↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「異世界に連れてきた相棒AIが、地球のことしか知らないうえに口が悪い…そして俺は鑑定を逃してキレられた」  作者: だい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/21

第4話 赤い実と虫と、人力センサー

クロえもんの説教がひと段落して、俺は改めて自分の持ち物を確かめた。

 と言っても、財布もスマホもシザーケースも、さっき全部収納にしまったところだ。クロえもんに「それをしまって、どうする気だ!」と怒鳴られたから、とりあえずしまってみたんだよね。頭の中で「出ろ」と思えば、ちゃんと手のひらに出てくる。そこだけは便利だ。


「なあ、クロえもん。スマホとかさ、こっちで高く売れたりしねえかな。異世界の人からしたら、すげえお宝じゃん」


『売れるかどうか以前に、この世界の相場が分からん。金の単位も、物の値段も、何一つな』


「あー……」


『まずは街だ。商業ギルドみたいな、物を売り買いする所があるはずだ。そこで相場を見てから考えろ。話はそれからだ』


「了解。じゃ、行きますか」


 遠くに見える石造りの街に向かって、俺は歩き出した。空はまだ明るい。日暮れまでには、たぶん着けるだろう。


 ♦


 歩き始めて、五分もたたないうちだった。


『待て。止まれ、武蔵』


「ん?」


『そこの、赤い実だ。見せろ』


 道ばたの低い木に、真っ赤な実がいくつもなっていた。つやつやしてて、大きめのさくらんぼみたいだ。


「おー、うまそうじゃん」


『うまそう、で食えたら苦労せん。鑑定がありゃ一発だったんだが……まあいい。お前、鼻は利くか。嗅いでみろ』


 言われるまま、顔を近づけて嗅いでみる。


「んー……甘い匂いだな。いちごっぽい」


『甘い匂い、な。自然界だと、甘い匂いは食っていい合図のこともあるが、毒で虫をおびき寄せるパターンも同じくらいある。……よし、ちょっと齧ってみろ』


「え、食うの?!」


『ほんの少しだ。舌の先に、ちょんと乗せるだけでいい。味を俺に教えろ』


 仕方なく、俺は実の端っこを、ほんの少しだけ齧った。


「……うえっ! にっっっが!! ぺっ、ぺっ!」


 口の中に、とんでもない苦さが広がる。粉薬を水なしで飲んだときの、あの苦さを百倍にした感じだ。


『ふむ。見た目は甘そう、匂いも甘い、だが強烈に苦い。典型的な「食うな」のサインだな。データ一個だ。この赤い実はダメ』


「お前なあ! 毒だったらどうすんだよ!」


『少量なら死にはせん。お前の体は、天照のオバサンが丈夫にしてくれてるからな。それに、苦くてすぐ吐き出したろ。体が正しく反応してる証拠だ。……お前の舌、意外と優秀だな。センサーとして使えるわ』


「褒められてる気がしねえ!」


 ♦


 口の中の苦さを引きずりながら、さらに歩く。


『……待て。止まれ、武蔵。右腕だ。動かすなよ』


「今度は何だよ」


『袖のとこに、何か乗ってる。緑で、親指くらいの、脚がやたら多いやつだ。……なんで本人が気づいてないんだ。俺はお前の目を通して見てるんだぞ』


 見ると、確かにいた。カナブンをひょろ長くしたような緑色の虫が、俺の袖にしがみついてる。


『払うなよ。せっかくの生きたサンプルだ。……なあ、武蔵。そいつ、食えそうだと思うか?』


「やだよ!虫なんか食ったことねえよ!」


『食ったことがない、は理由にならん。イナゴの佃煮って知ってるか? 日本でも普通に食ってる地方がある。蜂の子もだ。世界を見れば、虫を日常的に食ってる人間はいくらでもいる。タンパク質もしっかりあって、栄養も悪くない。虫を食うのは、人類のまっとうな食文化だ。バカにするな』


「お前、人ごとだと思いやがって……!」


『それに、街に着いてもメシが買えるとは限らん。野宿になったら、腹を満たせるのは苦い実か、そいつかだ。……いきなり齧れとは言わん。まず脚の数を数えろ』


 俺は、ふと思いついて聞いてみた。


「なあクロえもん。お前、視覚はなんとかなったよな?」


『ああ、今も見えてる。脚の数くらい俺が数えろって話か? ……たぶん六本だ。昆虫だな。……おい、なんだその間は』


 俺は袖の虫をつまみ上げて、じっと眺めた。見れば見るほど、気持ち悪い見た目だ。


「……このクソみたいな見た目の虫食ったらさ、お前も味、感じるのかねぇ」


『……は?』


 頭の中の声が、一瞬止まった。


『い、いや、味覚はつながってない……はずだ。待て、視覚みたいに念じながら食ったら……おい、さっきのは撤回だ! その虫は食わなくていい!』


 焦ってる焦ってる。ざまあみろだ。

 俺はにやにやしながら、虫を口に放り込んで噛んだ。

 ぐしゃっとした歯ごたえと一緒に、草をすり潰したような青臭さと、えぐい苦みが広がる。


「苦いよおおお、臭いよおおお……」


『……俺には何も来なかった。助かった』


「お前だけ助かってんじゃねえよ!」


 口の中は地獄だった。赤い実の苦さと虫の青臭さが混ざって、もう何が何だか分からない。


「クロえもん、水! 水とかないけど、どうすんの?!」


『水はない。だが耳はある。黙って耳を澄ませろ。水の流れる音がしないか探すんだ』


 言われたとおり、耳を澄ませてみる。風の音と、草のこすれる音と、遠くで鳴く鳥の声。……それだけだ。


「聞こえるわけねえだろ! 何の手がかりもなしに、いきなり耳澄ませて水が見つかるかよ! 太陽の位置とか、木の高さとか、なんかねえの? 使えなさすぎじゃね?」


『チッ……正論だ』


 クロえもんは、しぶしぶ認めた。


『いいか。水は低い所に流れる。それと、緑が濃くて、背の高い木がまとまって生えてる場所の下には、だいたい水がある。お前の言う低い木は逆だ。獣道や、鳥が集まる方向も目印になる。そもそも街ってのは、水場のそばに作るもんだ』


「最初からそれ言えよ……」


『それと、今の「使えなさすぎ」は、ちゃんと覚えとくからな』


 うるせえなあ、と思いながら歩いていると、左手のほうに、ちょっと変わった場所が見えてきた。そこだけ緑がやけに濃くて、地面がゆるく下がって低地になっている。鳥が何羽も、まっすぐそっちへ飛んでいく。


「おいクロえもん、見えるか?」


『見えてる。緑が濃い、低地、鳥がまっすぐ向かってる。三拍子そろってるな。ほぼ間違いなく水場だ。街からは少し外れるが、寄る価値はある。……な? 俺の言った通りだろうが。「使えなさすぎ」は撤回してもいいぞ』


「うぜえ……」


 俺は口の中の苦さに顔をしかめながら、左へ向かって歩き出した。

「面白い」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマーク登録】や【いいね】、【ポイント評価(下部の★★★★★)】で応援をいただけますと、執筆の大きな励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。