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没落したポンコツ騎士様を拾いました 〜美味しい料理と、優しい嘘。路地裏から始まる二人のあいまい解決屋生活〜  作者: まったくもー


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第14話:震えるフライパンと、騎士の刃

ドンズ亭の重い木扉が、けたたましい音を立てて蹴り破られた。


 土足で踏み込んできたのは、揃いの黒い革鎧を着た十人以上の男たちだ。

 彼らは抜き身の剣を手にし、食堂のテーブルを次々とひっくり返す。


「お尋ね者の男と、笛を持った女を探している! 匿えば、このボロ宿ごと焼き払うぞ!」


 先頭の男が怒鳴り散らす。

 客たちは悲鳴を上げて逃げ出し、あっという間に食堂は男たちだけになった。


 ドンズが顔を真っ青にして厨房から飛び出した。

 その手には巨大なフライパンが握られている。いつもスープを焦がしている真っ黒なフライパンだ。


「け、帰れ! うちにそんな奴らは……いねえ!」


 ドンズの膝はガクガクと震えていた。

 男たちの剣先が向けられると、彼は両腕で頭を抱え、その場にうずくまってしまった。

 それでも、彼は絶対に厨房の入り口から退こうとしない。


「……退け、親父」

 男の一人がドンズの胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。その時だ。


「おいドンズ。フライパンを鈍器のように力任せに振り回すなど、料理人として二流のすることだぞ。貸せ」


 ドンズの背後から呆れたような声が響き、大男がぬっと姿を現す。

 ジルはドンズの手から真っ黒なフライパンをひったくると、右手で腰の袋からペティナイフを抜いた。


「おいおい、なんだそのオモチャは。リンゴでも剥いてくれるのか?」

 男たちが嘲笑する。


「……リンゴではない。先ほどお前たちが無残に踏み躙った……ネギだ!」

 ジルはひっくり返されたテーブルの下の潰れたネギを指差すと、目尻を吊り上げた。

「俺の神聖な食堂を汚す輩は、この厨房責任者が許さん!」


 次の瞬間、ジルが駆け出した。

 忙しいランチタイムに厨房を立ち回る時の、あの独特の滑るような足捌きだ。


「がっ……!」

 狭い通路を抜けるように男の懐に潜り込み、左手のフライパンの底で男の顎を下から正確にカチ上げた。

 男が白目を剥いて崩れ落ちる。


「なっ……やっちまえ!!」

 残りの男たちが一斉に斬りかかってきた。


 大振りの剣が空を裂く暴力的な風鳴り。

 それを、ジルは飛んでくる熱油を避けるかのような最小限の動きですり抜けていく。


 ——パスッ。ニンジンを刻む時のようなスナップで、手首の腱が的確に弾かれる音。

 ——ゴスッ。重い寸胴鍋を持ち上げる踏み込みで、膝の裏を硬いフライパンの縁が打ち据える鈍い響き。


 剣同士が激しくぶつかる音はない。致命傷となるような、肉を深く裂く重い音もしない。

 ただ、厨房の仕込み作業のように研ぎ澄まされた『音』だけが、断片的に私の耳を打つ。

 その小さな音が一つ響くたび、確実に一人ずつ、男たちの乱暴な足音が床から消えていく。


 私は厨房の影から、ただその姿を見つめていた。

 路地裏で肩を落としていた情けない男の姿は、もうどこにもない。

 それは紛れもなく、本物の厨房責任者の姿だった。客の胃袋と店を守るため、純粋で、無駄に研ぎ澄まされている。


 だが、窓の外からさらに多くの足音が近づいてきた。

 赤い炎の光が窓ガラスをチロチロと舐め始める。隣の空き家に火が放たれたのだ。


 ジルは蹴り倒した男の剣を踏み越え、煙の流れ込む食堂から勝手口を蹴り開けて外へ飛び出した。

 外には、まだ戦える男たちが多数待ち構えている。


「……ジル!」

 私はオカリナを握りしめ、厨房から飛び出した。

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