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没落したポンコツ騎士様を拾いました 〜美味しい料理と、優しい嘘。路地裏から始まる二人のあいまい解決屋生活〜

作者:n416
最新エピソード掲載日:2026/05/08
世界は、へんな音で溢れてる。
水路を流れる水の重たい音。
遠くの駅で吐き出される蒸気の轟音。

それから、人間たちが吐き出す「嘘」の……あの耳の奥を針で刺すような不快な響き。
嫌でもあらゆる音を拾ってしまう私の耳は、いつも痛みを抱えている。
何十年も変わらない土と潮の匂い。

その中で、私は今日も痛みを誤魔化すために、誰かが落とした「あまみ」の欠片を探していた。
「苦い」ものばかりの毎日。
胃の奥を少しだけ温めてくれる報酬や、誰かが不意に差し出してくれた飴玉。やさしい挨拶。
生きる苦痛をほんの一瞬だけ忘れさせてくれるそういう優しいものを、私はいつからか「あまみ」と呼ぶようになっていた。

私にとって、「あまみ」はこの世界で唯一信じられるものだ。

 * * *

雨上がりのゴミ捨て場。そこには、一足のかつては輝いていたであろう高級な革ブーツが、ガラクタの山から空に向かって突き立っていた。
足を止める。
死体なら、音はしない。
バタバタと暴れる振動と、くぐもった声が聞こえてくる。
お酒の匂いもする。

「……ねえ。そこで逆さまになってる、足」
「……」

「もうすぐゴミ回収の荷車が来るよ」
「……」

「そのまま捨てられるつもりなら、その立派なブーツ、私にちょうだい。売れば『あまみ』がいっぱい買えそうだから」
私が声をかけると、ブーツがビクンと怒りで跳ねた。

「……黙れ! 俺はゴミではない! 俺は名門騎士団の、誇り高き分隊長、ヴァージル・グランツ……っ、げほっ! ぺっ、ぺっ! キャベツの芯が喉に……!」
ガラクタの山から這い出してきたのは、想像以上に汚い男だった。
鼻の頭にはバナナの皮が張り付いている。

かつては白かったであろう騎士のコートは、もうどっちが表か裏かも分からない。
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