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剣士との出会い

 ほうきにまたがって空を飛びはじめてから、かなりの時間が経つ。

 ドイゾアック商会の本部がある都市からずいぶんと遠くまで来てしまった。

 そろそろブルームスターの効果時間も切れる頃だ。この高さから地上に放り出されたらただでは済まない。そうなる前に地面に降りないと。


 そんな時、ふと地上に視線を向けた僕の目にたくさんの人影が映った。

 高度を下げてそちらへ進路を変えた僕は、やがてその大多数を占める人影の正体に気づく。


 あれは……ゴブリン!


 恐るべきモンスターであるゴブリンの群れが、誰かを襲っているようだ。

 その人を助けるため、僕はまたがるほうき星を最大限に加速させた。


   ◇◆◇◆◇


 片手でも両手でも扱える柄の長い剣――バスタードソードが振るわれる。

 とびかかるゴブリンが次々に切り伏せられ、大地に転んで動かなくなる。

 そのたびにモンスターの証である黒い瘴気がその死体からあふれ、やがて死体もろとも消えていった。


 時折混ざるホブゴブリンすら、大して苦戦もせずに切り捨てている一人の剣士。

 そのたびに緑系色のロングヘアーがなびく。まだ顔かたちは判別できないけど、どうやら女性のようだ。


 ……見とれてる場合じゃなかった。まだゴブリンたちの数は多い。


 僕は速度と高度を落として地上すれすれでほうきから飛び降り、バッグから新しいスクロールを取り出しながら駆けつける。


「そこの人! 離れてください! 魔法を使います!」


 僕の声に剣士は振り向き、うなずく間もなくその場から飛びのいた。

 巻き込む心配がなくなった僕は、スクロールを封じてある封蝋ふうろうをパキッと割ってコマンドワードを叫ぶ。


顕現けんげんせよ! ファイアーボール!」


 たちまちほとばしった大きな火球がゴブリンの集団へ着弾し、一撃でゴブリンたちをすべて吹き飛ばした。

 ろくに原型をとどめず散らばったゴブリンたちの肉塊は、やがて黒い瘴気となってこの世から消滅する。

 しばらく何も言わずにその様を見ていた剣士だったが、ゆっくりと僕の方へ振り向いた。


「ありがとう」


 剣士が涼やかな声でお礼を述べる。とても魅力的な笑顔の女性だった。おそらく僕よりも年上だろう。その体は曲線的な金属製の鎧に包まれている。

 女性は僕と、さっきファイアーボールが着弾した場所とを交互に見て、感心したようにつぶやいた。


「すごいわね……上位魔法のファイアーストームってやつ? 初めて見たわ」

「いえ、ファイアーボールです」


 戦いの最中だったこともあって、さっきの僕のコマンドワードが正確に聞こえていなかったようだ。僕の訂正を聞いて女の人は驚いたように向き直り、目をぱちくりとさせる。


「え? ……ファイアーボールのスクロールなら私も使ったことあるけど、こんな威力はなかったわよ? ゴブリンならせいぜい二、三体を巻き込むくらいで……」

「それは市販のものだと思います。僕のは自作なので」

「自作!? ……って、今はそれどころじゃないんだった」


 なごやかな雰囲気を帯びていた女性が、たちまち厳しい顔つきとなった。髪と同じような緑系色の瞳が、僕の目を見る。

 女性の身長は僕よりもちょっとだけ高い。

 ほんの少し彼女を見上げた僕は、凛々しさと美しさとをあわせ持つその容姿にドギマギしてしまう。


「ごめん、お願いがあるの。きみの力を貸してくれない?」

「ひょっとしてまだモンスターがいるんですか?」

「ええ。私の村のそばにゲートが出来ちゃったの」


 僕の確認に女性はそう言葉を返した。ゲートとは、簡単に説明するなら地面から異界のモンスターが続々と出てくる円形の紋様のことだ。


「こいつらはそのゲートから出てきた奴らなんだけど、派手に挑発して村から引き離し、多数おびき寄せて戦ってたところをきみが助けてくれたってわけ。でもまた新たにモンスターが現れるはず。村で戦えるのはあと一人だけなの。だから……」

「なるほど、そういうことなら分かりました。案内してください」

「ありがとう! こっちよ!」


 僕の返事を聞いた女性はすばやく僕の手を握る。

 彼女の手に引かれるまま、僕はその村を目指して走り出した。

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