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力を合わせて

 この場にいたモンスターは一体残らず倒され、戦いが終わったような雰囲気があたりを支配しかけたが、まだすべてが解決したわけじゃない。

 ゲートをどうにかしないと、また新たなモンスターが湧いて来てしまう。一旦モンスターの出現は途切れ、今は静寂に包まれているが時間の問題だ。


 でもこうしてゲートを破壊する力を持つ者たちの組織――聖杭会せいくいかいに所属する女性が来てくれたのだから、一安心。

 モンスターは排除されたのだし、あとはこの女性にゲートを壊してもらえばいい。


 僕の視線を感じたのか、金髪の女性は抱えていた大量のスクロールを地面に置いてからゲートのそばに歩み寄り……しばらくして、申し訳なさそうな表情を貼り付けてこちらを振り返った。青い瞳が困惑したように僕たちへ向けられる。


「残念ながら、わたくし一人の力では無理のようです。ゲートのサイズが大きすぎて……」

「……!?」


 僕は慌ててゲートに近づき、大地に描かれている円形の紋様を見た。隣には剣士と槍使いの女性も並んで同じように見つめている。

 なるほど、確かに今まで僕が見たことあるゲートのサイズより一回り大きい気がする。


「大きいのに加えてこの紋様……おそらくレベル2のゲートですね。わたくしも初めて見ました」


 ゲートのサイズが大きくなると、破壊のために必要な人員の数も増えると聞いたことがある。


「これまではレベル1のゲートしか出現しなかったので、わたくし一人で対処できたのですが、今回は……」


 ゲートのそばから離れ、僕と女性三人は困ったように顔を見合わせた。

 あまりのんびりしていると、またモンスターが現れるかもしれない。とりあえず、今すぐできることをやろう。


「戦力としてゴーレムを出しますね」


 三人の女性の返事を待たず、僕はバッグから新しいスクロールを取り出した。

 今言った通りの、ゴーレムを作り出す魔法が込められたスクロールだ。


顕現けんげんせよ。クリエイトゴーレム」


 さっそく解き放たれた魔法が、大きな土人形であるゴーレムをこの世界に生み出す。


「え? これがゴーレムなの?」


 リンネと呼ばれた槍使いの女の子が、さきほど彼女と肩を並べて戦っていたゴーレムとあまりに違う姿に目を点にした。

 あっさり倒されていたゴーレムに比べると、身体は一回り以上大きい。腕も四本あってそれぞれが太く、見る者に力強さを感じさせる。


「このゴーレムは僕の手による改良型です。市販のスクロールから出てくるやつより強いんで、しばらくは戦線を支えてくれるはずですよ」

「しばらくって、一時間だよね。ゴーレムだし」

「いえ、半日は持ちますね」

「は、半日!?」


 驚く女の子に、僕はなんのことはないとばかりに頷く。


「頑丈なのでそうそう壊れないと思いますが……レベル2のゲートとなると、このゴーレムをあっさり倒すような強敵がそのうち出てくるかもしれません」

「そうだね。さっきあたしが戦ってたのは斥候っぽい下っ端連中だったし……」

「このままではジリ貧ですね……いざとなったら村のみんなには村を捨てて避難してもらわないと……」

「街に使いを出して、ゲートを破壊出来る人を臨時でよこしてもらう?」


 深刻に悩む彼女たちの力になれないかと、僕は魔法使いとしての視点で考えを巡らせた。

 やがて、一つのアイディアに辿り着く。ただそれは、あまりに荒唐無稽こうとうむけいなものだった。

 でも、ひょっとしたらこの事態を打開できるかもしれない。


「今思いついた案があるんですが、聞いてくれますか? とても馬鹿馬鹿しい考えかもしれませんが……」

「どんな案? 馬鹿馬鹿しいなんて言わずに、私たちに教えて?」


 こちらに顔を向けた剣士の女性をまっすぐに見上げ、僕はその案を語る。


「クリエイトウォールっていう魔法があります。壁を作る魔法です。それでゲートをふさぎます」

「クリエイトウォール……あれってスクロールで使ったことあるけど壁の厚さもいまいちだし、気づいたら消えてなくなってた記憶があるんだけど……」

「それは市販のやつですね。おっしゃる通り市販のやつだと短時間で消えてしまうし強度に不安もありますが、スクロールを自作することで持続時間を長くし、強度を上げてサイズも縦横高さを大幅に増やしたものを作ろうと思うんです」

「な、なるほど……要するに、巨大な立方体の壁を作ってゲートに載せようということね? ……聞いてる感じ、うまくいきそうな気がするわ」


 これまでに市販のものとケタ違いの魔法を発現させてきたから、すぐに納得してくれたらしい。補足までしてくれる。


「たしかに、なんとかなる気がする!」

「ええ。わたくしも初めて聞く方法ですが、少なくともモンスターの出現を止めることは出来るのではないかと……」


 槍使いの女の子と、ローブ姿の女性がそれぞれ賛同してくれた。

 僕自身も半信半疑だったけど、三人の女性から太鼓判を押されるとうまくいく気がしてくる。


「ただ、さすがに手持ちのスクロールにはそこまでカスタマイズしたものがないので、今から制作にとりかかろうかと……」

「あ、ありがとう……どれくらいかかるの?」

「そうですね。時間をかけて要件を満たすための文字を追加し、魔力を出来得るかぎり込めたいので、三時間ほどいただければ……」

「それまで粘れってことね? 了解」


 槍使いの女の子が不敵に笑う。


「それで、村から小さな机を持ってきてもらえないでしょうか? ここでスクロールを作ります。制作用の道具は持ち歩いていますので」

「わかりました。任せてください」


 ローブ姿の女性がうなずいた。


「ふふ、きみすごいわね。さっきまではどうなるかと不安だったのに、今では無事にすべて解決するんじゃないかって、そう思えるの」


 剣士の女性が、僕を見つめつつ笑顔でそう言った。

 ……少し照れくさい。


「そうだ。きみ、名前は?」

「僕はハルカといいます」

「ハルカ……素敵な名前ね。私はアイよ」

「あたしはリンネ」

「わたくしはシャルミナと申します」


 ちょうど自己紹介が終わったころ。

 ゲートをとりまく赤黒い光がふたたび強くなった。またモンスターが異界より現れるのだろう。


「それじゃあ、作戦開始ね!」


 アイさんの言葉と共に。

 シャルミナさんは机を取りに村へと走っていく。

 アイさん、リンネさんも顔を引き締め、それぞれの得物を構えてゲートの前に陣取った。


 僕はゲートから少し離れたところでスクロールの紙を取り出した。

 まだ実作業には取り掛かれないが、スクロールの構造を今の内に考えておくのだ。

 理想の壁を生み出すにはどんな文字が必要か。そしてどんな並びで記すか。

 壁の強度を少しでも増やすため、今あるすべての魔力を込めよう。書き間違いは許されない。


 間もなく戦いが始まった。

 アイさんもリンネさんも歴戦の戦士のような動きだ。新しく出てきたモンスターをまったく寄せ付けない。

 僕が生み出したゴーレムも、彼女たちほどじゃないけどモンスターをひきつけ、時にその拳で撃破し、戦線を支える一員として役に立っている。

 今は、あちらを心配する必要はなさそうだ。


 やがて、小さな机を抱えたシャルミナさんが戻って来た。走りづらい体勢での全力疾走だったからか息を切らしている。


「こ、これで……どうでしょう……」

「助かります! ……必ず三時間で完成させてみせます」


 シャルミナさんから机を受け取り、目の前に置いた。スクロールを書くことに支障のない広さだ。


「お願いします。わたくしは一度戻り、不安を抱えている村の皆に現状を伝えてきます。それが終われば戻ってきますので……わたくしもスクロールを使ってアイさんたちの援護をしますね」


 シャルミナさんと初めて会った時、彼女が抱えて持ってきたのは市販のスクロールの山だった。あれでは大した効果は発揮できないだろう。


 僕はバッグの中からスクロールを二本取り出した。


「もし必要なら使ってください。僕が自分で作ったスクロールで攻撃魔法が込められています。こちらがフロストバイトでこちらがストーンバレットです」

「ありがとうございます」

「ただ、どちらも範囲はすごく広いので注意を。市販のものとは比べ物になりません。ゲートから出てきた敵があふれてどうにもならなくなった時に、アイさんとリンネさんを退避させた後に使ってください」

「わかりました。出来れば使わずに済むと良いのですが……」

「それでは、僕は今からスクロール制作に取り掛かります」

「お願いします……!」

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