。


「いや」


「え?」


「いいんじゃないか」


佐伯先輩は笑っていた。


「お前が言ったこと、俺もずっと言いたかった」


「そうなんですか?」


「ああ」


そして佐伯先輩は黒田が去っていった方向を見る。


「ただ、あいつにはあいつの事情がある」


「事情……」


「それを乗り越えるのは、あいつ自身だ」


俺は黙った。



翌日。


朝。


俺が学校に着くと、野球部の倉庫の前に誰かがいた。


黒田だった。


俺は驚いた。


「先輩?」


黒田は俺を見る。


そして――。


一つの野球ボールを投げてきた。


俺は受け取った。


「今日、放課後」


「はい」


「キャッチボールする」


「……え?」


「昨日の続き」


俺は笑った。


「はい!」


黒田は少しだけ笑った。


「ただし」


「はい?」


「俺は野球部に戻るとは言ってない」


「分かってます」


「それでもいいのか?」


「もちろんです」


「変な奴だな」


「よく言われます」


黒田は笑った。


そして、その日の放課後。


俺たちはまたキャッチボールをした。


昨日より速い。


昨日より強い。


ボールが何度も俺のグラブに突き刺さる。


パシッ。


パシッ。


パシッ。


「先輩、速すぎます!」


「これくらい捕れ」


「無茶ですよ!」


「全国行くんだろ?」


その言葉に、俺は黙った。


そして笑った。


「はい!」


「なら、これくらい捕れ」


俺は必死に腕を伸ばした。


一球。


二球。


三球。


何度も捕った。


何度も落とした。


それでも続けた。


その光景を、遠くから佐伯先輩とマネージャーたちが見ていた。


美咲先輩が小さく言う。


「戻ってくるかな」


佐伯先輩は答えた。


「分からない」


「でも、昨日より楽しそう」


「ああ」


「だったら、きっと――」


美咲先輩は笑った。


「時間の問題じゃない?」


佐伯先輩も笑った。


「そうだといいな」



数日後。


放課後。


いつものように練習をしていた俺たちの前に、黒田が現れた。


制服ではない。


野球部の練習着だった。


全員が固まった。


「……え?」


誰かが声を漏らす。


黒田は何も言わず、先生の前に立った。


そして頭を下げた。


「先生」


「……黒田」


「もう一度、野球部でやらせてください」


グラウンドにいた全員が息を呑んだ。


先生はしばらく黙っていた。


そして――。


「遅い」


黒田が顔を上げる。


「……すみません」


「一年待たせたな」


「はい」


「全国を目指すぞ」


黒田の目が変わった。


「はい!」


佐伯先輩が走ってくる。


「蓮!」


黒田は笑った。


「久しぶり」


佐伯先輩は黒田の肩を叩いた。


「馬鹿野郎!」


「痛い」


「心配させやがって!」


「悪かった」


「絶対逃げるなよ」


「逃げない」


俺はその二人を見ていた。


そして――。


黒田が俺を見る。


「神谷」


「はい!」


「よろしく」


俺は笑った。


「こちらこそ!」


こうして、俺たちのチームに新しい仲間が加わった。


いや。


正確には――。


戻ってきた。


中学時代、県大会で四番を打った男。


黒田蓮。


強打者。


右打ち。


そして、誰よりも野球を知っている選手。


しかし。


彼が戻ったことで、チームの中に新しい問題も生まれることになる。


「四番は誰にする?」


その日のミーティング。


先生がそう言った。


全員が黒田を見る。


黒田は黙っている。


佐伯先輩が口を開く。


「蓮でいいんじゃないか?」


黒田は首を振った。


「まだ無理です」


「なんで?」


「一年間、まともに練習してない」


「でも――」


「俺は一からやり直したい」


先生が頷いた。


「その考えでいい」


そして、黒板に打順を書き始めた。


一番。


二番。


三番。


四番。


まだ白紙。


「このチームには、まだ固定された打順はない」


先生は全員を見る。


「全員が競争だ」


俺はバットを握った。


黒田もバットを握る。


俺たちは同じチームになった。


しかし――。


同じチームだからこそ、競争が始まる。


レギュラー争い。


打順争い。


そして――。


全国大会への切符を懸けた戦い。


翌週。


ついに俺たちの最初の練習試合が決まった。


相手は県内の強豪軟式野球部。


部員数は三十人以上。


専用グラウンドあり。


設備も充実。


昨年、県大会ベスト四。


俺たちはまだ、練習場所すら安定しない。


相手は強豪。


俺たちは弱小。


先生が言った。


「勝てると思うか?」


誰も答えなかった。


先生は笑った。


「だったら、勝てるように練習しろ」


俺は空を見上げた。


全国制覇への最初の一歩。


まずは――。


この練習試合に勝つ。


それが俺たちの新しい目標になった。


そして試合当日。


相手チームがグラウンドに入ってくる。


そのユニフォームを見た瞬間。


俺たちは言葉を失った。


強そうだった。


本当に強そうだった。


相手の選手たちは体格がいい。


守備練習も速い。


送球も正確。


打撃練習では、鋭い打球が次々と飛んでいく。


俺は思った。


「……これが強豪か」


隣で黒田が呟く。


「ビビるな」


「先輩は平気なんですか?」


「俺も怖い」


「え?」


黒田は笑った。


「だから面白いんだろ」


その言葉を聞いて、俺も笑った。


そして試合前。


先生が全員を集めた。


「今日、勝てるかどうかは分からない」


全員が聞いている。


「でも、一つだけ約束しろ」


先生は言った。


「最後の一球まで、絶対に諦めるな」


俺たちは頷いた。


そして――。


審判が声を上げる。


「プレイボール!」


俺たちの最初の戦いが始まった。


軟式野球部。


無名校。


少人数。


限られた環境。


相手は強豪。


それでも。


俺はバットを握った。


左打席に入る。


相手投手がこちらを見る。


初球。


ストレート。


俺は――。


思い切り振った。


カキィィィン!


打球が青空へ飛んだ。


「走れ!」


俺は一塁へ向かって走る。


そして――。


全国制覇を目指す俺たちの物語は、ここから本当の意味で始まった。

次回も野球やろうぜ

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