194.賑やかな祭り
「これより、祝福の儀を執り行います。皆でオルディア様へ祈りを捧げましょう」
キリアの澄んだ声が大聖堂に響いた。
その言葉を合図に、集まった信徒たちは一斉に膝をつく。広い大聖堂が静まり返り、次の瞬間、無数の祈りが重なり始めた。
静かな祈りの波。けれど、その一つ一つが確かな力を持ち、目には見えない流れとなって、ゆっくりとオルディア様のもとへと集まっていく。
「これは……すごい力ですね」
感嘆したようにオルディア様が呟いた。
「では、あとはキリアに任せます」
そう言うと、集まった祈りの力をそっとキリアへと渡す。その瞬間、キリアの体に柔らかな光が宿った。
キリアは一歩前へ進み、静かに両手を広げる。そして、受け取った祈りの力を大聖堂へ解き放った。
次の瞬間――まばゆい光が、大聖堂いっぱいに広がった。
天井から降り注ぐように、無数の光の粒が舞い落ちる。それはまるで、祝福の雨のようだった。
柔らかな光が信徒たちを包み込み、静かな温もりが場を満たしていく。
「……おお……」
誰かが小さく声を漏らす。やがて、その感嘆は歓声へと変わった。
「すごい……!」
「オルディア様の祝福だ!」
「ありがたい……!」
先ほどまで静まり返っていた大聖堂は、一気に活気に満ちた空間へと変わる。人々の顔には喜びが溢れ、あちこちで感謝の言葉が上がっていた。
そんな中、キリアはゆっくりと手を下ろし、穏やかな声で告げる。
「これで、オルディア様の祝福は皆様に授けられました」
信徒たちは一斉に顔を上げる。
「祝福を受けた皆様には、これからオルディア様の加護が宿ることでしょう。どうか、その恵みに感謝しながら日々をお過ごしください」
その言葉が締めくくりとなり、大聖堂は割れんばかりの歓声に包まれた。
拍手。感謝の祈り。喜びの声。
人々は何度も「ありがとうございます」と口にしながら、天を仰いでいる。やがてキリアは、少しだけ柔らかな笑みを浮かべて言った。
「さあ、大行事はこれで終了です。あとは祭りを思いきり楽しんでください」
その瞬間だった。信徒たちは手に持っていた花びらを、一斉に天井へ向けて放った。ふわり、と舞い上がる無数の花びら。
赤、桃、白、金――色とりどりの花びらが光の中でゆっくりと舞い落ちていく。光の粒と花びらが重なり合い、大聖堂の中に幻想的な光景が広がった。
まるで、祝福そのものが形になったかのような美しい景色だった。
◇
通りに出ると、人が溢れかえっている。屋台が所狭しとならび、あちこちで威勢の良い声が響いていた。
「くぅ~! これです、これ! これを私は求めていたんです! 楽しいところに人生の糧があり!」
そんな通りを前にして、オルディア様ははしゃぎにはしゃいでいた。目をキラキラと輝かさせて、子供よりも忙しなく動き回っている。
「もう、オルディア様……落ち着いてよー」
「それだと、人の邪魔」
そのはしゃぎっぷりにランカとクロネは呆れ顔。だけど、私は知っている。二人がうずうずして、しっぽが激しく揺れているところを。
「そんな悠長な事を言ってられません! 祭りは有限! 一分一秒も無駄には出来ません! さぁ、繰り出していきましょう! 祭りを存分に楽しむんです!」
「わぁ! 引っ張らないでよ!」
「……子供か」
堪らずにオルディア様がランカとクロネの手を引っ張って、人込みに紛れていく。私も慌てて、その後を追う。
祭りに繰り出した私たちは、すぐに人の波へと飲み込まれた。屋台の前には長い列ができ、焼き物の香ばしい匂いがあちこちから漂ってくる。甘い香り、香辛料の匂い、揚げ物の音。耳も鼻も忙しい。
「とりあえず全部買いましょう!」
オルディア様が真っ先に屋台へ突撃した。
「全部って何!?」
「……正気?」
ランカとクロネが呆れた声を出すが、オルディア様は聞いていない。
「これください! それとそれと、それも!」
指を差して次々に注文していく。串焼き、揚げパン、肉団子、焼き魚、甘い菓子。気がつけば、私たちの手には食べ物が山のように積み上がっていた。
「さすがに多すぎませんか……?」
私は思わず苦笑する。
「問題ありません! 祭りは食べるのも醍醐味です!」
オルディア様は胸を張った。結局、近くの広場の端に腰を下ろし、四人で食べ始める。
「んー! おいしい!」
「これ、香辛料強いね……」
「……でも悪くない」
それぞれ感想を言いながら、あっという間に食べ物は減っていった。食べ終わる頃には、今度はゲーム屋台が目に入る。
「おっ、あれ面白そうです!」
輪投げの屋台だった。
「勝負しましょう!」
オルディア様がやる気満々で言う。
「負けないよ!」
「……まあ、やるなら本気」
四人で並んで挑戦する。結果は――
「やったー!」
ランカの圧勝だった。
「くっ……神の威厳が……!」
「そもそも威厳あったっけ」
クロネの一言に、私は思わず吹き出しそうになる。さらに歩いていくと、人だかりができている場所があった。大道芸人だ。
玉乗りをしたり、棒を回したりして観客を沸かせている。
「これは負けていられませんね!」
なぜかオルディア様が前へ出た。
「えっ」
「……何するの」
次の瞬間、芸人と一緒になって玉を回し始める。妙に器用にこなしていて、観客から拍手が起こった。
「おおー!」
「すごいぞ!」
「やるな、姉ちゃん!」
いつの間にか、場は大盛り上がり。芸人もノリノリで、最後には二人で派手にポーズを決めていた。大きな拍手が起こる。
「いやー、楽しいですね!」
満足そうに戻ってくるオルディア様。そんな風に、私たちは祭りをあちこち歩き回った。
食べて、遊んで、笑って。気がつけば、空は少しだけ夕焼けに染まり始めていた。通りの賑わいはまだ続いている。
人々の笑い声。屋台の呼び声。どこかで鳴る楽器の音。
そんな景色を眺めながら、オルディア様はふと足を止めた。そして目を細めて、微笑んだ。
「……天界から見ていて、羨ましかったんです」
ぽつりと呟く。
「人間は大変な思いをしているのに、よく生きているなって思って」
祭りの喧騒を眺めながら、静かに言葉を続ける。
「でも、こういう瞬間があるから生きていけるんですね」
その横顔には、どこか哀愁があった。神として、ずっと天界で生きてきた存在。きっと、孤独な時間も長かったのだろう。
神にも心がある。だからこそ、限界もある。そうやって自分を押し殺して生きてきたからこそ、人間の自由に憧れていたのかもしれない。
オルディア様は、少しだけ肩をすくめて笑った。
「やっぱり、こういう息抜きが生きる糧になると思うんですよ」
そして、堂々と宣言する。
「だから私は、これからもだらけて楽しく生きたいです!」
その言葉に、私は思わず苦笑した。でも、気持ちは分かる。私も転生前はブラック企業で働く社畜だった。
朝から晩まで働き続けて、余裕なんてなかった。だからこそ、息抜きの大切さはよく分かる。
「息抜きは必要だと思いますが……」
私は少しだけ真面目な顔で言う。
「ほどほどにしてくださいね」
するとオルディア様は、ぱっと笑顔になった。
「じゃあ、ユナが協力してくださいね」
さらっと、とんでもないことを言う。私は思わず苦笑いした。
「……じゃあ、厳しくいきますね」
「そ、そこは優しくお願いします……!」
オルディア様は途端に青ざめ、ぶるっと震えた。その様子に、ランカが吹き出す。
「神様が一番ビビってるじゃん」
「……情けない」
クロネの冷たい一言が追い打ちをかけた。祭りの喧騒の中で、私たちの笑い声が小さく弾けた。
新連載三作はじめました!
「ゴミスキルだと捨てられた少女たち、実は最強の生活能力スキルだったので気楽なスローライフ冒険旅を満喫する」
「推し命の転生者、弱小ポンコツな推し神様のために万能な推し活パワーで騎士爵領を大領地にする」
「過保護なお姉ちゃん系王女を救うために何度も死に戻っていたら、全部バレていて曇らせてしまった」
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