――全国への第一歩
前書き
いよいよ夏のトーナメントが始まります。
ここまで練習してきた悠真たちにとって、初めて全国制覇への道を本格的に進む大会。
トーナメントは一度負ければ終わり。
相手も全国を目指している以上、簡単な試合は一つもありません。
そして悠真には、まだ左肩の問題も残っています。
投げたい。
チームのために投げたい。
でも、無理をすれば大切な夏そのものを失うかもしれない。
美咲との関係も深まり、チームとしても少しずつまとまってきた今、悠真たちの本当の勝負が始まります。
果たして一回戦を突破できるのか。
そして、この先で待っている強豪たちを倒し、全国の舞台へたどり着けるのか。
――夏のトーナメント、開幕です。
第十四話 夏のトーナメント開幕――全国への第一歩
夏。
いよいよ、トーナメントが始まる。
俺たち軟式野球部にとって、待ちに待った大会だった。
全国制覇。
入部したときから掲げてきた目標。
でも、その道は簡単じゃない。
一回戦。
二回戦。
三回戦。
準々決勝。
準決勝。
そして決勝。
一つでも負ければ、そこで終わる。
夏の大会は、そんな厳しい世界だった。
⸻
「集合!」
監督の声がグラウンドに響いた。
選手たちが一斉に集まる。
俺も列に並んだ。
その隣には黒田先輩。
少し離れたところには美咲先輩たちマネージャーがいる。
三年生のマネージャーが、美咲先輩に声をかけた。
「美咲、準備は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「飲み物は?」
「全部確認しました」
「タオルは?」
「そちらも準備できています」
「さすがだね」
「ありがとうございます」
一年生のマネージャーも、その様子を見ていた。
「美咲先輩、すごいですね」
「何が?」
「大会になると、いつも以上にしっかりしてます」
美咲先輩は笑った。
「今日は大事な日だからね」
「はい!」
その声を聞きながら、俺はグローブを握った。
⸻
監督が話し始める。
「今日から夏のトーナメントが始まる」
全員が静かになる。
「この大会で、一つでも負ければ終わりだ」
「はい!」
「だが、怖がる必要はない」
監督は俺たちを見回した。
「お前たちは、ここまで練習してきた」
「はい!」
「相手が強豪だろうが関係ない」
「はい!」
「軟式だから弱いと思われても関係ない」
その言葉を聞いて、俺は拳を握った。
監督が続ける。
「お前たちは何を目指している?」
一瞬の沈黙。
そして――。
全員が叫んだ。
「全国制覇!」
グラウンドに声が響き渡った。
⸻
試合会場へ向かうバス。
俺は窓の外を見ていた。
街の景色が流れていく。
隣には黒田先輩が座っている。
「緊張してるか?」
「少し」
「珍しいな」
「先輩は?」
「俺はいつも通り」
「嘘ですよね?」
「……ちょっと緊張してる」
「やっぱり」
二人で笑った。
その前の席では、美咲先輩が一年生マネージャーと話していた。
「忘れ物ない?」
「大丈夫です」
「飲み物も?」
「はい」
「救急セットは?」
「持ってます」
「よし」
美咲先輩は、最後に俺を見る。
目が合った。
「悠真」
「はい」
「頑張ってね」
「もちろん」
「無理はしないで」
俺は少しだけ黙った。
左肩のことだ。
「分かってます」
美咲先輩は笑った。
「全国まで行くんだからね」
「はい」
その言葉だけで、力が湧いてきた。
⸻
試合会場。
そこには、たくさんのチームが集まっていた。
ユニフォーム姿の選手。
応援に来た家族。
大会関係者。
そして――。
強そうなチームばかりだった。
「すげえな……」
黒田先輩が呟く。
「どこも本気だ」
俺は周囲を見る。
俺たちと同じように、全国を目指している。
誰も負けるつもりなんてない。
その中で勝ち続けなければならない。
⸻
トーナメント表が掲示された。
俺たちは一回戦の相手を確認する。
「……ここか」
黒田先輩が見る。
俺も確認する。
「強いんですか?」
「去年、ベスト8だ」
「いきなり?」
「夏の大会だからな」
俺は苦笑した。
「簡単にはいかないですね」
「当たり前だ」
そこへ美咲先輩が来た。
「どうだった?」
「一回戦、去年ベスト8のチームです」
「そっか」
美咲先輩は少し驚いた。
でもすぐに笑った。
「じゃあ、勝てばいいね」
「簡単に言いますね」
「だって悠真たちは全国制覇するんでしょ?」
「……はい」
美咲先輩の言葉には、迷いがなかった。
だから俺も迷わない。
⸻
試合前。
選手たちはベンチに入った。
俺はグローブを握る。
左肩の状態を確認する。
まだ完全じゃない。
今日は無理をしない。
それでも――。
いつでも投げられる準備だけはしておく。
「神谷」
監督が声をかける。
「はい」
「今日は焦るな」
「分かりました」
「お前の出番は必ずある」
「はい」
監督はそれだけ言って離れた。
俺は深呼吸した。
スタンドを見る。
美咲先輩がいる。
目が合う。
美咲先輩は小さく頷いた。
俺も頷き返す。
⸻
「両チーム、整列!」
審判の声が響く。
選手たちがグラウンドへ向かう。
一歩。
また一歩。
俺は土を踏みしめた。
夏の大会。
ここから始まる。
俺たちの全国への道。
そして――。
この先には、全国制覇を経験した螺王工業もいる。
八島もいる。
いつか必ず戦う。
そのためにも――。
まずは目の前の相手だ。
「お願いします!」
両チームが礼をする。
そして――。
プレーボール。
俺たちの夏が、始まった。
後書き
ここから物語は、いよいよ本格的な大会編に入ります。
今までは練習や合宿、恋愛、チーム内での出来事が中心でしたが、これからは一試合一試合が重要になってきます。
悠真たちが目指すのは、ただの一勝ではありません。
全国制覇。
そのためには、目の前の相手を一つずつ倒していくしかありません。
そして気になるのが、悠真の左肩。
現在は無理な登板を避けていますが、トーナメントではチームの状況によって、悠真がマウンドに立たなければならない場面も出てくるかもしれません。
果たして悠真は投げるのか。
それとも、投げずにチームを支えるのか。
そして美咲も、マネージャーとして悠真を支えていきます。
過去に荒れていた美咲が、今ではチームのために動き、好きな人のために応援している。
「今が一番楽しい」
そう言えるようになった美咲の夏も、ここから始まります。
さらに、この先には螺王工業も待っています。
全国制覇を経験した強豪。
そして、そこにいる八島。
悠真と八島が本当の意味で野球でぶつかる日は、まだ少し先です。
まずは一回戦。
全国への第一歩を踏み出します。




