村の近くに発生したゲート
しばらく女性と走った僕は、村を囲う柵や、川にかけられた小さな橋を遠くに見かけた。
でも女性はそちらを見ることもなく、村の外側を僕の手を引きながら走る。
やがて視界の先に、沸き上がる赤黒い光の筋が見えた。あれはゲートから放たれる光だ。たしかに村からかなり近い。女性が焦るのも当然だ。
僕たちはさらに駆ける。
そしてようやく見えてきたゲートのそばで、槍を手にモンスターの群れと戦う女の子がいた。
彼女の左右には、土くれで出来たような大きな動く人形が二体立っている。魔法によって作り出されるゴーレムだ。おそらくクリエイトゴーレムのスクロールで生み出したのだろう。
そのゴーレムの一体は、モンスターの攻撃を受けてあっさりと崩れ去る。続けて二体目も倒れて原型を失い、やがて消滅した。
「ああもう、数が多すぎる!」
槍で目の前のモンスターを刺し貫いた女の子が、うんざりしたような悲鳴をあげた。
僕の手を引く剣士の女性から、その背に力強い声が飛ぶ。
「リンネ!」
「アイ!? 良かった、無事だったのね……って」
リンネと呼ばれた槍使いの女の子が笑顔と共に振り向き……やがてその表情が怪訝なものとなる。
一緒にいる僕の存在が、あまりに異質だったのだろう。
でも詳しい説明をしている暇はない。剣士の女性から手を離した僕は、バッグからスクロールを取り出しながら女の子に呼びかける。
「今から魔法を撃ちます! その場を離れてください!」
「え、りょ、了解」
スクロールを目にした彼女は慌てて飛びのいた。
この場にはゲートからあふれ出た、うごめくモンスターが多数いる。
スクロールをかざし、封蝋を壊しながら叫んだ。
「顕現せよ! ライトニングチェイン!」
たちまち放たれた雷光の帯が、群れをなすモンスターの一体を撃った。直後、連鎖するようにその雷光は次々と他のモンスターに襲い掛かっていく。
「……え?」
槍使いの女の子の、呆然とするような声が聞こえた。
ほとばしる雷光はちょうどゲートから生まれたばかりの敵をも撃つ。
雷光の道筋にいたモンスターはすべてが倒れて絶命し、そのまま黒い瘴気となって消滅した。
とりあえず、目の前の敵はすべて一掃されたようである。
未だ信じられないような顔でその光景を見ながら、槍使いの子がぽつりとつぶやく。
「ライトニングチェインって言ってたように思えたんだけど、聞き間違いかな……」
「いえ、そのライトニングチェインです」
僕の言葉を聞いて、女の子は弾かれたようにこっちを見た。
「うそっ!? ライトニングチェインって、モンスターを三体撃ったあとに消えちゃうやつだよね!?」
「それは市販のやつなので……」
信じられないような顔をしていたが、先ほどの雷光の猛威は現実に起きたことである。
「ま、まあとにかく助かったのは事実みたい。ありがとね」
人懐っこい笑顔でにっこりと笑う目の前の子を、僕は改めて見つめた。
手に持つ槍は両手で使うのに適した長柄のもの。動きやすさを重視していそうな鎧は、ところどころ新しい傷がついていた。
栗色の髪の毛を小さなリボンで飾り、一部の長い髪の毛は三つ編みにされて垂れ下がっている。瞳の色は髪の毛とほぼ同系色だ。
僕を連れて来た女の人より若く、おそらく僕と同年代だろうと思えた。背丈も僕と同じくらい。
そこに、新しく駆け寄る足音が聞こえてきた。
「リンネさん! 頼まれたスクロールを全て持ってき……あら?」
振り向いた僕の目に映ったのは、金色の髪を持つ気品に満ちた美しい人だった。白と黒を基調とした色合いのローブとベールをまとっている。その衣服は聖なる力でゲートを破壊する女性たちが身に着けるものだ。
バッグを腰に提げ、柄の長いハンマーを背負っている。さらに大量のスクロールを両腕に抱えていた。
聖杭会――ハンマーでゲートに聖なる杭を打ち込み、異界につながる門を粉砕するために存在する組織。彼女はその一員に違いない。
実際に聖杭会の仕事を見たことはないのだけど、きっとこの人ならゲートを破壊できるはずだ。




