あいつ、ワシを誰やと思っとんねん
第十話 登場人物
神谷 悠真
1年生/左投げ左打ち/外野手
主人公
軟式野球部で全国制覇を目指している
中学時代は特に目立った選手ではなかったが、高校では努力を重ねて少しずつ実力を伸ばしている
美咲と交際中
美咲を大切にしながらも、野球への気持ちは一切変わっていない
「女に飲まれている」と言われたことに反発し、自分の野球への覚悟を八島に示す
現在は左肩の故障で投球を控えている
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高橋 美咲
2年生/マネージャー
悠真の彼女
選手たちの体調管理や道具の管理などを担当する、チームに欠かせない存在
悠真のことを誰よりも近くで支えている
八島とは中学時代からの知り合い
八島との間には、悠真がまだ知らない過去がある
悠真と付き合っていることを八島に知られている
悠真の全国制覇という夢を心から応援している
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黒田 蓮
2年生/右投げ右打ち/内野手
悠真の先輩であり、チームの中心打者
明るく豪快な性格
悠真と美咲が付き合っていることを知っており、二人を面白がりながらも応援している
八島とのやり取りでは、悠真を守るように間に入ることもある
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佐伯 恒一
3年生/主将/内野手
軟式野球部のキャプテン
最後の夏に全国大会へ行くことを目標にしている
チーム全体をまとめる存在
悠真の成長にも期待している
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神崎 隼人
2年生/右投げ右打ち/投手
県大会優勝経験のある強豪校のエース
合同合宿で悠真と知り合い、ライバルとして意識するようになった
冷静な性格だが、野球に対しては熱い
悠真が肩を痛めていることも知っている
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八島
螺王工業/硬式野球部
今回、新たに登場した重要人物
全国から選手が集まる名門・螺王工業の選手
美咲とは中学時代からの知り合い
関西弁で話す豪快な性格
「お前は女に飲まれてる」と言われたのは、実は悠真ではなく八島自身のことだった
悠真と美咲の交際を知り、悠真が本当に野球に対して覚悟を持っているのかを試す
悠真に対して、
「美咲を泣かせたらワシが許さん」
と宣言する一方、悠真の野球への覚悟を認め始めている
そして――。
悠真とは将来的にグラウンドで戦うライバルとなる
⸻
田中先生
軟式野球部顧問
悠真たちを指導する監督
厳しいが、選手の将来を第一に考えている
悠真が左肩を痛めた際も、無理に登板させず休ませた
「今日の試合」よりも「これからの野球」を大切にする指導者
⸻
八島と美咲の過去
今回、二人が中学時代からの知り合いだったことが判明
しかし、なぜ八島が美咲を気にかけるのかはまだ不明
悠真が知らない過去が二人の間に存在する
そして、この過去が今後の恋と野球に大きく関わってくることになる――。
第十話 螺王工業の八島――「あいつ、ワシを誰やと思っとんねん」
合同合宿最終日。
俺たちが帰り支度をしていると、グラウンドの隅で妙な話が聞こえてきた。
「なあ、神谷」
黒田が俺の肩を叩く。
「何ですか?」
「昨日の話、訂正があるらしいぞ」
「昨日の?」
「お前が『女に飲まれてる』って言われたやつ」
「……ああ」
俺は少し嫌な顔をした。
野球より女を優先している。
そんなふうに言われたことが、どうしても納得できなかった。
すると黒田が言った。
「違うらしい」
「え?」
「お前のことじゃない」
「じゃあ誰ですか?」
黒田はグラウンドの向こうを指差した。
「あの男だ」
「……誰?」
「螺王工業の八島」
俺は振り返った。
そこには、螺王工業のユニフォームを着た男が立っていた。
体格がいい。
鋭い目。
そして、どこか人を寄せ付けない雰囲気がある。
「螺王工業……」
県内屈指の名門校。
全国から選手が集まる強豪校。
俺が入ることを諦めた、まさに別世界の高校だ。
「神谷くん」
美咲先輩が近づいてきた。
「はい?」
「八島くんのこと?」
「知ってるんですか?」
美咲先輩の表情が変わる。
「……うん」
「何かあったんですか?」
「中学のとき、同じ学校だったの」
「え?」
俺は驚いた。
「じゃあ、知り合い?」
「うん」
「どういう関係?」
美咲先輩は少し黙った。
「昔から、ちょっと変わった人だった」
「変わった?」
「うん」
その瞬間――。
「美咲!」
低い声が響いた。
八島だった。
「……八島くん」
「久しぶりやな」
「久しぶり」
八島は俺を見る。
そして――。
「お前が神谷か」
「はい」
「ふーん」
八島は俺をじっと見る。
「なるほどな」
「何がですか?」
「美咲が選んだ男か」
俺は固まった。
「……え?」
美咲先輩の顔が真っ赤になる。
「八島くん!」
黒田が吹き出した。
「おいおい、いきなり来たな」
八島は俺を見る。
「お前、美咲と付き合っとるんやろ?」
「……はい」
俺は答えた。
「付き合ってます」
美咲先輩も小さく頷いた。
「うん」
八島は黙った。
そして――。
「そうか」
それだけ言った。
しかし、その表情は明らかに複雑だった。
⸻
「それで?」
八島が聞く。
「何がですか?」
「お前、野球はどうなんや」
「……」
「美咲と付き合うようになってから、野球がおろそかになっとらんか?」
「なってません」
俺は即答した。
「本当に?」
「はい」
「でも昨日、投げられへんかったやろ」
「……」
肩のことを言われると、何も言えない。
「怪我しただけです」
「怪我?」
「左肩に違和感があって」
「それでも試合に出たかったんやろ?」
「はい」
「なら――」
八島が俺を見る。
「女に飲まれとる暇なんかないやろ」
「……」
俺は拳を握った。
「違います」
「何が?」
「俺は美咲先輩と付き合っています」
「知っとる」
「でも――」
俺は美咲先輩を見る。
「美咲先輩がいるから野球をやめるなんて、絶対にありません」
八島は黙った。
「むしろ逆です」
「逆?」
「全国大会に行きたい」
俺は続ける。
「美咲先輩と約束したんです」
「全国?」
「はい」
「一緒に行くって?」
「そうです」
八島が少し笑った。
「……なるほどな」
「何ですか?」
「お前らしいわ」
美咲先輩が八島を見る。
「どういう意味?」
「昔からお前はそうや」
「私が?」
「誰かを応援すると、とことん応援する」
美咲先輩は何も言わない。
八島は続ける。
「だから心配なんや」
「……」
「こいつが野球に集中できるんかってな」
俺は少しムッとした。
「俺は――」
その瞬間。
「待て」
八島が手を上げる。
「怒るな」
「……」
「別にお前を馬鹿にしとるわけやない」
「じゃあ何なんですか?」
八島は俺を見る。
「試しとるんや」
⸻
八島は俺のグローブを見る。
「軟式やな」
「はい」
「軟式で全国を狙っとる」
「はい」
「面白いな」
八島が笑った。
「俺は硬式で全国を狙っとる」
「……」
「お互い、違う道や」
「そうですね」
「でも野球や」
八島は拳を握った。
「なら、いつかグラウンドで決着つけようや」
俺も拳を握る。
「望むところです」
「ただし――」
八島が俺を見る。
「俺は手加減せえへん」
「俺もです」
「ええ返事や」
⸻
そのとき。
八島が突然、美咲先輩を見る。
「ところで美咲」
「何?」
「こいつと付き合って、ほんまに幸せなんか?」
「……!」
俺は驚いた。
美咲先輩は少しだけ考える。
そして――。
「うん」
はっきり答えた。
「幸せだよ」
俺の心臓が跳ねた。
八島は黙った。
「そうか」
そして――。
「なら、ワシから言うことはない」
「八島くん……」
「ただし」
八島は俺を見る。
「美咲を泣かせたら、ワシが許さん」
俺は真剣に答えた。
「泣かせません」
「言い切ったな」
「はい」
「ならええ」
八島は背を向けた。
その背中を見ながら、俺は思った。
一体、美咲先輩と八島の間に何があったんだろう。
ただの中学時代の同級生とは思えない。
⸻
八島が数歩歩いたところで、突然振り返った。
「そういや神谷」
「はい?」
「一つ聞きたい」
「何ですか?」
「お前――」
八島は真顔で言った。
「関西弁、分かるか?」
「……」
俺は固まった。
「分かりますけど」
「そうか」
「……何で急に?」
八島は笑った。
「いや、ワシの関西弁が気になっとる顔しとったからな」
「やっぱり気づいてたんですか!?」
黒田が爆笑する。
美咲先輩も笑っている。
「神谷くん、ずっと気になってたもんね」
「だって、名門校の選手なのに……」
八島が胸を張る。
「ワシは関西人や!」
「そこは関係ないでしょ!」
「何やと!?」
「なぜ、関西弁!?」
「関西人やからや!」
「答えになってるような、なってないような……」
全員が笑った。
だが――。
八島は最後に一言だけ残した。
「神谷」
「はい」
「次に会うときは、敵や」
「分かってます」
「そのときは――」
八島の目が鋭くなる。
「舐め腐ったらあかんで」
俺も笑った。
「そっちこそ」
八島は満足そうに笑う。
「言うようになったやんけ」
そして去っていった。
⸻
俺は美咲先輩を見る。
「先輩」
「何?」
「八島って……何なんですか?」
美咲先輩は苦笑する。
「昔からあんな感じ」
「それだけ?」
「……」
少し沈黙。
「でも、悪い人じゃないよ」
「そうですか」
「ただ――」
美咲先輩は八島の背中を見る。
「昔、ちょっとだけ色々あったの」
「……」
俺はそれ以上聞かなかった。
今はまだ。
いつか美咲先輩が話してくれるときまで待とうと思った。
俺たちは恋人。
そして――。
同じ全国大会を目指す仲間でもある。
恋をしているから野球ができないなんてことはない。
むしろ――。
大切な人がいるからこそ、もっと強くなりたい。
俺はそう思った。
「美咲先輩」
「うん?」
「全国、絶対行きましょう」
美咲先輩は笑った。
「うん」
俺たちは手を繋いだ。
合同合宿最後の日。
俺たちの前に、新しいライバルが現れた。
螺王工業・八島。
そして――。
俺たちの夏は、ここからさらに熱くなっていく。
第十話 後書き
――八島、何者やねん?
今回は、新キャラクターとして螺王工業の八島が登場しました。
名門・螺王工業。
全国から選手が集まり、硬式野球部には特待生もいる。
悠真が入ることを諦めたような、まさに別世界の高校です。
そんな学校からやって来た八島。
第一印象は――。
かなり強烈です。
「お前は女に飲まれてる」
そんな言葉を悠真に投げかけるのかと思いきや、実はその言葉の意味には別の事情がありました。
そして何より――。
「ワシを誰やと思っとんねん」
関西弁です。
なぜ関西弁なのか?
それは――。
関西人だからです。
……という、ものすごく単純な理由です。
ただ、八島は単なる面白キャラではありません。
実力は名門・螺王工業の選手。
悠真とは今後、野球を通じて何度もぶつかることになります。
そして今回、もう一つ大きなことが判明しました。
⸻
悠真と美咲は恋人
ここは今後も重要な設定になります。
二人はもう付き合っています。
美咲は悠真の野球を支え、悠真も美咲を大切にしている。
だからこそ八島は、
「女に飲まれて野球がおろそかになっていないか」
と悠真を試しました。
しかし悠真は、自分の気持ちをはっきり伝えました。
美咲がいるから野球をやめるのではない。
美咲がいるからこそ、全国へ行きたい。
そして美咲もまた、
「悠真と一緒に全国へ行きたい」
と思っています。
恋と野球。
どちらかを捨てるのではなく、両方を大切にする。
それが二人の関係です。
⸻
そして、今回一番気になるのが――。
八島と美咲の過去
二人は中学時代からの知り合い。
しかし、美咲は、
「昔、ちょっとだけ色々あった」
としか話していません。
八島も美咲のことを気にしている。
一体、中学時代に何があったのか。
八島は美咲の元彼なのか。
それとも、ただの幼なじみなのか。
なぜ八島は悠真に対してあそこまで厳しいのか。
そして――。
八島が本当に守ろうとしているものは何なのか。
まだすべては明かされません。
この二人の過去は、今後の物語で少しずつ明らかになっていきます。
⸻
そして悠真には、もう一つの問題があります。
左肩。
投げられない。
登板できない。
全国制覇を目指しているのに、マウンドに立てない。
焦れば焦るほど、状況は悪くなる。
それでも悠真は野球を諦めません。
軟式だから。
無名だから。
名門校に入れなかったから。
そんなことは関係ない。
軟式野球だっていいじゃないか。
その気持ちだけは変わりません。
次は、八島との対決を意識しながら、悠真が肩の状態と向き合うことになります。
そして――。
夏が終わり、いよいよ新しい大会へ。
悠真たちの「全国制覇」という夢が、少しずつ現実のものになっていきます。




