表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

完成したスクロール

 少し離れたところから伝わってくる激しい戦いの気配。

 鼓舞する声。剣戟けんげきの響き。時折まざる、市販のスクロール魔法によるものと思われる衝撃音。


 意識の外でおぼろげにそれを感じながらも、僕は地面に膝をつき、小さな机の上で目の前のスクロールにひたすら文字をつづっていた。

 あらかじめスクロールの内容を構想していた甲斐もあって、よどみなく進んでいく。

 今ある魔力をすべて込め、一文字一文字を書き記していった。


 しばらくして。

 ようやく、最後の文字が紙面に刻まれた。


 僕は、疲労に震える手で封蝋ふうろう用のロウをとる。

 スタンプセットを取り出し、その中の小さな燭台にロウを溶かすための火を点けた。

 スプーンに小さなロウをのせ、火であぶる。するとロウが溶けはじめ……。

 巻いたスクロールに溶けたロウをたらし、スタンプで封をする!


 ついに完成した。

 クリエイトウォールの魔法が込められたスクロールが。


 僕は出来たばかりのスクロールを手に立ち上がる。

 集中したことと魔力が空になったことで足がふらつくが、なんとかこらえた。

 これでゲートをふさぐまでは、倒れるわけにはいかない。


「ハルカさん……! 完成したのですか!?」


 僕に気づいたシャルミナさんの声に、ゆっくりとうなずく。


 ゲートのそばでアイさんとリンネさんが武器を振るっている。その隣では僕の作ったゴーレムも。

 そのたびにモンスターは倒れ、瘴気と化し。その瘴気の中を新たなモンスターが踏み込んでくる。ゴブリンやホブゴブリンよりはるかに強い大柄の人食い鬼、オーガやレッサーオーガもその中に混じるようになっていた。

 アイさんもリンネさんももう限界が近いようだ。僕のゴーレムもすでに満身創痍まんしんそういで、動いているのが不思議なくらい。四本あった腕は、すでに二つが失われている。


 なんとか、クリエイトウォールを使うための時間と空間を確保しなければ……。


 シャルミナさんに気持ちが以心伝心いしんでんしんしたのか、彼女は一本のスクロールを両手で構えた。


「広範囲の魔法を放ちます! みなさん離れてください!」


 アイさんとリンネさんが、その言葉を聞いて後ろにステップした。

 ただ、ゴーレムは僕が退避命令を出す前に、ついに力尽きたのか崩れ始めてしまう。

 でもその前に残る力を振り絞るがごとく、二本の腕をふりまわして目の前のモンスターを牽制けんせいし……最後の役目を果たしたゴーレムはそのまま消滅した。

 ゴーレムの尽力じんりょくのおかげで、しばしのチャンスが生まれる。


顕現けんげんしてください! フロストバイト!」


 シャルミナさんがスクロールの力を解放した。とたんにすさまじい冷気がモンスターの群れを包む。

 巻き込まれたモンスターすべてが、悲鳴をあげて倒れていった。

 あとにはゲートだけが残った。今は新手あらての気配もない。


 今だ!


 僕はゲートの前に立つと、右手でスクロールをかざした。


顕現けんげんせよ! クリエイトウォール!」


 言葉と同時に、封蝋ふうろうをいつものように親指でパキッと割る。

 たちまち魔法が発現し、現れた壁――立方体の巨大な物質が、ゲートの上を覆い、押しつぶすような質量をもって鎮座した。

 ゲートから天に向かって立ち昇っていた赤黒い光も、真四角の壁に遮られて見えなくなる。壁の底からわずかに残光が漏れているのみ。


 しばらく固唾かたずを飲んで見守る中、いつまで経っても新たなモンスターは湧き出てこない。

 やがてゲートが異常を感知したのか、わずかな光すら放たなくなった。機能を停止したようである。


「うまく、いった……かな……?」


 ふらふらだった僕はそれだけ言うと、ついによろめいて倒れ……。


「……ありがとう!」


 アイさんが、そんな僕を優しく抱きしめる。

 いつもの僕だったら真っ赤になって離れていたと思うけど、疲れきった今はそれも出来ず、ただ彼女の腕の中で睡魔に身を任せるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ