完成したスクロール
少し離れたところから伝わってくる激しい戦いの気配。
鼓舞する声。剣戟の響き。時折まざる、市販のスクロール魔法によるものと思われる衝撃音。
意識の外でおぼろげにそれを感じながらも、僕は地面に膝をつき、小さな机の上で目の前のスクロールにひたすら文字をつづっていた。
あらかじめスクロールの内容を構想していた甲斐もあって、よどみなく進んでいく。
今ある魔力をすべて込め、一文字一文字を書き記していった。
しばらくして。
ようやく、最後の文字が紙面に刻まれた。
僕は、疲労に震える手で封蝋用のロウをとる。
スタンプセットを取り出し、その中の小さな燭台にロウを溶かすための火を点けた。
スプーンに小さなロウをのせ、火であぶる。するとロウが溶けはじめ……。
巻いたスクロールに溶けたロウをたらし、スタンプで封をする!
ついに完成した。
クリエイトウォールの魔法が込められたスクロールが。
僕は出来たばかりのスクロールを手に立ち上がる。
集中したことと魔力が空になったことで足がふらつくが、なんとかこらえた。
これでゲートをふさぐまでは、倒れるわけにはいかない。
「ハルカさん……! 完成したのですか!?」
僕に気づいたシャルミナさんの声に、ゆっくりとうなずく。
ゲートのそばでアイさんとリンネさんが武器を振るっている。その隣では僕の作ったゴーレムも。
そのたびにモンスターは倒れ、瘴気と化し。その瘴気の中を新たなモンスターが踏み込んでくる。ゴブリンやホブゴブリンよりはるかに強い大柄の人食い鬼、オーガやレッサーオーガもその中に混じるようになっていた。
アイさんもリンネさんももう限界が近いようだ。僕のゴーレムもすでに満身創痍で、動いているのが不思議なくらい。四本あった腕は、すでに二つが失われている。
なんとか、クリエイトウォールを使うための時間と空間を確保しなければ……。
シャルミナさんに気持ちが以心伝心したのか、彼女は一本のスクロールを両手で構えた。
「広範囲の魔法を放ちます! みなさん離れてください!」
アイさんとリンネさんが、その言葉を聞いて後ろにステップした。
ただ、ゴーレムは僕が退避命令を出す前に、ついに力尽きたのか崩れ始めてしまう。
でもその前に残る力を振り絞るがごとく、二本の腕をふりまわして目の前のモンスターを牽制し……最後の役目を果たしたゴーレムはそのまま消滅した。
ゴーレムの尽力のおかげで、しばしのチャンスが生まれる。
「顕現してください! フロストバイト!」
シャルミナさんがスクロールの力を解放した。とたんに凄まじい冷気がモンスターの群れを包む。
巻き込まれたモンスターすべてが、悲鳴をあげて倒れていった。
あとにはゲートだけが残った。今は新手の気配もない。
今だ!
僕はゲートの前に立つと、右手でスクロールをかざした。
「顕現せよ! クリエイトウォール!」
言葉と同時に、封蝋をいつものように親指でパキッと割る。
たちまち魔法が発現し、現れた壁――立方体の巨大な物質が、ゲートの上を覆い、押しつぶすような質量をもって鎮座した。
ゲートから天に向かって立ち昇っていた赤黒い光も、真四角の壁に遮られて見えなくなる。壁の底からわずかに残光が漏れているのみ。
しばらく固唾を飲んで見守る中、いつまで経っても新たなモンスターは湧き出てこない。
やがてゲートが異常を感知したのか、わずかな光すら放たなくなった。機能を停止したようである。
「うまく、いった……かな……?」
ふらふらだった僕はそれだけ言うと、ついによろめいて倒れ……。
「……ありがとう!」
アイさんが、そんな僕を優しく抱きしめる。
いつもの僕だったら真っ赤になって離れていたと思うけど、疲れきった今はそれも出来ず、ただ彼女の腕の中で睡魔に身を任せるのだった。




